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2022年3月17日木曜日

なんでわかんねえのかな、自らの醜悪さを。とくにあれら国際政治学者は?


時にプーチンの親衛隊とも酷評されるオリバー・ストーンだが、彼のプーチンインタビュー(2015~2017)で「NATOはアメリカの外交の道具だ」と言っているのを見た[参照]。プーチンはそれに引き続いてアメリカという国、その国民性分析をしている。


私が思うに、自らを世界唯一の超大国だと考えて、国民に選民的な認識を植えつけてしまうと、現実離れしたメンタリティーが社会に生まれる。そして外交政策は社会の期待に応えることが求められる。国家の指導者は帝国主義的論理に従い、アメリカ国民の利益を損なう可能性がある。私はそう考える。最終的には、問題や欠陥につながるんだ。




私は今のプーチンに肩を持つ者ではまったくないが、この分析自体は実に正当的に思えるね。


ジジェクは『ジジェク自身によるジジェク』(2004年)で、フランスは、《わが国こそ世界で最も自由、平等、友愛の理念を実現した国だという自負そのものが、ナショナリズムや愛国心を生み、他国、他民族を蔑視し差別するメカニズムが働いてしまっている》、そしてそれが独英よりもはるかにひどいレイシズムを生みだした[The French are much worse than either the Germans or the British]ーーという意味合いのことを言っているが、フランスもアメリカも国民の少なくともある層には選民的な意識があるのは間違いないよ。


ところで、日本の国民性ってなんだい?



国民集団としての日本人の弱点を思わずにいられない。それは、おみこしの熱狂と無責任とに例えられようか。輿を担ぐ者も、輿に載るものも、誰も輿の方向を定めることができない。ぶらさがっている者がいても、力は平均化して、輿は道路上を直線的に進む限りまず傾かない。この欠陥が露呈するのは曲がり角であり、輿が思わぬ方向に行き、あるいは傾いて破壊を自他に及ぼす。しかも、誰もが自分は全力をつくしていたのだと思っている。(中井久夫「戦争と平和についての観察」2005年『樹をみつめて』所収)


「おみこしの熱狂と無責任」というのはこの今起こっている。ウクライナという被害者への同一化、その庶民的正義感の奔出だ。


被害者の側に立つこと、被害者との同一視は、私たちの荷を軽くしてくれ、私たちの加害者的側面を一時忘れさせ、私たちを正義の側に立たせてくれる。それは、たとえば、過去の戦争における加害者としての日本の人間であるという事実の忘却である。その他にもいろいろあるかもしれない。その昇華ということもありうる。


社会的にも、現在、わが国におけるほとんど唯一の国民的一致点は「被害者の尊重」である。これに反対するものはいない。ではなぜ、たとえば犯罪被害者が無視されてきたのか。司法からすれば、犯罪とは国家共同体に対してなされるものであり(ゼーリヒ『犯罪学』)、被害者は極言すれば、反国家的行為の単なる舞台であり、せいぜい証言者にすぎなかった。その一面性を問題にするのでなければ、表面的な、利用されやすい庶民的正義感のはけ口に終わるおそれがある。(中井久夫「トラウマとその治療経験」2000年『徴候・外傷・記憶』所収)


ーー《日本社会は被害者ファンタジーのようなものを共有していて、そこからはみ出すと排除の論理にさらされる。被害者意識の高進が、狭量な社会を生んでいるのではないでしょうか。》(蓮池透ーー元「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」事務局長、朝日新聞2013.7.13)


あの熱狂に逆らったら排除されちまうんだよ、ムラ社会からね。


日本社会には、そのあらゆる水準において、過去は水に流し、未来はその時の風向きに任せ、現在に生きる強い傾向がある。現在の出来事の意味は、過去の歴史および未来の目標との関係において定義されるのではなく、歴史や目標から独立に、それ自身として決定される。〔・・・〕


労働集約的な農業はムラ人の密接な協力を必要とし、協力は共通の地方心信仰やムラ人相互の関係を束縛する習慣とその制度化を前提とする。この前提、またはムラ人の行動様式の枠組は、容易に揺らがない。それを揺さぶる個人または少数集団がムラの内部からあらわれれば、ムラの多数派は強制的説得で対応し、それでも意見の統一が得られなければ、「村八分」で対応する。いずれにしても結果は意見と行動の全会一致であり、ムラ全体の安定である。(加藤周一『日本文化における時間と空間』2007年)



