2016年4月24日日曜日

お前さんは曲がつている

美しいものは裸の女神よりも
裸の樹の曲り方だ。(順)

夕方庭に水を撒いていると
プルメリアの古木に西日があたって
その曲がりぐあいがひどく美しい
めったにないことなのに
今夕はしばらく呆然としていた

……この一瞬よりはいくらか長く続く間、という言葉に私が出会ったのはね、ハイスクールの前でバスを降りて、大きい舗道を渡って山側へ行く、その信号を待つ間で…… 向こう側のバス・ストップの脇にシュガー・メイプルの大きい木が一本あったんだよ。その時、バークレイはいろんな種類のメイプルが紅葉してくる季節でさ。シュガー・メイプルの木には、紅葉時期のちがう三種類ほどの葉が混在するものなんだ。真紅といいたいほどの赤いのと、黄色のと、そしてまが明るい緑の葉と…… それらが混り合って、海から吹きあげて来る風にヒラヒラしているのを私は見ていた。そして信号は青になったのに、高校生の私が、はっきり言葉にして、それも日本語で、こう自分にいったんだよ。もう一度、赤から青になるまで待とう、その一瞬よりはいくらか長く続く間、このシュガー・メイプルの茂りを見ていることが大切だと。生まれて初めて感じるような、深ぶかとした気持で、全身に決意をみなぎらせるようにしてそう思ったんだ……

それからは、自分を訓練するようにして、人生のある時々にさ、その一瞬よりはいくらか長く続く間をね、じっくりあじわうようにしてきたと思う。それでも人生を誤まつことはあったけれど、それはまた別の問題でね。このように自分を訓練していると、たびたびではないけれどもね、この一瞬よりはいくらか長く続く間にさ、自分が永遠に近く生きるとして、それをつうじて感じえるだけのことは受けとめた、と思うことがあった。……

自分がこれだけ生きてきた人生で、本当に生きたしるしとしてなにがきざまれているか? そうやって一所懸命思い出そうとするならば、かれに思い浮ぶのはね、幾つかの、一瞬よりはいくらか長く続く間の光景なのじゃないか?  (大江健三郎『燃え上がる緑の木 第一部』)  

タバコをやめたから
ダンヒルのパイプを河原のすすきの中へ
すててヴァレリの呪文を唱えた
「お前さんは曲がつている。すずかけの木よ」(順)

だがまだタバコはやめない

この地におとずれて最初に魅せられたのは
プルメリアの樹の曲がりぐあいだ
白い花とその芳香もすばらしい
芳醇な花々をふんだんに身にまとった清純な乙女
というわけではない
たわわな白い花のすこしただれたかおり

庭には百年を超えるという老樹が四本ある
このプルメリアは亜熱帯の樹木には珍しく
ひどく成熟がおそい
豊かな樹幹をえるのは長い年月がかかる

当時は遠くの植木屋までさがしまわって
ようやく手に入れた四本だ
いまあらためてその樹々がいとおしい