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2022年6月6日月曜日

池内恵を始めとする視野狭窄な脊髄反射をSNS上で連ツイする「意識高い系」国際政治学者たち

 

もうひと月近く前の記事だが、浅田彰と田中康夫によるリベラル言論人や中堅国際政治学者らへの徹底批判がある。連中は無視して、いまだとっても厚顔無恥な醜態を曝け出し続けているが、この批判ぐらいはそろそろ処理しておいたほうがいいんじゃないかね。

とくに池内恵を始めとする視野狭窄な脊髄反射をSNS上で連ツイする「意識高い系」国際政治学者たちだな。


ゼレンスキーへの危うい「熱狂」と、リベラル言論人の衰退を問う

【田中康夫×浅田彰】 2022.05.10 「憂国呆談」第1回【Part1】 


ゼレンスキーを英雄に祭り上げてはいけない


浅田 ゼレンスキーは元コメディアンで吉本興業みたいな企業を起こした人。教師がたまたま大統領になっちゃうTVドラマ「国民のしもべ」の主役で人気を博し、19年にホントに大統領になっちゃった。

就任後、支持率は2割程度まで低迷してたんだけど、ロシアの侵攻以来、「命がけで国を守る英雄」として一世一代の名演技を続け、ネットで直接発信するほか、国連や日本を含む20カ国以上の議会でリモート演説。


米国議会では日本の真珠湾攻撃に言及する一方、日本では核と国連改革をテーマにするとか(ちなみに、国連安保理での演説では「ロシアを止められないなら安保理は解散せよ」と迫り、市民の死体が散乱するキーウ近郊ブチャの映像を見せた)、あざとい手口で多くの視聴者の心をつかんだ。


この過程全体がドラマみたいで、主演のゼレンスキーは最後に死んでも本望かもしれない。ただ、たまたまロシア軍が予想外の混乱状態だったからいいようなものの、18歳から60歳までの男性の出国を禁止し「武器を取って戦え」って言うのは、戦争末期の日本の「1億玉砕」路線に近いし、外国からの義勇兵を募ったことも含め、正規軍以外が戦争に加わるのは法的にも問題が多い。


もちろん、ロシア側も、正規軍以外に、情報機関の特殊部隊やチェチェンで暴虐の限りを尽くしてきたラムザン・カディロフの私兵カディロフツィ、あるいはアドルフ・ヒトラーの崇拝した作曲家の名にちなむ民間軍事会社ワグナー(ワグネル)・グループなんかが、民間人の大量虐殺を続けているわけで、繰り返せばプーチンに対してはゼレンスキーを支持すべきだけど、彼を英雄に祭り上げるのは危険だし、「日本もゼレンスキーとウクライナを見習って自ら国を守る気概を持とう」とかいうトンデモ愛国主義には用心しないとね。


ゼレンスキーは少なくとも不用意だった

田中 ウクライナを巡る「世界の潮流」を語ったPart1に続いてPart2の冒頭で、大きな声で語られる「正義」は往々にして裏表の落差が大きいという古今東西の公理を今一度、冷静に再確認しておこう。

湾岸戦争の時、「黒い水鳥」のニュース映像が世界中を駆け巡った。イラク軍が破壊した石油施設から流れた重油で身動きが取れなくなった鳥だと報じられたけど実は、米軍がイラクの石油精製施設に打ち込んだミサイルが原因だったにも拘らず、アメリカの広告代理店が仕込んだ「フェイク・ニュース」だったと戦争後に判明する。


僕は今、あれと同じスペクタクル・ショー的な「劇場型の戦争」への違和感を抱いているんだけど、その意味でも、日本の「リベラル言論人」たちはヴォロディミル・ゼレンスキーという熱病に罹っているんじゃないの。


奇しくもウラジーミル・プーチンが大統領に就任した2000年から22年間も志位和夫が委員長を務める日本共産党の議員や支持者も、徹底抗戦という総玉砕を大統領が主張するウクライナの国旗をツイッターのプロフィール欄に掲げている。僕だったら、ロシア・ウクライナ・アメリカ・EU・国連の旗を5つ一緒に表記するけどね(苦笑)。