日本ってのは実に民主主義的共同体なのさ。


民主主義に属しているものは、必然的に、まず第ーには同質性であり、第二にはーー必要な場合には-ー異質なものの排除または殲滅である。[…]民主主義が政治上どのような力をふるうかは、それが異邦人や平等でない者、即ち同質性を脅かす者を排除したり、隔離したりすることができることのうちに示されている。Zur Demokratie gehört also notwendig erstens Homogenität und zweitens - nötigenfalls -die Ausscheidung oder Vernichtung des Heterogenen.[…]  Die politische Kraft einer Demokratie zeigt sich darin, daß sie das Fremde und Ungleiche, die Homogenität Bedrohende zu beseitigen oder fernzuhalten weiß. (カール・シュミット『現代議会主義の精神史的地位』1923年版)


つまり蛸壺結束社会=ファシズム村共同体だ。


ボルシェヴィズムとファシズムとは、他のすべての独裁制と同様に、反自由主義的であるが、しかし、必ずしも反民主主義的ではない。民主主義の歴史には多くの独裁制があった。Bolschewismus und Fascismus dagegen sind wie jede Diktatur zwar antiliberal, aber nicht notwendig antidemokratisch. In der Geschichte der Demokratie gibt es manche Diktaturen, (カール・シュミット『現代議会主義の精神史的地位』1923年版)



なんでこれがいまだわかんねえのかな、日本のインテリは? とくにあれらツイッターで「結束化=ファシズム化」しておみこしの熱狂と無責任やってる国際政治学者たちは? いくらなんでもシュミットぐらいは読んで消化してるんだろ?





 橋下徹や浅田彰やらが「逃げろ」というと、(チェチェンやシリアなどの事例を出してーーあるいは出すのみでーーNATOの問題は不問にして)結束して叩いているあの連中は、典型的なムラビト、蛸壺学者の同調圧力的ファシズムの体現者さ。


…………



以下、ひとつのご参考に。国際安全保障リアリスト派の重鎮らしいミアシャイマー教授のエコノミストへの投稿だ。プーチンの親衛隊かもしれねえけどな、上で示したプーチンの言ってることとソックリだから。


◼️ ウクライナ危機の主要責任は西側にある:ジョン・ジョゼフ・ミアシャイマー

The West is principally responsible for the Ukrainian crisis: John J. Mearsheimer 11 March 2022 in The Economist

ウクライナ戦争は、1962年のキューバ・ミサイル危機以来、最も危険な国際紛争である。事態の悪化を防ぎ、収束に向かわせるためには、その根本的な原因を理解することが不可欠だ。


The war in Ukraine is the most dangerous international conflict since the 1962 Cuban missile crisis. Understanding its root causes is essential if we are to prevent it from getting worse and, instead, to find a way to bring it to a close.


プーチンが戦争を始めたこと、そしてその戦争がどのように行われているかに責任があることに疑問の余地はない。しかし、なぜ彼がそうしたのかは別問題である。欧米では、プーチンは旧ソ連のような大ロシアを作ろうとする非合理的で常識はずれの侵略者だという見方が主流である。したがって、ウクライナ危機の全責任は彼一人にある。


There is no question that Vladimir Putin started the war and is responsible for how it is being waged. But why he did so is another matter. The mainstream view in the West is that he is an irrational, out-of-touch aggressor bent on creating a greater Russia in the mould of the former Soviet Union. Thus, he alone bears full responsibility for the Ukraine crisis.

しかし、この話は間違っている。2014年2月に始まったこの危機の主な責任は、欧米、とりわけアメリカにある。それが今や、ウクライナを破壊する恐れがあるだけでなく、ロシアとNATOの核戦争にエスカレートする可能性を秘めた戦争に発展してしまったのである。


But that story is wrong. The West, and especially America, is principally responsible for the crisis which began in February 2014. It has now turned into a war that not only threatens to destroy Ukraine but also has the potential to escalate into a nuclear war between Russia and NATO.


ウクライナをめぐるトラブルは、実は2008年4月のNATOのブカレスト首脳会議で、ジョージ・W・ブッシュ政権が同盟に働きかけ、ウクライナとグルジアを「加盟させる」と発表したことが発端だった。


The trouble over Ukraine actually started at Nato's Bucharest summit in April 2008, when George W. Bush's administration pushed the alliance to announce that Ukraine and Georgia "will become members.




➡︎DeepL邦訳全文


なお2015年時点でのミアシャイマー教授のレクチャー動画


➡︎ Why is Ukraine the West's Fault? Featuring John Mearsheimer


ま、日本の蛸壺国際政治学者は永遠に「我関せず」だろうがね