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2016年7月9日土曜日

女の脳天まで赤らむような/つよい声で

男について  滝口雅子

男は知つている
しやつきりのびた女の
二本の脚の間で
一つの花が
はる
なつ
あき
ふゆ
それぞれの咲きようをするのを
男は透視者のように
それをズバリと云う
女の脳天まで赤らむような
つよい声で

(……)

男は急いでいる
青いあんずはあかくしよう
バラの蕾はおしひらこう
自分の掌がふれると
女が熟しておちてくる と
神エホバのように信じて
男の掌は
いつも脂でしめつている

ーーー『鋼鉄の足』所収、1960

…………

やあ、すばらしい詩だ
女というのはこういうふうに
男の視線を感じる場合があるのだ
いまの若い女性でもそうなのだろうか

言われてみれば当たり前なんだが
ひと月のあいだにも春夏秋冬があるわけだ
透視者のように/それをズバリと云う
ーーことがあったわけではないが
そう感じて不躾な眼差しを送ったことが
ないわけではない
そのときの掌は脂でしめっていたかも


滝口雅子さんの詩を誰か引用していないかと探っていると
その派生として次の詩に遭遇した


月経   山平和彦

そこにだけはいつも自分がいるという
かくれ家を おんなはもっている
そこにいけばつかれた手足に
血がのぼり
とおいはじめや とおいゆくてが
自分のまんなかをつらぬいて
よみがえってくる場所を
おんなはみんな持っている
そこにいるときは目には見えない
おんなというおんなが
かさなり ひびきあうのを
からだじゅうで感じている
けれどもだれひとり口に出しては云わない
そこにとどいた根は
けっしてかれることがない
そこにはだれも ふみこめない

…………

やあ、これもすばらしい、アルトー的だ
「私の内部の夜の身体を拡張する」
(dilater le corps de ma nuit interne)


ここでなぜかーーあまり関係がないかもしれないがーー、中井久夫の印象的な叙述を抜き出しておこう。

私たちの意識はわずかに味覚・嗅覚をキャッチしているにすぎないけれども、無意識的にはさまざまなフェロモンが働いている。特にフェロモンの強い「リーダー」による同宿女性の月経周期の同期化は有名である。その人の汗を鼻の下にぬるだけでよい。これは万葉集東歌に残る「歌垣」の集団的な性の饗宴などのために必要な条件だっただろう。多くの動物には性周期の同期化のほうがふつうである。(中井久夫「母子の時間、父子の時間」 『時のしずく』所収)




滝口雅子さん(1918~2002)は戦後の女性詩人の中でも早い時期から活動された書き手です。

植民地時代の朝鮮で生まれた方。

幼い時代に父母をなくし、牧場経営者の滝口家の養子として成長し、養父母のもとめる結婚に反対して19歳のとき東京にでて、速記者などで生活。戦後、国会図書館に定年まで勤めながら作品を書きました。

生前に出版した詩集は7冊。

英語やポーランド語、中国語などに訳されています。(滝口雅子『男について』