なんだい、「ひとりの女は悪」ってのが気に入らないのかい?
ひとりの女は異者である[une femme …c'est une étrangeté. ](Lacan, S25, 11 Avril 1978) |
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この異者ってのはトラウマだよ、前回書いたように。別の言い方をすれば症状だ。 |
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症状なき主体はない[il n'y a pas de sujet sans symptôme](Colette Soler, Les affects lacaniens , 2011) |
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ひとりの女とは何か? ひとりの女は症状である![ « qu'est-ce qu'une femme ? » C'est un symptôme ! ](Lacan, S22, 21 Janvier 1975) |
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ひとりの女なき主体はないんだ、これは男女とも同じだ。 この女=症状とは原症状(現実界の症状)であり、サントームのことだ。 |
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ひとりの女はサントームである[une femme est un sinthome ](Lacan, S23, 17 Février 1976) |
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現実界はラカンの定義に於いてトラウマであり、反復強迫する。
このトラウマとしての現実界の症状がひとりの女だよ。ひとりの女は生涯反復するんだ。わかるかい? 両性にとってだ。 サントームは固着であり、誰もが固着をもっている。 |
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サントームは固着である[Le sinthome est la fixation]. (J.-A. MILLER, L'Être et l'Un, 30/03/2011) |
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ラカンのサントームとは、たんに症状のことである。だが一般化された症状(人がみなもつ症状)である。Le sinthome de Lacan, c'est simplement le symptôme, mais généralisé, (J.-A. MILLER, L'ÉCONOMIE DE LA JOUISSANCE, 2011) |
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女への固着だ。 |
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女への固着(おおむね母への固着)[Fixierung an das Weib (meist an die Mutter)](フロイト『性理論三篇』1905年、1910年注) |
だれもがこの固着に回帰する。これが反復強迫=永遠回帰であり死の欲動の原点だ。
以上、ひとりの女は異者である、とは「ひとりの女は、女へのトラウマ的固着」のことだ。 |
トラウマないしはトラウマの記憶は、異者 (異者としての身体[Fremdkörper] )のように作用する。(フロイト&ブロイアー 『ヒステリー研究』予備報告、1893年) |
原抑圧と同時に固着が行われ、暗闇に異者が蔓延る[Urverdrängung…Mit dieser ist eine Fixierung gegeben; …wuchert dann sozusagen im Dunkeln, fremd erscheinen müssen](フロイト『抑圧』1915年、摘要) |
トラウマ的固着[traumatischen Fixierung](フロイト『続精神分析入門』29. Vorlesung. Revision der Traumlehre, 1933 年) |
トラウマは自己身体の上への出来事 もしくは感覚知覚である[Die Traumen sind entweder Erlebnisse am eigenen Körper oder Sinneswahrnehmungen]〔・・・〕 このトラウマの作用は、トラウマへの固着と反復強迫として要約できる[Man faßt diese Bemühungen zusammen als Fixierung an das Trauma und als Wiederholungszwang. ]。 これは、標準的自我と呼ばれるもののなかに含まれ、絶え間ない同一の傾向をもっており、不変の個性刻印と呼びうる[Sie können in das sog. normale Ich aufgenommen werden und als ständige Tendenzen desselben ihm unwandelbare Charakterzüge verleihen]。 (フロイト『モーセと一神教』「3.1.3 Die Analogie」1939年) |
あのひとりの女が生涯消えない不変の個性刻印の穴=トラウマを身体に刻んだんだ。 |
人はみなトラウマ化されている。 …この意味はすべての人にとって穴があるということである。[tout le monde est traumatisé …ce qu'il y a pour tous ceux-là, c'est un trou.](J.-A. Miller, Vie de Lacan, 17/03/2010 ) |
あの女さ、すべての人間にトラウマの穴を開けたのは。 |
身体は穴である。le corps…C'est un trou(Lacan, conférence du 30 novembre 1974, Nice) |
固着が身体の物質性としての享楽の実体のなかに穴を為す。固着が無意識のリアルな穴を身体に掘る。[Une fixation qui … fait trou dans la substance jouissance qu'est le corps matériel, qui y creuse le trou réel de l'inconscient]。(ピエール=ジル・ゲガーン Pierre-Gilles Guéguen, ON NE GUÉRIT PAS DE L'INCONSCIENT, 2015) |
で、やっぱり悪だろ、あの女は。チガウカイ? |