浅田 意外かもしれないけど、アメリカの右翼の現実政治(レアルポリティーク)派は、ドイツ再統一を急ぐべきじゃない、ましてNATOの東方拡大は危険だって言い続けてきた。地政学的に見てウクライナやジョージアは最後の緩衝地帯なんで、そこまで手を伸ばせばロシアも反発せざるを得ない、と。


その意味で、シカゴ大学教授の政治学者ジョン・ミアシャイマーなんかは今回も「ウクライナ戦争の責任はアメリカとNATOにある」って断言してるわけ──だからってプーチンを免責するわけじゃもちろんないけれど。


他方、人権と自由の擁護のためには他国への軍事介入も辞さないっていうリベラル介入主義によって、ビル・クリントン米民主党政権の時代、1999年にNATOがセルビアを中心とするユーゴスラヴィア軍を空爆し、最終的にコソヴォの独立につながる。

で、次のジョージ・W・ブッシュ米共和党政権になると、今度はレフ・トロツキーの世界革命論を右翼化したような新保守主義によって、逆の立場からNATOの東方拡大を進める。その過程でロシアとプ-チンがじりじり追い詰められ、とうとうキレちゃったわけだね。


理論的にはたとえば台湾には独立の権利があると思うけど、地政学的・歴史的な現実を考えると、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統のように「台湾は実質的に独立しているから独立宣言は求めない」っていうような綱渡りをせざるを得ない。

いわば台湾の総統が独立宣言を求めるようなことをゼレンスキーはやってきたわけで、少なくとも不用意だったとは言えるでしょう。「私は最後までとどまる、みんなで戦おう」って言うのは一見カッコいいけれど、一般市民や外国の義勇兵が戦うとき法的地位や指揮系統はどうなるのか、休戦協定ができたとしてそれをどう徹底するのか、これまた不用意な部分があると思うな。


田中 共和党政権のリチャード・ニクソン、ジェラルド・フォード両大統領時代に国務長官を務めたヘンリー・キッシンジャーや、そのはるか前の1947年に創設された国務省の初代政策企画本部長としてソヴィエト「封じ込め」政策を立案するも晩年は行き過ぎた東西対立の激化を憂慮したジョージ・ケナンが唱えた「地政学的プラグマティズム」だね。


実はビル&ヒラリー・クリントン夫妻を始めとする民主党が内包するネオコン的な好戦的OSを共和党の中のリバタリアン的な厭戦的OSが軌道修正してきたアメリカは、複眼思考が不得手な日本では、なかなか理解されにくい意外な一面だ。


インドシナ戦争がフランスの敗北で終結後、ヴェトナムの反共勢力を支援したのは共和党のドワイト・D・アイゼンハワー政権だけど、実際に正規軍を派遣して泥沼化させたのは日本で未だに評価が高いジョン・F・ケネディ政権だ。


その泥沼から抜け出すべく1973年にパリ平和協定の調印に漕ぎ着けたのはキッシンジャーで、戦争終結を宣言した大統領はウォーターゲート事件のリチャード・ニクソン。1960年の大統領選でケネディに敗北しているニクソン自身は皮肉にも1953年、大統領のアイクに「ヴェトコン=南ヴェトナム民族解放戦線」の前身にあたる「ヴェトミン=ヴェトナム独立同盟会」が拠点を構えた山岳地帯への小型原子爆弾使用を進言して却下された副大統領だったとは言え。


ロナルド・レーガン政権で外交アドヴァイザーを務め、現在はリバタリアン系シンクタンクのケイトー研究所でシニアフェローのダグ・バンドウは、保守系ウェッブサイト「アメリカン・コンサーヴァティヴ」に「欧米はウクライナを表向き支援しているが、それは平和を作る為ではない。紛争や戦争が長引くほど、死者の数と破壊の量は多くなるのに、モスクワと戦うウクライナ人が最後の1人になるまで武器を提供し、停戦という外交的解決をゼレンスキーが出来ないようにする欧米の私利私欲と偽善に世界は高い代償を払っているのだ」と寄稿している。Part1の冒頭で紹介したエマニュエル・トッドと同じ見解だね。


シンガポールの元国連大使でシンガポール国立大学アジア研究所名誉フェローのキショール・マンブバニも「ウクライナのNATO加盟を無謀に主張し、西側諸国からの武器供与を加速させた面々は、ウクライナの地政学的な子羊を虐殺に導き、大規模な世界的不安定を生み出した道義的責任を負うべき」とアメリカの『フォーリン・ポリシー』誌に寄稿している。


