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2022年5月24日火曜日

おい、この野郎、胃袋が煮え返るぜ

 


◼️「アメリカニズムを如何にせん」2015年12月31日 西部邁ゼミナール (伊藤貫 佐伯啓思)YouTube 8分45秒あたりから

伊藤貫)……今のアメリカのgrand strategy(グランド・ストラテジー)は、1991年に決められたんですね。1991年というのはどういう年かと言うと、ソ連帝国が崩壊して、アメリカに対する軍事的な対立国が遂に消滅したという時なんですね。〔・・・〕


その時にアメリカはもう舞い上がっちゃって、「今後は俺たちの能力はローマ帝国以上だ、世界に俺たちに敵う者はいない。」というんで、1992年2月にアメリカは、Defense Planning Guidanceという秘密文書を作って、その秘密文書(DPG)で、アメリカがヨーロッパと中東とアジアと中南米も全て支配すると。


それからもう一つ(DPGに)書いてあったのは、ロシアと中国がアメリカのPeer Competitor(ピーア・コンペティター=同等の競争相手)、Peerは「同僚」、要するに、「同じような力を持つチャレンジャーになることを許さない!」と。


で、(DPGの)もう一個、3つ目に重要なのは、第二次大戦の敗戦国でありう日本とドイツには、決して自主防衛能力を持たせないと。〔・・・〕


で、僕はそれを読んでて、まず胃袋が煮え返ったんですね。この野郎!!と。こういうことを考えていたのかと(笑)


西部邁

(笑)

で、もう一つ(DPGについて)思ったのは、こんなこと出来るわけないだろうと。あまりにもover ambitious(オーバー・アンビシャス)であると。だって、世界中を自分たちだけが支配すると決めたら、世界中で戦争しなけりゃいけないわけですよ。そんなこと、だって当時すでにアメリカは貯蓄率がどんどんどんどん減ってって世界中からお金を借りなきゃいけないと。世界中の純貯蓄の毎年の新しい貯蓄の7割をアメリカの債券を買って貰わなきゃならないということをやりながら、世界中を俺たちが支配するんだって、これはちょっとオカシイなと。


で、lo and behold ! (ロー・アンド・ビホールド)、じっと見てたら、アメリカは世界中に介入して、結局、2011年の9月11日のテロ事件を口実として、イラクを属国にしようとしていま大失敗したわけです。


アメリカのglobal hegemony(グローバル・ヘゲモニー)はグラグラし出した時に、日本の外務省の人たちはおバカさんだから、「アメリカにくっ付いていれば大丈夫だ!」とそういう吉田茂以降のこの人たちは本当に馬鹿で、馬鹿と言っちゃ悪いんだけど、すごく鈍いんですよ。吉田茂はそういうふうに決めて上手くいったから、21世紀になってもアメリカにしがみ付いていれば大丈夫だろうと。


で、アメリカは文句言うんだったら、アーミテージは集団的自衛権を行使しろと言ったから、アーミテージの言う通りにして集団的自衛権を行使して米軍と一緒に戦えば、ずっと(日本を)守ってくれるだろうと。


西部邁) アメリカという国はね、そういう風にして世界警察をやる力をどんどん無くしているのにも関わらず、アメリカン・デモクラシーでも、アメリカン・リベラル・デモクラシーでもいいんだけど、そういう理念めいたものをいろいろ誤魔化しを交えて振りかざしつつ、自分たちの力を世界に示すんだという形でしか、アメリカという国自身がもたない。そういうやり方以外には、言わばアメリカの普通でいう、national identity(ナショナル・アイデンティティー)なる【歴史がない】せいでね、無いのだと。


伊藤貫)えぇえぇえぇ。


西部邁)となると、世界警察力が衰えながらもそれを尚も追い求めるという以外に(無い)?


伊藤貫)そうなんですよ。100%当たりで、要するに自分たちの実力が、世界を支配する実力が無くなってきたにも関わらず、自分たちの“思い込み”ですね、僕はそれをアメリカの『傲慢病』と『自惚れ病』という風に呼んでいるんですけども、とやかく傲慢と自惚れというのは、これはやってる本人は気が付かないんですね(笑)アメリカも僕みたいにある意味で、僕は“外人”ですからね、だから外人のシラっとした目で見ると、なんでこの連中はこんなにも自惚れているんだろうと。それからもう一つは、何でこんなに傲慢なんだろうと、思っているんですけども、それをやってる本人は、『自分たちはWilsonian idealist(ウィルソニアン・イデアリストだと!』


