「消費税の代りに姑息に社会保険料増」とは、「日本にはおバカな反消費税派がウジャウジャいるせいで止む無く社会保険料増」としてもよい。
以下、主に元日銀理事の早川英男氏の小論からだが、別の書き手の二文をプレリュードとしてから始める。
法人税増税は賃金率の低下を引き起こす
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法人税の労働への帰着に関する実証分析では,「法人税増税⇒賃金率の低下」「法人税増税 ⇒労働者一人当たり資本の減少」「労働者一人当 たり資本の減少⇒賃金率の低下」という因果関係が検証されている。(法人税の帰着 ―労働は法人税を負担しているのか?― 布袋正樹、2016年)
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社会保険料負担増は賃金引き下げを引き起こす
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企業の社会保険料の負担増は、雇用の調整(労働需要の減退や雇用の非正規化)や賃金の引き下げという形で労働者に転嫁されているとみるのが経済学的な考え方である。社会保険料の負担増は、企業にとっては人件費の増加である。企業がその分雇用を抑制すれば、労働者にとっては雇用機会の縮小という形で負担が転嫁されることになる。また、社会保険料の影響で労働需要が減ると労働市場では賃金(労働の価格)が低下するため、賃下げという形でも労働者の負担(企業にとっては人件費の抑制)になり得る。 (「厚生年金のさらなる適用拡大はなぜ必要か」大和総研政策調査部 研究員 佐川 あぐり、2019年)
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さて早川英男である。 |
早川英男「「賃金税」としての社会保険料」2017年7月14日
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社会保険料=賃金税:賃金税の急速な上昇
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社会保険料は給与の額に応じて支払われるので、課税対象は賃金、すなわち「賃金税」である。しかも、社会保険料は(厚生年金、企業型健康保険については)被保険者と企業が折半で負担する特別な「賃金税」だということになる(注5)。
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しかも、問題はこの社会保険負担が年々大幅な増加を続けている点にある。社会保険料は、どの保険制度に加入しているか、どの地域に住んでいるかによって保険料が異なるが、ここでは、大企業主導で決まる春闘ベース・アップへの影響も意識しながら、厚生年金・健康保険組合の加入者について、全国平均の保険料の推移を見てみよう(【図表2】)。
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社会保険料:10年間で消費税6%超相当分の引き上げ
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そうすると、厚生年金+健康保険で過去10年間に保険料が収入の21.93%から27.35%へと5.4%あまり上昇したことが分かる。通常は収入の方が消費より多く、消費税に関しては非課税品目があることを考えると、14年4月に実施された消費税率の3%引上げ(5%→8%)が2回以上行われたに等しい負担増が生じたことになる。
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家計の社会保険料負担は所得税負担を上回る
企業の社会保険料負担は法人税負担を上回る
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このように社会保険負担が大幅に増えているのに、消費税などと違って負担増があまり意識されていない(したがって政治的反対も少ない)のは、毎月の給料の中から天引きの形で保険料が支払われているからだろう。なお、厚生年金保険料の上昇は今年の18.30%をもって当面打ち止めとなる予定であるが(注6)、健康保険料に関しては後期高齢者医療制度への支援金を中心に今後も保険料の上昇が続く見込みである。こうした社会保険料の増加の結果、驚くべきことに、今では家計の社会保険料負担は所得税等の負担を上回り、企業の社会保険料負担は法人税負担を上回るに至っている(【図表3】)。
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社会保険料増ではなく消費税増をすべき
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こう考えると、社会保障費を税で賄うなら、賃金税より資源配分への悪影響が少ない消費税で賄うべきではないかという疑問が自然に湧いてくる。消費税は逆進的だとされるが、高所得者の社会保険料負担の上限を考慮すると、社会保険料は消費税以上に逆進的であり得る(注10)。にもかかわらず、消費税率引上げは二度までも先送りされ、社会保険料は毎年上がり続ける。それは、消費増税には法改正が必要であり、政治的反発が強い一方で、社会保険料はほぼ自動的に上がっていくからだ。しかし前述のとおり、こうした姑息な形での社会保障負担の増大は、雇用・賃金の不安定化や将来不安等に伴う個人消費の抑制に繋がっている。政治プロセスの非対称性の問題も含め、もう一度「税と社会保障の一体改革」を考え直すべき時ではないかと思う。(早川英男「「賃金税」としての社会保険料」2017年7月14日)
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いやあ、もっとむかしに消費税20%ぐらいにしといたら、今こんなには困らなかったのにな。
消費税の「導入」と「増税」の歴史
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首相
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年月
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大平正芳
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1979年1月
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財政再建のため「一般消費税」導入を閣議決定。同年10月、総選挙中に導入断念を表明したが、大幅に議席を減らす。
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中曽根康弘
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1987年2月
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「売上税」法案を国会に提出。国民的な反対に遭い、同年5月に廃案となる。
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竹下 登
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1988年12月
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消費税法成立。
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1989年4月
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消費税法を施行。税率は3%。その直後、リクルート事件などの影響もあり、竹下首相は退陣表明、同年6月に辞任。
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細川護煕
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1994年2月
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消費税を廃止し、税率7%の国民福祉税の構想を発表。しかし、連立政権内の足並みの乱れなどから、発表翌日に撤回。
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村山富市
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1994年11月
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消費税率を3%から4%に引き上げ、さらに地方消費税1%を加える税制改革関連法が成立。
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橋本龍太郎
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1997年4月
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消費税率を5%に引き上げ。
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鳩山由紀夫
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2009年9月
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「消費税率は4年間上げない」とするマニフェストで民主党が総選挙で勝利、政権交代を実現。
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菅直人
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2010年6月
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参院選直前に「消費税10%」を打ち出し、選挙に惨敗。
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野田佳彦
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2012年6月
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消費税率を2014年に8%、15年に10%に引き上げる法案を提出。8月10日、参院本会議で可決成立。
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安倍晋三
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2014年4月
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消費税率を8%に引き上げ。
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2014年11月
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2015年10月の税率10%への引き上げを2017年4月に1年半延期。
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2016年6月
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2017年4月の税率引き上げを2019年10月に2年半延期。
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2018年10月
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2019年10月に税率10%に引き上げる方針を表明。
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2019年10月
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消費税率を10%に引き上げ。軽減税率を導入し、食品(外食・酒類を除く)と宅配の新聞の定期購読料は現行の8%の税率を維持する。
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せめて細川護煕が国民福祉税と言ったときとかに10%、野田佳彦のころに15%から20%にしといたら。
一般公衆が消費税嫌いのは無理ないとして、日本のデマゴーグはーーこれは悪い意味じゃなくて語源としての「大衆を導く者」として使うがーー、どうして大衆と同じぐらいアホなんだろ。
ボクはむかしは岩波朝日文化支持の者として一応左翼シンパでやってたんだけど、実際のところを見ると左翼こそどうしようもないね。
蓮實重彦)エリート教育をやったほうが、左翼は強くなるんですよ。エリートのなかに絶対に左翼に行くやつが出るわけですよね。
(……)ところがいまは、エリート教育をやらないで、マス教育をやって、何が起こるかというと、体制順応というほうに皆行っちゃうけどね。(柄谷蓮實対談集『闘争のエチカ』)
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