地政学的プラグマティズム、そして里山的な緩衝帯

田中 一般の国民は、問題ばかり起こすお騒がせな向こう隣の居住者から逃れるには、取り敢えずお金を工面して別の場所に引っ越す選択肢もあるけど、国家の場合は地政学上、相手を引っ越しさせることも自分が引っ越すことも出来ない。だから政治や外交の根幹である「言葉」を尽くして話し合うしかない。


と同時に、韓国と北朝鮮の38度線に象徴される「非武装中立地帯」的な必要悪としての「緩衝帯=バッファー」を設ける智慧も必要で、それが地政学的プラグマティズムだ。


「“プーチン完全粉砕”に傾く米国を日本は諫めよ」と語る外務省で欧州局長を務めた東郷和彦氏と共に『サンデー毎日』で僕は、ロシア周辺に一定の「緩衝帯=バッファー」を必要悪として欧米は容認すべきだったのに、今から31年前の1991年にワルシャワ条約機構(WPO)が廃止されても、いまだにNATOを拡大し続けようとする「西側諸国」こそ20世紀の“冷戦脳”のままではないかと述べ、「里山的な緩衝帯」の重要性を指摘した。


すると、東京大学先端科学技術研究センターの池内恵(さとし)を始めとして、お前はウクライナを見殺しにするのかと視野狭窄な脊髄反射をSNS上で連ツイする「意識高い系」が登場した。新潮社『Foresight』でご高説を垂れる池内は、キッシンジャーやケナンよりも自分は凄い学者だと自負しているみたいだ(苦笑)。フランツ・カフカの翻訳者として知られる父親の池内紀(おさむ)は天国で嘆いているぜ。


米欧日メディアは一向に報じないけど国連は4月22日、「ロシア軍がジェノサイドを行った証拠と情報を我々は得ておらず、ウクライナ側も無差別な影響を及ぼす武器使用で民間人に死傷者を生んでいる」と国連人権局長のミシェル・バチェレ人権高等弁務官が会見した動画をHPにアップした(動画報道)。


『現代ビジネス』の兄弟姉妹サイトとして知られる『クーリエ・ジャポン』には「ウクライナは「両者の橋渡し役」になるべきだ」「終戦には両陣営が不満を持つ解決策が必要だ」とキッシンジャーが、8年前の「クリミア併合」の最中に「ワシントン・ポスト」に寄稿した指摘が再録されている。それこそは里山的な緩衝帯の発想だ。

『クーリエ・ジャポン』にはマンブバニ(同サイトではキショール・マブバニと表記する)が「いまやプーチンと話をするには中国かインドを通す二つの道しかない」と冷静な論考をフランスの政治ニュース週刊誌『ル・ポワン』で語ったのも採録されている


「西側諸国が歩み寄っていく為には中国かインドに頼らざるを得ない。しかし、西側諸国はそれをせずに、ウクライナの「自由」を尊重し、ロシアとの「対話」を拒否する自己満足に陥っている」のだと。


シンガポールの国連大使まで務めた作家が何たる妄言を、と又しても脳天気にせせら笑い、アメリカにさえ付いていけば問題ないと妄信する「従米一本足打法」な日本の「国際政治学者」連中は、「外交とは友達同士のお喋りではない。先ずは敵と話し合わなければならない」「なぜ1990年代にロシアの民主化に取り組んだ(ミハイル・ゴルバチョフを始めとする)人たちに報いることをせず、逆に彼らを蔑(さげす)んでNATOの東方拡大をしたのでしょう」とのマンブバニの指摘を拳拳服膺(けんけんふくよう)なさい(苦笑)。


ソヴィエトが1979年にアフガニスタンに侵攻すると、ウサーマ・ビン・ラーディンに代表されるジハードに参加するムジャーヒディーンの面々に、あろうことか米国は資金提供し続けた。そこから現れたのがアル・カーイダで、更に変異種のような残党が「イスラム国」を自称して暴走したISIL。


だから、「自由主義」と「民主主義」の先生と日本では思われているアメリカ合衆国には一連の「製造物責任」があって、義勇兵だの精鋭部隊だの準軍事組織だのとメディアが喧伝(けんでん)するウクライナのアゾフ連隊も同じ文脈の中で捉えるべき。