2019年6月15日土曜日

逃げ切れない世代

古井由吉は、1937年生まれで、今年82歳。

・近代の資本主義至上主義、あるいはリベラリズム、あるいは科学技術主義、これが限界期に入っていると思うんです。五年先か十年先か知りませんよ。僕はもういないんじゃないかと思いますけど。あらゆる意味の世界的な大恐慌が起こるんじゃないか。

・その頃に壮年になった人間たちは大変だと思う。同時にそのとき、文学がよみがえるかもしれません。僕なんかの年だと、ずるいこと言うようだけど、逃げ切ったんですよ。だけど、子供や孫を見ていると不憫になることがある。後々、今の年寄りを恨むだろうな。(古井由吉「すばる」2015年9月号)


経済学者池尾和人氏は、1953年生まれで、今年66歳。

…むしろデフレ期待が支配的だからこそ、GDPの2倍もの政府債務を抱えていてもいまは「平穏無事」なのです。冗談でも、リフレ派のような主張はしない方が安全です。われわれの世代は、もしかすると「逃げ切れる」かもしれないのだから...(これは、本気か冗談か!?)(池尾和人「われわれの世代は、もしかすると「逃げ切れる」かもしれない」2009年)


哲学者檜垣立哉氏は、1964年生まれで、今年55歳。

kumatarouguma 檜垣立哉
この資本主義社会が今後数十年続くなんてどういう脳天気なアタマしたらそんな馬鹿げたことが考えられるのか知りたいよ。そもそも高齢化で総崩壊するだろ。それで誰も未来の革命概念もっていない。どうするの。俺知らないよ。逃げるよ。(2019年06月14日)


こう並べて何が言いたいわけでもないが、日本の多くの人はいまだユートピアンのままという実態はある。

一つのことが明らかになっている。それは、福祉国家を数十年にわたって享受した後の現在、…我々はある種の経済的非常事態が半永久的なものとなり、我々の生活様式にとって常態になった時代に突入した、という事実である。こうした事態は、給付の削減、医療や教育といったサービスの逓減、そしてこれまで以上に不安定な雇用といった、より残酷な緊縮策の脅威とともに、到来している。

… 現下の危機は早晩解消され、ヨーロッパ資本主義がより多くの人びとに比較的高い生活水準を保証し続けるだろうといった希望を持ち続けることは馬鹿げている。いまだ現在のシステムが維持可能だと考えている者たちはユートピアン(夢見る人)にすぎない。(ジジェク、A PERMANENT ECONOMIC EMERGENCY、2010年)

古井由吉やジジェクのいう世界経済崩壊を脇においても、 日本が高齢化で総崩壊するのはもはや必然である。あらゆるデータがそれを示している。

エキスだけ抜き出せばこうである。



上の数字は、以下のデータから。











過去にさかのぼったエキスを示せば次の通り。



ーー2018年の数字は実績だったり実績見込みだったりして、若干の異同はある。









そして、このところ何度か示している武藤敏郎案(大和総研、2013)とは、目指すべき社会保障費を推測して簡潔に示してしまえば次の内容。





社会保障費削減とは言うが、削減というよりも2018年の社会保障給付費実績見込み120兆円を、今後微増だけにする必要があるということ(もちろんこれは殆ど実現不可能だろうが、これでないとデフォルトは避けがたい)。


■武藤敏郎案(2013年)
令和の徳政令



国民負担率の各国比較及び内訳は次の通り。



ーー事実上、国民負担率を上げるためには消費税増しかない。そして少子高齢化比率が一番高い国で、この低い国民負担率を継続してきたことこそ、なによりもまず第一の失策である。


公的年金所得代替率については、小黒一正が最近まとめたものがある。

高成長(24年度以降の実質GDP成長率が0.4~1.4%)を前提とする5ケースでも、現在62.7%の所得代替率は50.6~51%に低下し、約30年後の給付水準は2割減となることを明らかにしている。14年におけるモデル世帯の年金月額21.8万円のイメージでいうならば、それから2割低い水準とは、年金月額が17万円に低下することに相当する。

 また、低成長(24年度以降の実質GDP成長率がマイナス0.4~0.1%)の3ケースでは所得代替率が50%を下回り、このうちのケースHでは、国民年金の積立金が55年度になくなり完全な賦課方式に移行するとともに、所得代替率が35~37%になる可能性も明らかにしている。(「【2040年の社会保障を考える】公的年金の「財政検証」シナリオを問う」2019.06.05)

あるいは2017年の財務省図表。





だが現在はもはやこれでもないらしい。

「民間委員からは、公的年金の給付水準が今後、低下することを踏まえ、「(試算にある)社会保障給付の19万円は、団塊ジュニア世代から先は15万円ぐらいまで下がっていくだろう。月々の赤字は10万円ぐらいになってくるのではないか」との発言があった」(毎日新聞2019年6月12日

いずれにせよ資産のない高齢者は途轍もなく生き難い世界が訪れる。とくに80歳以上の高齢者が1500万人を超えるとすれば、現行のシステムの継続などということは、神風でも吹かない限り不可能である。







⋯⋯⋯⋯

※付記


一部の経済学者(野口悠紀雄。小黒一正等[参照])がしきりに懸念しているのは、黒田日銀の国債低金利誘導施策がいつまでもは維持できないだろうということである。




国債残高の大幅な伸びにも関わらず、現在、1990年に比べて利払い額が減少している。もしかりに1990年並の利払い率6%になったら、なんと利払い額は、50兆円を超える。50-10=40兆円の利払い増である。これは消費税1%の税収増が約2.5兆円なので、消費税16%に相当する。もしこれが起こったら、上に示した25%に上乗せして40%にしなくてはならない。仮に6%ということはなくても、3%程度の利払い率になる可能性はきわめて高い。


肝腎なのは、1000兆円超の国家債務を抱えてしまった今、経済成長は逆ザヤになる可能性が高いことを知ることである。つまり経済成長による税収増よりも、経済成長に伴って上る確率の高い金利上昇による利払い増のほうが多くなってしまう可能性が高いことを(参照:踏み絵のすすめ)。








※追記






ここでも上のデータからわかりやすいようにエキスを抽出してみよう。




パーセントで示した数字は、高齢者一人を労働人口何人が支えるかという意味であり、たとえば577%とは高齢者一人を労働人口5.8人で支えるということである。

2040年の予測人口構成比率をみると、75歳以上一人を支える労働人口は、2.7人しかいない。ようするに高齢者の定義を65歳から75歳にしても、1990年の65歳以上一人を支える労働人口の半分以下の割合しかない。

つまり年金支給年齢は、65歳から70歳にするどころか、75歳にしてもいまだ1990年における「高齢者一人を支える労働人口」には、まったく到らないということになる。


ちなみに80歳以上の高齢者人口とその労働人口比率も調べてみたが(日本の将来推計人口(平成29年推計)、国立社会保障・人口問題研究所、PDF)、こうなる(最下段)。


もはや数字の読み方は繰り返さないが、日本はいかに高齢者を支えるかの世界に稀にみる実験国なである。