西部邁)あぁ~そうか。


伊藤貫)ウィルソニアン的な民主主義と自由主義を世界に拡めるために、Crusade(クルセイド=聖戦)をやっているんだと。世界のために・・・〔・・・〕


西部邁)あれ第一次世界大戦ですよね、国際連合の前だから「国際連盟」をつくった時のアメリカの大統領が【ウッドロウ・ウィルソン】といって学者上がりなんだけども、非常にズルい人でありながら、とも同時に非常に理想主義的な、まぁ~言ってみればアメリカ・ピューリタニストの系譜の、そういうアメリカの理想主義、それを翳した人ね。


それを戦後日本もね、アメリカに(戦争で)負けたでしょう、山ほど殺された日本がアメリカを一つの理想として追い求めた。その根っこを言うと、もっと古いんだけども、少なくとも20世紀で言うと、そのいま言ったウィルソニアニズムがあるという。どうぞお先に!(笑)


伊藤貫)

えぇ。だから非常にもうね、あのアフガニスタンに対してもパキスタンに対してもイラクに対してもシリアに対してもイエメンに対してももう徹底的に武力を行使して鉄拳制裁をやっているんですけども、彼らそういうことをやっている連中は、We're Wilsonian idealist !! と。


・・・そのつもりなんですよ。それでバンバンやってめちゃくちゃ殺しまくるんですけど、たぶん、自分たちは善人で良いことをやっているんだと、これが怖いわけですね(笑)



………………


◼️伊藤貫『自滅するアメリカ帝国』(2012年)

1990年「日本封じ込め」 


1989年末にベルリンの壁が崩れて東西陣営の対立が終わると、

米政府は即座に、「世界を一極構造にして、アメリカだけが世界を支配する。他の諸国が独立したリーダーシップを発揮したり、独自の勢力圏を作ろうとすることを許さない」というグランド・ストラテジーを作成した。ブッシュ(父)政権のホワイトハウス国家安全保障会議が、「冷戦後の日本を、国際政治におけるアメリカの潜在的な敵性国と定義し、今後、日本に対して封じ込め政策を実施する」という反日的な同盟政策を決定したのも、1990年のことであった。 


(筆者は当時、「ブッシュ政権は日本を潜在的な敵性国と定義して、『対日封じ込め戦略』を採用した」という情報を、国務省と国防総省のアジア政策担当官、連邦議会の外交政策スタッフから聞いていた。ペンタゴン付属の教育機関であるナショナル・ウォー・カレッジ〔国立戦争大学〕のポール・ゴドウィン副学長も、「アメリカ政府は、日本を封じ込める政策を採用している」と筆者に教えてくれた。) 


ブッシュ(父)政権が、レーガン政権時代に国防総省からの強引な要求によって決定された自衛隊の次世代戦闘機の日米共同開発合意を一方的に破棄・改定したり、日本に対して国際通商法(GATTルール)違反のスーパー301条項を適用して、米製品を強制的に購入させる「強制貿易」政策を押し付けてきたりしたのも、「アメリカが支配する一極構造の世界を作るためには、“潜在的な敵性国”である日本を封じ込めておく必要かある」という戦略観に基づいたものであった。 


当時のアメリカ外交に関して優秀な国際政治学者(リアリスト派)であるケネス・ウォルツ教授(カリフォルニア大学バークレー校とコロンビア大学)は、「ソ連が没落してアメリカに対抗できる国が世界に存在しなくなったため、米政府は傲慢で自己中心的な外交政策を実行するようになった……カントやニーバーが指摘したように、国内政治であれ国際政治であれ、一旦、絶対的な権力(覇権)を握ると、どこの国も不正で腐敗した統治行為を行うようになる。アメリカが一極構造を作って世界中の国を支配しようとすれば、そこに権力の濫用と権力の腐敗現象が発生するのは当然のことだ」(Realism and International Politics)と述べている。 

公式の席では日本に対して、「日米同盟は、価値観を共有する世界で最も重要な二国間同盟だ」とリップ・サービスしておきながら、実際には日本を“潜在的な敵性国”とみなして強制的な貿易政策を押し付けてきた1990年代のアメリカ ―― ブッシュ(父)政権とクリントン政権 ―― のやり方は、ウォルツが指摘したように「権力の濫用と腐敗」を体現したものであった。 


