きのうからきゅうに蝉がなきだした。
熊谷守一はこう言ったらしい。 |
紙でもキャンパスでも何も描かない白いままがいちばん美しい。95歳 1975年 |
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わたしは好きで絵を描いているのではないのです。 絵を描くより遊んでいるのが一番楽しいんです。 石ころひとつ、 紙くずひとつでも見ていると、 まったくあきることがありません。 火を燃やせば、一日燃やしていても面白い。 でも時に変わったことがしてみたくなります。 95歳 1975年 |
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なくなった坂本繁二郎さんは、若いころから名誉とか金とかには、全く関心のない人でしたが、いい絵を一生懸命に描かなければならないという感じは持っていたようです。しかし、私は名誉や金はおろか、[ぜひすばらしい芸術を描こう]などという気持ちもしないのだから、本当に不心得なのです。1971年 |
ーー「ひとりたのしむ―熊谷守一画文集」1998より 音楽もそうだな 蝉しぐれきいてるほうがずっと美しいよ 風の音、木の葉のざわめき、鳥の声 をきいてるほうが。 名誉と金以外になにがあるんだい? きっとなにかがあるはずだから それを問わないとな |
たぶん何かを忘れるためってのもあるだろうよ |
忘れるっていうことは、人間に大切なことですよ。 いやな事は忘れればいい。 忘れるという人体の構造になっているのは、造化の妙というより、生きている間の人間の知恵だね。 人間の優れた能力のひとつだよ。 忘れるには血の巡りをよくして、血液の循環をよくすることだね。 下水が詰まったときは、うんと水を流すのと、人間の体の仕組みも同じだね。 うんと飯を喰って、うんと排泄するといい。 |
とにかく嫌な事は忘れて、楽しい瞬間をなるべく多く作ることだね。 そのために稼いだり、乗り物に乗って移動したりするんだから。 稼ぐのはめんどうだけど、楽しい時間を作るための支度だからね。 とにかく、生きているうちは暇つぶしがいい。 ギターを弾いたり野菜を作ったりするのも暇つぶしだね。 俺には生きていることが青春だからね。 死ぬまではずーっと青春の暇つぶしだね。 まあ、暇をつぶしながら、死ぬまではボーっと生きている。 それが俺の人生の道、世渡り術というものだよ。 ーー深沢七郎「生きているのはひまつぶし 」 |