このブログを検索

2020年10月11日日曜日

エイリアンの身体はレミニサンスする


フロイトが頻用したブロイアー起源の「異物 Fremdkörper」とは、ラテン語の「エイリアンの身体 corpus alienum」から来ている。


ところであなたはどう思うだろうか、私のすべての新しいヒステリー 前史理論はすでに知られており、数世紀前には何百回も出版されているという見解について。あなたは覚えているだろうか、私がいつも言っていたことを。中世の理論、強迫観念の霊的法廷は、私たちの異物理論[Fremdkörpertheorieと意識の分裂と同一だと。


Was sagst Du übrigens zu der Bemerkung, daß meine ganze neue Hysterie-Ur-geschichte bereits bekannt und hundertfach publiziert ist, allerdings vor mehreren Jahrhunderten? Erinnerst Du Dich, daß ich immer gesagt, die Theorie des Mittelalters und der geistlichen Gerichte von der Besessenheit sei identisch mit unserer Fremdkörpertheorie und Spaltung des Bewußtseins?  (フロイト、フリース宛書簡、Freud: Brief an Wilhelm Fließ vom 17. Januar 1897)



エイリアンの身体は、むかしから、いやむかしのほうがはるかに、レミニサンスすることが知られていたのである。


トラウマないしはトラウマの記憶は、異物 [Fremdkörper] のように作用する。この異物は体内への侵入から長時間たった後も、現在的に作用する因子として効果を持つ。〔・・・〕この異物は引き金を引く動因として、たとえば後年の目覚めた意識のなかに心的な痛みを呼び起こす。ヒステリー はほとんどの場合、レミニサンスに苦しむのである。


das psychische Trauma, respektive die Erinnerung an dasselbe, nach Art eines Fremdkörpers wirkt, welcher noch lange nach seinem Eindringen als gegenwärtig wirkendes Agens gelten muß..[…] als auslösende Ursache, wie etwa ein im wachen Bewußtsein erinnerter psychischer Schmerz […]  der Hysterische leide größtenteils an Reminiszenzen.(フロイト&ブロイアー 『ヒステリー研究』予備報告、1893年)


フロイトはヒステリー研究から始めたのでこう言っているが、人間の原症状としてのリアルな症状はすべて異物のレミニサンスが原点にあり、シンボリックな症状はこの異物に対する防衛である。


まさに最初期の生の享楽、そのレミニサンスの背後の夢は、未知の未来、不気味な未来の、最も耳を覆いたくなる思考を隠蔽している。gerade hinter dieser Reminiszenz frühesten Lebensgenusses verbirgt der Traum die betäubendsten Gedanken an eine unbekannte und unheimliche Zukunft.  (フロイト『夢解釈』第6章「夢の中の情動」1900年)



こういった思考はラカンも同様だ。



レミニサンスする現実界

私は問題となっている現実界は、一般的にトラウマと呼ばれるものの価値をもっていると考えている。これを「強制 forçage」呼ぼう。これを感じること、これに触れることは可能である、「レミニサンス réminiscenceと呼ばれるものによって。


Je considère que […] le Réel en question, a la valeur de ce qu'on appelle généralement un traumatisme. […] Disons que c'est un forçage.  [] c'est ça qui rend sensible, qui fait toucher du doigt… mais de façon tout à fait illusoire …ce que peut être ce qu'on appelle la réminiscence.   (Lacan, S23, 13 Avril 1976)



現実界=不気味な異者(エイリアン)

フロイトのモノを私は現実界と呼ぶ。La Chose freudienne […] ce que j'appelle le Réel (ラカン, S23, 13 Avril 1976)

このモノは分離されており、異者の特性がある。ce Ding […] isolé comme ce qui est de sa nature étranger, fremde.  …モノの概念、それは異者としてのモノである。La notion de ce Ding, de ce Ding comme fremde, comme étranger, (Lacan, S7, 09  Décembre  1959)

異者とは、厳密にフロイトの意味での不気味なものである。…étrange au sens proprement freudien : unheimlich (Lacan, S22, 19 Novembre 1974)




私は、ニーチェの永遠回帰は「エイリアンの身体の永遠回帰である」とほとんど確信しているが(参照)、世界はそう思っていない方がほとんどのようで、アノ連中ナニ読ンデンダロ、ナンデアンナニ鈍インダロ、などと言わないように苦労することしきりである・・・


私にとって忘れ難いのは、ニーチェが彼の秘密を初めて打ち明けたあの時間だ。あの思想を真理の確証の何ものかとすること…それは彼を口にいえないほど陰鬱にさせるものだった。彼は低い声で、最も深い恐怖をありありと見せながら、その秘密を語った。実際、ニーチェは深く生に悩んでおり、生の永遠回帰の確実性はひどく恐ろしい何ものかを意味したに違いない。永遠回帰の教えの真髄、後にニーチェによって輝かしい理想として構築されたが、それは彼自身のあのような苦痛あふれる生感覚と深いコントラストを持っており、不気味な仮面 unheimliche Maske であることを暗示している。

Unvergeßlich sind mir die Stunden, in denen er ihn mir zuerst, als ein Geheimnis, als Etwas, vor dessen Bewahrheitung ... ihm unsagbar graue, anvertraut hat: nur mit leiser Stimme und mit allen Zeichen des tiefsten Entsetzens sprach er davon. Und er litt in der Tat so tief am Leben, daß die Gewißheit der ewigen Lebenswiederkehr für ihn etwas Grauen-volles haben mußte. Die Quintessenz der Wiederkunftslehre, die strahlende Lebensapotheose, welche Nietzsche nachmals aufstellte, bildet einen so tiefen Gegensatz zu seiner eigenen qualvollen Lebensempfindung, daß sie uns anmutet wie eine unheimliche Maske.(ルー・アンドレアス・サロメ、Lou Andreas-Salomé Friedrich Nietzsche in seinen Werken, 1894)