ゲンの馬鹿 斎藤庸一
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たった一言申し上げやんす
おらに嫁さま世話してくれるだば
どうかこういう嫁こをお願い申しやす
気をもたせたり気をひいたり
さわらせたりよく見せっぺとしたり
喋ってばかりでハイカラが好きは御免でやす
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丈夫な体でやや子生める腰をもち
子供がごっくごっくのめるおっぱいをもち
手首まあるく目は子供っぼく
遠いとこから おらを見ていて
おらが目えやると目をふせてしまう
がんばりできかなくて押しが強くて
それをしんにひそめて口には出さず
一俵の米を背負い
あいさついい声で おじぎつつましく
ぼろを着て色っぽく
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馬にまたがり野をかけ草刈場にいけば
汗かいて三束より五束刈り
つみとった一輪の桔梗をお先祖さまに上げ
としよりにやさしく 己にきつく
誠にはや申訳もごぜえやせんが
たった一言がながなが語りやしたが
どうかお願い申しやす
いい嫁こを おたのみしやす。
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………… ーー結婚後
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あんたは臭いから嫌だ
小川で洗うこやし桶くさい
朝は湯気たつつみ藁くさい
ニワトリひねった首の血くさい
田の草とりのドブガスくさい
吐きだす息のどろくくさい
そんなヤバンなキッスはやだ
胸の毛むくじゃら湯瀧くさい
そんな仏くさい抱っこはやだ
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