このブログを検索

2021年9月24日金曜日

ひとりの女なき主体はない

 なんだい、「ひとりの女は悪」ってのが気に入らないのかい?


ひとりの女は異者である[une femme …c'est une étrangeté.  (Lacan, S25, 11  Avril  1978


この異者ってのはトラウマだよ、前回書いたように。別の言い方をすれば症状だ。


症状なき主体はない[il n'y a pas de sujet sans symptôme](Colette Soler, Les affects lacaniens , 2011

ひとりの女とは何か? ひとりの女は症状である![ « qu'est-ce qu'une femme ? » C'est un symptôme ! ](Lacan, S22, 21 Janvier 1975)


ひとりの女なき主体はないんだ、これは男女とも同じだ。


この女=症状とは原症状(現実界の症状)であり、サントームのことだ。


ひとりの女はサントームである[une femme est un sinthome ](Lacan, S23, 17 Février 1976)


現実界はラカンの定義に於いてトラウマであり、反復強迫する。


問題となっている現実界は、一般的にトラウマと呼ばれるものの価値を持っている。le Réel en question, a la valeur de ce qu'on appelle généralement un traumatisme.  Lacan, S23, 13 Avril 1976

サントームは現実界であり、かつ現実界の反復である[Le sinthome, c'est le réel et sa répétition. (J.-A. MILLER, L'Être et l'Un - 9/2/2011)


このトラウマとしての現実界の症状がひとりの女だよ。ひとりの女は生涯反復するんだ。わかるかい? 両性にとってだ。


サントームは固着であり、誰もが固着をもっている。


サントームは固着である[Le sinthome est la fixation. (J.-A. MILLER, L'Être et l'Un, 30/03/2011

ラカンのサントームとは、たんに症状のことである。だが一般化された症状(人がみなもつ症状)である。Le sinthome de Lacan, c'est simplement le symptôme, mais généralisé,  (J.-A. MILLER, L'ÉCONOMIE DE LA JOUISSANCE, 2011)


女への固着だ。


女への固着(おおむね母への固着)[Fixierung an das Weib (meist an die Mutter)](フロイト『性理論三篇』1905年、1910年注)



だれもがこの固着に回帰する。これが反復強迫=永遠回帰であり死の欲動の原点だ。



以上、ひとりの女は異者である、とは「ひとりの女は、女へのトラウマ的固着」のことだ。


トラウマないしはトラウマの記憶は、異者 (異者としての身体[Fremdkörper )のように作用する。(フロイト&ブロイアー 『ヒステリー研究』予備報告、1893年)

原抑圧と同時に固着が行われ、暗闇に異者が蔓延る[Urverdrängung…Mit dieser ist eine Fixierung gegeben; …wuchert dann sozusagen im Dunkeln, fremd erscheinen müssen](フロイト『抑圧』1915年、摘要)

トラウマ的固着[traumatischen Fixierung](フロイト『続精神分析入門』29. Vorlesung. Revision der Traumlehre, 1933 年)

トラウマは自己身体の上への出来事 もしくは感覚知覚である[Die Traumen sind entweder Erlebnisse am eigenen Körper oder Sinneswahrnehmungen]〔・・・〕


このトラウマの作用は、トラウマへの固着と反復強迫として要約できる[Man faßt diese Bemühungen zusammen als Fixierung an das Trauma und als Wiederholungszwang. ]。


これは、標準的自我と呼ばれるもののなかに含まれ、絶え間ない同一の傾向をもっており、不変の個性刻印と呼びうる[Sie können in das sog. normale Ich aufgenommen werden und als ständige Tendenzen desselben ihm unwandelbare Charakterzüge verleihen]。 (フロイト『モーセと一神教』「3.1.3 Die Analogie1939年)


あのひとりの女が生涯消えない不変の個性刻印の穴=トラウマを身体に刻んだんだ。


人はみなトラウマ化されている。この意味はすべての人にとって穴があるということである。[tout le monde est traumatisé …ce qu'il y a pour tous ceux-là, c'est un trou.]J.-A. Miller, Vie de Lacan, 17/03/2010


あの女さ、すべての人間にトラウマの穴を開けたのは。


身体は穴である。le corps…C'est un trouLacan, conférence du 30 novembre 1974, Nice

固着が身体の物質性としての享楽の実体のなかに穴を為す。固着が無意識のリアルな穴を身体に掘る。[Une fixation qui … fait trou dans la substance jouissance qu'est le corps matériel, qui y creuse le trou réel de l'inconscient]。(ピエール=ジル・ゲガーン Pierre-Gilles Guéguen, ON NE GUÉRIT PAS DE L'INCONSCIENT, 2015)


で、やっぱり悪だろ、あの女は。チガウカイ?