ーーじつに美人ぞろいだ、膝上スカートもとってもいい。
若いバッハは、入念に粉を振った最新の鬘をつけ、若い女を連れ、パイプをくわえて街をそぞろ歩く伊達男だったと言われる。音楽がまだ化石になっていないのも、そこにただようエロティシズムの記憶のせいかもしれない。(踊れ、もっと踊れ 高橋悠治)
とはいえ、Herrewegheによる冒頭はことさら美しい。真の声の美女である。どんな服装なのかは知らぬが、乙女たちの足どころか裸まで想像させる声である。
◆BWV230 Motet Lobet den Herrn alle Heiden Philippe Herreweghe 1985
ーーもちろん裸とは乙女たちの裸の魂のことであり、蛇足ながら世間には勘の鈍い種族が存在するのでここに付け加えておく。いずれにせよ、《女が欲するものは神が欲するものである。[ Ce que femme veut, Dieu le veut.] (Alfred de Musset, Le Fils du Titien, 1838)。男は不幸なことに女を経由しなくては神が欲するものに至りえない。
鈴木雅明指揮ものは、上の二つよりもやや美女度が劣る。たぶんロングドレス揃いなんだろう。
◆J S Bach MOTET BWV 230 “Lobet den Herrn alle Heiden” Masaaki Suzuki, 2009
あまり関係がないが、すこし前拾って書き写した次の文を貼り付けておく。
平素以上に埋葬の多い場合には収入もそれにつれて増加しますが、ライプチヒは空気がすこぶる快適なため、昨年の如きは、埋葬による臨時収入に百ターレルの不足を見たような次第です。(バッハの手紙ーーデュアメル『慰めの音楽』尾崎喜八訳より)