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2021年10月6日水曜日

大丈夫か、日本病は?

 藤巻健史氏が爆発してるな、これは彼が長い間書いてきたことだが、この記事はその主張が実に鮮明化されている。私は氏の見解をほぼ全面的に受け入れている者だが、それはこの際どうでもよろしい。ここではこの記事をすべて転写する。まず何よりも日本の政治家の中枢や主流経済学者から、この記事に対する批評・批判をききたいところである。


「このままでは"失われた40"になる」

コロナ収束でも景気回復の実感が決して得られないワケ


もうバラまけるお金は残っていない  藤巻 健史 2021/10/05

バラマキを約束する無責任な政治家たち


選挙が近くなると、政治家は大盤振る舞いを国民に約束し出す。自民党総裁選は「バラマキ政策」のオンパレードだった。最近では野党も、衆院選向けに消費税の一時減税や(1年だけらしいが)「年収1000万円程度以下の世帯は所得税を免除する」などの「はちゃめちゃ」な公約を発表した。


財政状況の厳しい日本では、政治家が選挙前に語るバラマキ政策は絵空事だ。それに、だまされてしまう国民が一定数いるのも残念な話だ。政治家は、結果として国民を不幸にする政策でも、「選挙に勝てるのであれば、この国はどうなってもいい」と考えているとしか思えない。1980年代以降、40年間も世界ダントツのビリ成長を続けた経済はバラマキでは決して良くならない。


この国がポピュリズム政治にうつつを抜かしている間に、先週後半から、世界では不気味な動きが始まっている。私が「日本のXデーの引き金になる可能性がもっとも高い」と警告してきた米長期金利がじわじわと上昇を始めたのだ。


パウエル議長がテーパリングの時期を明確化したせいでもあるし、連邦準備制度理事会(FRB)が一時的と断言してきたインフレが、ちっとも一時的でなさそうだからだ。


さらにはノルウェー中銀がIMF加盟主要10カ国の中で先陣を切って利上げを開始し、英国では年内利上げの観測も出始めている。世界の中央銀行が金融緩和からの出口を模索し始めた。


彼らの出口戦略が極めて難しいのは衆目の一致するところ。ただ難しくとも出口があるだけ救われる。日銀だけはいまだに出口を示せずにいる。日銀は、また置いてきぼりである。このことは、日本に悲惨な結果をもたらすだろう。

世界が揶揄している「日本病」


『The International Economy』という世界で超一流の経済誌(年4回発売)がある。同誌はレフリーと呼ばれる人たちが寄稿者を選ぶ。レフリーは、グリンスパン元米中央銀行議長 トリシェ元欧州中央銀行総裁、メキシコ元中央銀行総裁、ジョージ・ソロス氏、ケニス・ロゴフ・ハーバード大学教授、クルーグマンプリンストン大学教授他、経済・金融界の超一流専門家ばかりだ。


そんな経済誌に私はかなり前から寄稿を依頼されている。今ではほぼ隔号ペースで寄稿をしている。日本人は毎回1~2人だ。JPモルガン時代の実績と発言内容、今までに寄稿した論考の質を評価されているせいだと自負している。原稿料は無しなのだが、大変な名誉なので、下手な英語で今でも頑張っている。


なにも自慢話をするためにこの話をしたわけではない。最近はどうも、日本財政危機説や日銀危機説を書くと、世界の常識であっても「まがい物」の評価を受けるので書かせていただいた。


SNSでは現実離れした珍説であっても多くの信者を作り出すと「専門家」との評価を得てしまう傾向がある。それに対する反発もあった。お金を刷れば何とかなる、と威勢の良いことを語る人は「専門家」でもなんでもない。


その『The international economy』2017年夏号で、「日本病は世界に蔓延するか?」という特集が組まれた。日本では「世界は日本“化”している」と甘っちょろい表現を使われるが、『The International Economy』では、サッチャー登場前の老大国イギリスの経済を世界が「英国病」と揶揄したように、日本経済を「日本病」と厳しく表現したのだ。


先月3日が原稿締め切りだった2021年秋号の特集は「アメリカ経済が日本化するリスクがあるとすれば、どのくらいのリスクか?」で、私も寄稿を依頼された。今回は「日本病」という表現は使っていなかったが、「日本経済はとんでもない状況にある」との世界の認識は変わっていない。


このままでは日本が三流国、四流国に転落する


まずは厳しい日本の現実を正しく認識をすることが第一歩だ。正しい処方箋を書くためには正しい認識が必要だからだ。


英国でサッチャー改革が成功したのは、英国民が現状の厳しさと、それが継続した時の厳しい未来を認識していたからだろう。だからこそ、サッチャー氏の厳しい改革を英国民は受けいれたのだと思う。


