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2022年3月16日水曜日

間違ったトラウマと間違った成功体験(小泉悠)

 

この小泉悠はトッテモ上手い言い方してるなあ、


もともとプーチンは2012年には『旧ソ連版EUという経済同盟を作ろう』という論文を書いていたが、2014年には、ヤヌコビッチ失墜により頓挫、クリミア半島では軍隊を使って鮮やかに成功したという、間違ったトラウマと間違った成功体験があった。(小泉悠「ロシア・ウクライナ問題を地経学で読み解く」第10回API地経学オンラインサロン、 2022年3月12日


「間違ったトラウマと間違った成功体験」ってのはどちらも回帰する、トラウマの回帰だ。そもそも成功体験自体、強度の高い体験はトラウマでありうるから。


PTSDに定義されている外傷性記憶……それは必ずしもマイナスの記憶とは限らない。非常に激しい心の動きを伴う記憶は、喜ばしいものであっても f 記憶(フラッシュバック的記憶)の型をとると私は思う。しかし「外傷性記憶」の意味を「人格の営みの中で変形され消化されることなく一種の不変の刻印として永続する記憶」の意味にとれば外傷的といってよいかもしれない。(中井久夫「記憶について」1996年『アリアドネからの糸』所収)



トラウマの回帰の別の言い方は、「忘れられた歴史のスティグマは行為として呼び戻される」(ラカン)、あるいは「(原)抑圧されたものの回帰」等だ(参照)。




間違ったトラウマと間違った成功体験の回帰というのは、プーチンだけでなくもっと一般化して、誰もが持っている個人史におけるスティグマの回帰とさえ言いうる。


ここではあまり一般化し過ぎず中間を取って言えば、例えば、小泉悠を熱烈に応援している中道リベラル国際政治学者たちを観察していると、彼らの多くは学生や院生時代に上司の左翼系教授などにひどく苛められたトラウマをもっているんじゃないかね、左翼的言説に時にとってもアツクナッテ反撃しているのが見られるから。まさに「歴史のスティグマは行為として呼び戻される」だ。


シツレイにあたるから名前は挙げないでおくけど、二人ほどそれがあまりにも瞭然としている人がいるね。強い反プーチンでありながら、プーチン的行動パターン、つまり「間違ったトラウマと間違った成功体験」の回帰をツイッターで日々上演している国際政治学者が。もっとも「間違った」という形容詞には斜線を引いておいてもいいけどさ。



ボクはあの連中をひどく嫌うのだが、そこには次のメカニズムがあるかもね・・・


人は自分に似ているものをいやがるのがならわしであって、外部から見たわれわれ自身の欠点は、われわれをやりきれなくする[Habituellement, on déteste ce qui nous est semblable, et nos propres défauts vus du dehors nous exaspèrent]。自分の欠点を正直にさらけだす年齢を過ぎて、たとえば、この上なく燃え上がる瞬間でもつめたい顔をするようになった人は、もしも誰かほかのもっと若い人かもっと正直な人かもっとまぬけな人が、おなじ欠点をさらけだしたとすると、こんどはその欠点を、以前にも増してどんなにかひどく忌みきらうことであろう![Combien plus encore quand quelqu'un qui a passé l'âge où on les exprime naïvement et qui, par exemple, s'est fait dans les moments les plus brûlants un visage de glace, exècre-t-il les mêmes défauts, si c'est un autre, plus jeune, ou plus naïf, ou plus sot, qui les exprime ! ](プルースト「囚われの女」)