痛風の痛みというのは、陣痛の痛みと匹敵するという話をどこかで読んだことがあるが、実にーー頭のなかがまっ白なのかまっ黒になるのかわからないがーー眩暈がするような痛みだ。痛みの場所は毎度異なる。今回は左膝の裏、つまり「膝窩」である。
ああなんと美しい漢字だろう、「窩」とは。
……露わになった腋窩に彼が唇をおし当てたとき、京子は嗄れた声で、叫ぶように言った。
「縛って」
その声が、彼をかえって冷静に戻した。
「やはり、その趣味があるのか」
京子は烈しく首を左右に振りながら、言った。
「腕を、ちょっとだけ縛って」
畳の上に、脱ぎ捨てた寝衣があり、その傍に寝衣の紐が二本、うねうねと横たわっている。
京子の両腕は一層強力な搾木となる、頭部を両側から挟み付けた。京子は、呻き声を発したが、それが苦痛のためか歓喜のためか、判別がつかない。(吉行淳之介『砂の上の植物群』)
というわけで、肢を伸ばしているだけならたいして痛くないのだが、曲げると激痛が走る。今回の油断は、ひょっとしてこの痛みが懐かしくなったせいなのではないか、と疑うべきかもしれない。