ーーいやあ、ちょっとグッときてしまうな
飲んでるんだろうね今夜もどこかで
氷がグラスにあたる音が聞える
きみはよく喋り時にふっと黙りこむんだろ
ぼくらの苦しみのわけはひとつなのに
それをまぎらわす方法は別々だな
きみは女房をなぐるかい?
ーー谷川俊太郎「武満徹に」
氷がグラスにあたる音が聞える
きみはよく喋り時にふっと黙りこむんだろ
ぼくらの苦しみのわけはひとつなのに
それをまぎらわす方法は別々だな
きみは女房をなぐるかい?
ーー谷川俊太郎「武満徹に」
(『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』所収)
Like Rain it sounded till it curved
And then I knew 'twas Wind -
It walked as wet as any Wave
But swept as dry as sand -
When it had pushed itself away
To some remotest Plain
A coming as of Hosts was heard
That was indeed the Rain -
It filled the Wells, it pleased the Pools
it warbled in the Road -
It pulled the spigot from the Hills
And let the Floods abroad -
It loosened acres, lifted seas
The sites of Centres stirred
Then like Elijah rode away
Upon a Wheel of Cloud.
こうして、あれがタマシヒであることを知った
タマシヒのこの世での故郷は音楽
耳に聞こえる音が描く見えない地平を越えて
タマシヒは帰ってゆく
どこまで帰るのだろうとヒトは訝る
…………
音楽が曲の終りでディミヌエンドして
だんだん音がかすかになっていって
静けさに溶け入ってゆくときの
言葉がとうに尽きてしまった
絶え入るような世界の感触
私の耳で
タマシヒが
まどろんでいる
ーー谷川俊太郎『おやすみ神たち』より
……葬儀に帰られたKさんと総領事が、伊東静雄の『鶯』という詩をめぐって話していられた。それを脇で聞いて、私も読んでみる気になったのです。〈(私の魂)といふことは言へない/しかも(私の魂)は記憶する〉
天上であれ、森の高みであれ、人間世界を越えた所から降りてきたものが、私たちの魂を楽器のように鳴らす。私の魂は記憶する。それが魂による創造だ、ということのようでした。いま思えば、夢についてさらにこれは真実ではないでしょうか?
私の魂が本当に独創的なことを創造しうる、というのではない。しかし私たちを越えた高みから夢が舞いおりて、私の魂を楽器のようにかきならす。その歌を私の魂は記憶する。初めそれは明確な意味とともにあるが、しだいに理解したことは稀薄になってゆく。しかしその影響のなかで、この世界に私たちは生きている…… すべて夢の力はこのように働くのではないでしょうか? ………(大江健三郎『燃え上がる緑の木』第三部)
耀かしかつた短い日のことを
ひとびとは歌ふ
(……)
私はうたはない
短かかつた耀かしい日のことを
寧ろ彼らが私のけふの日を歌ふ
ーー伊東静雄『反響』「わがひとに與ふる哀歌」所収