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2020年4月20日月曜日

膝のまるみ

蚊居肢日乗 令和弍年四月弍十日 齢六十弍歳

微恙あり。昨晩雨季のはしりの雨があり、今朝窓を開けるといっきに開いた素馨の薫に驚く。女の庭の匂である。




何よりもまず膝のまるみである、この写真にひどく魅了されるのは。

老婆に膝枕をして寝ていた。膝のまるみに覚えがあった。姿は見えなかった。ここと交わって、ここから産まれたか、と軒のあたりから声が降りた。(古井由吉「白い軒」『辻』)


ああ、なかった、こういう経験が。じつに不幸な思春期を送ってしまった。思い返せば一生の悔いである・・チャンスは何度かあったのだが・・・当時はまだ欲望ばかりで享楽に思い至らなかった・・・地獄が天国だとが知らなかったのである。


トカゲの自傷、苦境のなかの尻尾切り。享楽の生垣での欲望の災難 l’automutilation du lézard, sa queue larguée dans la détresse. Mésaventure du désir aux haies de la jouissance(ラカン,E 853)

この小径は地獄へゆく昔の道
プロセルピナを生垣の割目からみる
偉大なたかまるしりをつき出して
接木している

ーー西脇順三郎「夏(失われたりんぼくの実)」


接木の仕方はちょっとちがうが、何よりもまずこの感覚である。女の庭との結婚といってもよい。


野ばらと人間の結婚 
この生垣をのぞく
女の庭

ーー「アタランタのカリドン」


ファウスト(娘と踊りつゝ。)

いつか己ゃ見た、好い夢を。
一本林檎の木があった。
むっちり光った実が二つ。
ほしさに登って行って見た。    

美人

そりゃ天国の昔からこなさん方の好な物。
女子に生れて来た甲斐に
わたしの庭にもなっている。

メフィストフェレス(老婆と。)

いつだかこわい夢を見た。
そこには割れた木があった。
その木に□□□□□□があった。
□□□□けれども気に入った。    

老婆

足に蹄のある方と
踊るは冥加になりまする。
□□がおいやでないならば
□□の用意をなさりませ。

ーーゲーテ「ファウスト」 森鴎外訳

MEPHISTOPHELES (mit der Alten): 

Einst hatt ich einen wüsten Traum 
Da sah ich einen gespaltnen Baum, 
Der hatt ein ungeheures Loch
So groß es war, gefiel mir's doch.    

DIE ALTE: 

Ich biete meinen besten Gruß 
Dem Ritter mit dem Pferdefuß! 
Halt Er einen rechten Pfropf bereit, 
Wenn Er das große Loch nicht scheut.