自民党総裁選や野党の選挙公約を見ても、為政者にその危機感は全く感じられない。国民の多くもそうなのだと思う。


日本では「40年間で世界最悪の財政状況になりながら、世界断トツのビリ成長しかできなかった」ことへの認識が足らず、政治家もマスコミも国民もあまりに能天気だ。これでは、改革も行われず、日本はこのまま世界の四流国に向けて一直線となってしまう。


日本は40年間で世界断トツのビリ成長


日本はこの40年間で世界ダントツのビリ成長だ。最新の確定値である2020年の国内総生産(GDP)が40年前(1980年)、30年前(1990年)と比べてどのくらい伸びたかみてみよう。図表1は自国通貨建ての名目GDPだ。



ご覧のように、他国がグイグイぐいぐいと成長しているのに日本は全くと言っていいほど成長していない。


GDPが大きくなるか否かは、国にとっても国民にとっても極めて重要だ。大雑把に言えば、GDPが2倍になれば国民は2倍豊かになり、政府も収入(税収)が2倍に増える。日本ではGDPが拡大しなかったのだから、賃金が上がらなかったのもあたり前だ。


経済協力開発機構(OECD)によると、過去20年間で米国の名目平均年収は約8割、ドイツやフランスは約5割増えたのに、日本は逆に5%減少している(9月9日付日経新聞)。


GDPが増えなければ税収が増えるわけがない。財務省の「一般会計税収の推移」によると、2018年度の税収額60.4兆円)を記録するまでは1990年度の60.1兆円が1位だった(ただしこの時の消費税率は3%)。約30年間で税収はちっとも増えていない。税収は増えなかったのに歳出は社会保険料を中心に、どんどん増えていったのだから、巨額借金がたまったのも当然だ。


年金も、成長の果実を含めて高齢者に支給する計画なのに、ちっとも果実が実らないのだから、財源不足となり、持続可能性が問題になってきたのだ。


あっと言う間に中国に追い抜かされた


世界第2位だった日本のGDPが、中国に抜かれたと大騒ぎをしたのは2010年だった。中国のGDPは、1980年には日本の約4分の1だった。日本が足踏みしている間に追い抜かれてしまった。それから10年後の現在、中国は日本の約3倍にまで急成長している。情けない限りだ。


1980年に約150円だった人民元は今や17円ほどだ。これでは海外旅行など高くて行けないはずだが、コロナ前には中国人旅行客が日本に溢れていた。この40年で通貨が10分の1ほどになっても、GDPが233.8倍になっているので中国人の多くが豊かな生活を送れているのだ。


企業も成長しなかった


国が成長していなかったのだから、その国に基盤を置く企業も発展できるわけがないし、株価も上がるわけがない。


今、日本では日経平均が31年ぶりの高値と騒いでいるが、1989年末の史上最高値3万8915円の78%(9月27日時点)まで回復したにすぎない。一方、1989年末同日のNYダウは2753ドルだから、現在は約12倍にもなっている。


人が生きていくには「働くか、お金に働いてもらう」しか術がないのだから、労賃が上がらない上に、株価も上昇しない、低迷経済で金利も低いままであれば、国民が豊かになれるはずがない。


株価が低迷しているせいで、世界の時価総額に占める日本株の比率は1990年の3割超えから、今年8月には5%台にまで低下してしまった(9月15日付日経新聞朝刊「日本の変化、マネーが問う、日経平均3万670円、海外勢再び流入」)。地盤沈下が激しい。当然、個別企業も凋落だ。日経平均が史上最高値を付けた1989年の時価総額世界1位はNTT、2位日本興業銀行、3位住友銀行と上位10社中、7社が日本企業だった。

それが現在では日本企業は10社以内に1社も入っていない。当然だろう。ご想像通りGAFAが上位を占めている。日本企業ではトップのトヨタが40位前後のようだ。


さらに、ベンチャーキャピタルへの投資状態を聞くと一層、がっくりしてしまう。「2020年の米国のベンチャーキャピタル投資額は円換算で16.7兆円。前年比13%増え過去最高だ。かたや日本は1512億円。米国のわずか1%しかない。」と日経新聞は報じた(8月19日付日経新聞朝刊「ドラッカーの警鐘とIPO問題 大機小機」)。


日本の若い企業が今後、世界で存在感を示す可能性も小さいようだ。力ある企業が出てこなければ日本人の給料は低いままだろうし、儲からなければ外資に淘汰される可能性も高くなる。ある日突然、「上司が外国人ばかり」という日が来るかもしれない。


不発に終わった経済政策のツケ


政府はこのような状況から脱すべく、財政出動を重ねてきた。政府主導で経済再建を狙い、インフラ整備や社会保障を充実させた。しかし、今まで述べてきたように、経済は世界断トツのビリ成長のままだ。多額の財政出動(注:社会保障への支出も財政出動)の結果、世界最悪の財政赤字国家になった。