リークされた一極化戦略 

アメリカの「世界一極化」グランド・ストラテジーがホワイトハウスと

国防総省の内部で真剣に討議されたのは、1990年と91年のことであった。この「世界一極化」グランド・ストラテジーを構想する際、米政府は、アメリカの重要な同盟諸国と何の協議も行わなかった。この新しい戦略案は同盟国のアメリカに対する信頼感を裏切る内容となっていたため、米政府は同盟諸国に、一極覇権戦略の内容を知られたくなかったのである。「世界一極化」戦略の内容が最も具体的に描写されたのは、1992年2月18日に作成された199499(DPG:Defense Planning Guidance for the Fiscal Years 1994~1999)というペンタゴンの機密文書においてであった。チェイニー国防長官(当時)とウォルフォウィッツ国防次官(同)は、この機密文書の戦略構想に承認を与えていた。DPGの内容を知ることを許されていたのは、統合参謀会議のメンバーと陸海空海兵隊・四軍の最高幹部だけであった。 


ところがこのDPGが作成された三週間後、何者かによってこの機密文書の内容がニューヨーク・タイムズ紙とワシントン・ポスト紙にリークされてしまった。この文書をリークした人物は、「この戦略案は非常に重要なものである。したがってアメリカ国民はその内容を知るべきである」と判断して、リークしたという。1992年2月のDPGの中で最も重要なものは、以下の7項目であった。 


①ソ連崩壊後の国際社会において、アメリカに対抗できる能力を持つ大国が出現することを許さない。西欧、東欧、中近東、旧ソ連圏、東アジア、南西アジアの諸地域において、アメリカ以外の国がこれらの地域の覇権を握る事態を阻止する。 


②アメリカだけがグローバル・パワーとしての地位を維持し、優越した軍事力を独占する。アメリカだけが新しい国際秩序を形成し、維持する。そして、この新しい国際秩序のもとで、他の諸国がそれぞれの“正当な利益”を追求することを許容する。どのような利益が他の諸国にとって“正当な利益”であるか、ということを定義する権限を持つのは、アメリカのみである。 


③他の先進産業諸国がアメリカに挑戦したり、地域的なリーダーシップを執ろうとしたりする事態を防ぐため、アメリカは他の諸国の利益に対して“必要な配慮”をする。アメリカが、国際秩序にとって“害”とみなされる事態を修正する責任を引き受ける。何が国際秩序にとって“害”とみなされる事態であるか、ということを決めるのはアメリカ政府のみであり、“そのような事態を、いつ選択的に修正するか”ということを決めるのも、アメリカ政府のみである。 


④アメリカに対抗しようとする潜在的な競争国が、グローバルな役割、もしくは地域的な役割を果たすことを阻止するための(軍事的・経済的・外交的な)メカニズムを構築し、維持していく。 


⑤ロシアならびに旧ソ連邦諸国の武装解除を進める。これら諸国の国防産業を民生用に転換させる。ロシアの所有する核兵器を、急速に減少させる。ロシアの先端軍事技術が他国に譲渡されることを許さない。ロシアが、東欧地域において覇権的な地位を回復することを阻止する。 


⑥ヨーロッパ安全保障の基盤をNATOとする。NATOは、ヨーロッパ地域におけるアメリカの影響力と支配力を維持するためのメカニズムである。ヨーロッパ諸国が、ヨーロッパだけで独自の安全保障システムを構築することを許さない。 


⑦アメリカのアジア同盟国 ―― 特に日本 ―― がより大きな地域的役割を担うことは、潜在的にこの地域を不安定化させる。したがってアメリカは、太平洋沿岸地域において優越した軍事力を維持する。アメリカは、この地域に覇権国が出現することを許さない。 ― 以上が、DPGの内容の要点である。 


この機密文書の中でアメリカの潜在的な競争国(もしくは敵性国)として描かれていたのは、ロシア、中国、日本、ドイツ、の四国であった。前年に軍事帝国が崩壊したばかりのロシアと二年半前に大安門虐殺事件を起こした中国が、アメリカの「潜在的な競争国・敵性国」と定義されていたことは納得できるが、すでにほぼ半世紀間も「アメリカの忠実な同盟国」としての役割を果たしていた日本とドイツが、米政府の機密文書において冷戦後のアメリカの潜在的な敵性国と描写されていたことは、「外交的なショック」(ワシントン・ポスト紙の表現)であった。 


当時、連邦上院外交委員会の議長を務めていたジョー・バイテン議員(オバマ政権の副大統領)は、「DPGの内容は、我々にとって“最も親密な同盟国”ということになっている日本とドイツの横っ面を張り倒すようなものだ。米政府は、日本とドイツが国際政治においてより大きな役割を果たすことを阻止するため、アメリカが巨大な軍事力を維持する必要があるという。日本とドイツをこのように侮辱し、敵対視することが、本当にアメリカ外交の利益となるのだろうか」とコメントしていた。



➡︎ポルポトマインドを消すための鑑「伊藤貫」