にきびを搾るのが好きな女がいるね
そういった女が好きだな
いつごろからそうなったのか
今の妻はよくやる
「わたしは相手の顔にかぶさって
顔のすみずみからにきびを搾った」
という風に
「背中にほくろ様のものがある
もりあがっているから分かる
搾ると頭の黒い脂がぬるりと出る
みみのうらも脂がたまり
搾るとぬるぬるぬるぬると出た」
もりあがっているから分かる
搾ると頭の黒い脂がぬるりと出る
みみのうらも脂がたまり
搾るとぬるぬるぬるぬると出た」
という具合だ
月に一度くらいはとてつもないヒステリーを起こすけど
妻を愛しているね
とっても
いやシツレイ!
のろけて
iPadを買い替えると
いくらかファイル整理をしなくちゃならない
久しぶりに昔の写真を眺めていた
安吾に「ジロリの女」という作品があるけどさ
このジロリに戦慄し魅惑されたよ
「私は三人のジロリの女をモノにしたいと専念する。
愛するが為よりも、彼女らに蔑まれている為である。」
女の感覚は憎悪や軽蔑の通路を知るや極めて鋭く激しいもので、忽ちにして男のアラを底の底まで皮をはいで見破ってしまう。そして極点まで蔑み憎んでいるものだ。(坂口安吾「ジロリの女」)
妻の名は漢字でかけば玉河
二十年間たたかってきたのさ
愛し憎んで
⋯⋯⋯⋯
小田急線喜多見駅周辺 伊藤比呂美
踏切を渡って徒歩10分のアパート
の部屋に入る
何週間か前に踏切で飛びこみがあった
踏切に木が敷かれてある
木に血が染みていた
線路のくぼみの中に血のかたまりと
臓器のはへんらしいものが残っていた
わたしたちは月経中に性行為した
アパートの部屋に入るとラジオをつける
わたしは相手の顔にかぶさって
顔のすみずみからにきびを搾った
剃りのこした頬のひげを抜いた
背中を向けさせた
背中にほくろ様のものがある
もりあがっているから分かる
搾ると頭の黒い脂がぬるりと出る
みみのうらも脂がたまり
搾るとぬるぬるぬるぬると出た
はでけをかんで引くと抜ける
わたしはつめかみだ
つめがない
つめではけがつかめない
はでやるとかならず抜ける
男の頬がすぐ傍に来るいつもつめたい
ひげが皮膚に触れた
ひげは剃ってある
剃りあとを感じる
前後に性行為する
荒木経惟の写真たちの中に喜多見駅周辺の写真を見てあこれはわたしが性交する場所だと思って恥ずかしいと感じたのだわたしは25歳の女であるからふつうに性行為する。板橋区から世田谷区まで来る来るとちゅうは性行為を思いださない性欲しない車外を行き過ぎる世田谷区の草木を見ているこの季節はようりょくそが層をなしている飽和状態まで水分がたかまる会えばたのしさを感じるだから媚びて手を振るが性行為を思いだすのはアパートの部屋でラジオをつけた時である
性行為に当然さがつけ加わった
踏切を渡って駅に出る
もしかしてぬるぬるのままの性器にぱんつをひっぱりあげて肉片の残る喜多見の踏切を渡ったかもしれないのである
水分はあとからあとから湧きでて
ぱんつに染みた