財務省によると、国の借金総額は約1220兆円(6月末時点)。とんでもない数字だ。10兆円ずつ返済しても122年もかかる。それも金利は122年間上昇せずゼロ%のまま、借金総額も今後は増えないという前提での数字だ。到底、不可能である。


この額は民間の融資やローンの額を大きく上回る。9月公表の日銀『金融経済統計月報』によると、国内の銀行の貸出金は555.9兆円だ。信金は78.4兆円、信組は11.9兆円(いずれも2020年3月末時点)。現在、政府は特別法のもとで強引に借金を重ねているが、基本、財政法で国が借金をすることを禁止している。禁止されている国の借金が民間の借金の約2倍とはとんでもないことだ。


通常、財政の危険度は対GDP比で測る。税収は大雑把にいってGDPに比例するからだ。すなわち対GDP比の借金額が大きいほど税収で借金を返すのが難しくなる。借金額の対GDP比は、「税金で借金を返す難易度ランキング」なのだ。


国際通貨基金(IMF)が昨年公表した報告書によると、昨年10月時点の日本の政府債務残高は対GDP比266%。先進7カ国(G7)で断トツの1位だ。2位のイタリアでさえ161%、それに続く米国でも131%だ。フランス、カナダ、英国、ドイツはさらに低い数字となっている(2020年12月25日付日経新聞朝刊「政府債務残高、GDP比突出、日本266%、米の2倍」)。


借金地獄の日本は楽観、マシな米国が悲観


コロナ禍で各国は大型の財政出動を行った。それでも日本ほど致命的な国はない。彼らは平時に日本ほどの財政出動をしておらず借金をため込んでいないからだ。


例えば、米国の債務残高は今年9月末で22.5兆ドルになると議会予算局が試算していた。円換算すれば約2500兆円にすぎない。一見すると多額なのだが、GDPは日本の約4倍もあるのに借金額は2倍ほどにすぎない。税収で借金を返すのは日本よりはるかに楽である。


それにもかかわらずバイデン政権は増税を考え、財政状況の改善を図ろうとしている。また米国では現在、国債発行額が上限に達し、新たな国債の発行ができない状況にある。このままでは10月にも資金が枯渇する。デフォルトだ。期日のきた借金や金利の支払い、公務員への給料等が払えなくなってしまうのだ。


とはいえ最終的には民主党と共和党がデフォルト回避のために国債発行上限の引き上げに合意するとは思うが、日本よりはるかにましな財政状態にありながらこれ以上の国債発行に警戒をしているのは事実だ。


冒頭、自民党総裁選の候補者たちは、財政のバラマキ列挙で、尻ぬぐいには触れていない。それをマスコミも国民も問題にさえしないのだ。日本が、いかに能天気かがわかるだろう。


ちなみに日本の借金対GDP比266%は、第2次世界大戦直後より悪い数字だ。昭和21年には、ハイパーインフレ沈静のために預金封鎖・新券発行が行われました。旧円は無効になったのだ。


世界最悪の認識が無ければ日本復活はあり得ない


異次元緩和で危機先送りをする前の、日本経済そして日本財政の極めて厳しい状態がお分かりいただけたと思う。それにも関わらず冒頭に書いた通り、与野党は、バラマキ政策のオンパレードだ。「ばらまかなくては選挙に勝てない」、「ばらまかないと世論にたたかれかねない」かの様相だ。


一方、はるかに財政状態がまともな米国は真逆だ。コロナ処理のために増税議論も始まっているし、バラまきをして「債務が膨張」すると世論が批判する。本稿で書いた債務上限枠に関し、8月21日付の日経新聞夕刊が「民主党は債務膨張への世論の批判をかわすため」と書いている通りだ。


破綻寸前の日本は「ばらまけ。ばらまけ」のオンパレードで、財政がまともな米国では「ばらまくと世論の批判」が上がる。どちらが正常の姿かは明らかだ。読者の皆さんは、ぜひこのことを踏まえ、冷静に現状を把握してほしい。政治家の甘い言葉や、総裁選一色になったテレビに惑わされ、世界の常識を決して忘れてはいけない。世界最悪の現状認識が無ければ、コロナが収まっても日本だけ「失われた40年」に苦しむことになるだろう。


世界断トツのビリ成長の上に、政府は世界最悪の財政赤字を抱え、日銀は世界最悪の財務状況が放置され続けている。それに対して能天気な政治家はポピュリズム政治に邁進中だ。大丈夫か、この国は?



ちなみに「日本病」Japan Disease という直接的な表現は、『The International Economy』に次のような形で、2017年と2020年に現れている。








➡︎失われた30年の嘘「失われる100年」