男は、間違ってひとりの女に出会い、その女とともにあらゆることが起こる。つまり通常、「性交の成功が構成する失敗 」が起きる。L'homme, à se tromper, rencontre une femme, avec laquelle tout arrive : soit d'ordinaire ce ratage en quoi consiste la réussite de l'acte sexuel. (ラカン, テレヴィジョン, AE538, Noël 1973) |
なに言ってんだろうな、このおっちゃん 西鶴かな |
美女美景なればとて不斷見るにはかならずあく事。(井原西鶴『好色一代女』) |
それとももう少し格調高くプルーストかな |
ある人へのもっとも排他的な愛は、常になにか他のものへの愛である。L’amour le plus exclusif pour une personne est toujours l'amour d’autre chose (プルースト「花咲く乙女たちのかげに」) |
幸福はといえば、それはほとんど一回きりの有効性しかもたない、それは不幸を起こしうるという有効性である。幸福のなかで、われわれがむすぶ信頼と愛着の粋は、よほど甘美な、よほど強いものであるにちがいない、だから、その絆が切れると、われわれは不幸と呼ばれるあのように貴重な痛恨に見舞われるのである。たとえ空だのみにすぎなかったにしても、人が幸福でなかったとしたら、不幸には残酷さがなく、したがって不幸は実をむすぶことがないだろう[Si l'on n'avait été heureux, ne fût-ce que par l'espérance, les malheurs seraient sans cruauté et par conséquent sans fruit](プルースト「見出された時」) |
荷風かもな、 |
これぞと思ふ藝者、茶屋の女中にわけ言ひふくめ、始めて承知させし晩の楽しみ、男の身にはまことに胸も波立つばかりなると、後にて女に聞けば、初会や裏にては気心知れず気兼多くして人情移らずと。是だけにても男と女はちがふなり。女は一筋に傍目もふらず深くなるを、男は兎角浅くして博きを欲す。女をとこの気心知りてすこし我侭いふやうになれば、男は早くも飽きるとにあらねど、珍しさ薄らぎて、初手ほどにはちやほやせず、女の恨みこれより始るなり。 (永井荷風「四畳半襖の下張り」) |
でも《女は一筋に傍目もふらず深くなる》なんてのは最近は珍しいんじゃないかね |
伊丹十三『お葬式』 |