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2022年7月4日月曜日

理論バカと現場バカのあいだの闘い

 ははあ、篠田英朗ちゃんはミアシャイマーのことを「理論バカ」と言ってるのかあ



惜しまれる人物だねえ、現場で立派な実績もあるし、内輪の業界で立派な賞をたくさん貰っているのに。




次のは池内恵ちゃんのリツートにより3月末に拾ったツイートだが、どうしてもNATO の東方拡大が宇露戦争の主因であることを否定したいことで一貫してんだな。


現場に徹してればよかったんだがなあ、なんたって経験主義の日本ってのは現場主義者をやたらに崇めちまうからなあ、それが現場バカだってさ。

ようするに理論バカと現場バカの対決ってわけだろうよ、ミアシャイマーは2014年にすでにこう言ってるわけで。


◼️ウクライナ危機はなぜ欧米のせいなのか ミアシャイマー

Why the Ukraine Crisis Is the West's Fault  By John J. Mearsheimer 2014 PDF 

NATOの拡大、EUの拡大、民主化促進という欧米のトリプルパッケージ政策は、発火を待つ火に油を注ぐことになった。201311月、ヤヌコビッチはEUと交渉していた大規模な経済協定を拒否し、代わりに150億ドルのロシアの逆提案を受け入れることを決定したことが火種となった。この決定が反政権デモを引き起こし、その後3カ月にわたってエスカレートし、2月中旬には約100人のデモ参加者が死亡する事態に発展した。欧米の使者は危機解決のためにキエフに急いだ。221日、政府と野党はヤヌコビッチに新しい選挙が行われるまで政権を維持させるという協定を結んだ。しかし、それはすぐに破談となり、ヤヌコビッチは翌日ロシアに逃亡した。キエフの新政権は根っからの親西欧・反ロシア派で、ネオ・ファシストと呼ぶにふさわしい4人の高官を擁していた。

The West's triple package of policies -- NATO enlargement, EU expansion, and democracy promotion -- added fuel to a fire waiting to ignite. The spark came in November 2013, when Yanukovych rejected a major economic deal he had been negotiating with the EU and decided to accept a $15 billion Russian counteroffer instead. That decision gave rise to antigovernment demonstrations that escalated over the following three months and that by mid-February had led to the deaths of some one hundred protesters. Western emissaries hurriedly flew to Kiev to resolve the crisis. On February 21, the government and the opposition struck a deal that allowed Yanukovych to stay in power until new elections were held. But it immediately fell apart, and Yanukovych fled to Russia the next day. The new government in Kiev was pro-Western and anti-Russian to the core, and it contained four high-ranking members who could legitimately be labeled neofascists.  



米国の関与の全容はまだ明らかにされていないが、米国がクーデターを支持したことは明らかである。ヌーランドと共和党のジョン・マケイン上院議員は反政府デモに参加し、ジェフリー・パイアット駐ウクライナ大使はヤヌコビッチ政権崩壊後に「歴史に残る一日だ」と宣言している。流出した電話録音で明らかになったように、ヌーランドは政権交代を唱え、ウクライナの政治家アルセニー・ヤツェニュクを新政府の首相に就任させようとし、それを実現させたのである。あらゆる立場のロシア人が、ヤヌコビッチの失脚に西側が一役買ったと考えても不思議はない。

Although the full extent of U.S. involvement has not yet come to light, it is clear that Washington backed the coup. Nuland and Republican Senator John McCain participated in antigovernment demonstrations, and Geoffrey Pyatt, the U.S. ambassador to Ukraine, proclaimed after Yanukovych's toppling that it was “a day for the history books.” As a leaked telephone recording revealed, Nuland had advocated regime change and wanted the Ukrainian politician Arseniy Yatsenyuk to become prime minister in the new government, which he did. No wonder Russians of all persuasions think the West played a role in Yanukovych's ouster. 



ミアシャイマー論文に対する質疑応答箇所

そう、201311月から2014222日にかけての蜂起で、ファシスト集団が重要な役割を果たしたことは、よく知られていると思います。これはよく実証されていることです。さらに、ヤヌコビッチ氏が去った後、新政府が発足したとき、その新政府には、私が正当にファシストと呼ぶことができると思う4人の人物が含まれていたことも明らかです。


このことがロシア側を大いに悩ませたことは明らかです。そして、これがヤヌコビッチに恐怖を与え、私がクーデターと呼ぶものによって、彼が国を去る際に重要な役割を果たしたことは間違いないでしょう。

Yes, I think it's quite clear that fascist groups played a key role in the uprising between November 2013 and February 22, 2014. This is well documented. And furthermore, it's clear, when the new government took over after Yanukovych left, that that new government included four individuals who I think could legitimately be called fascists. 


And it's very clear that this concerns the Russians greatly. And there's no question this is what scared Yanukovych and played a key role in his leaving the country, in what I call a coup.


直近では次の通り。


◼️ウクライナ戦争の原因と帰結 ジョン・J・ミアシャイマー2022/06/23

The Causes and Consequences of the Ukraine War

John J. Mearsheimer  June 23, 2022

米国とその同盟国は、ウクライナをロシアとの国境にある西側の拠点とする計画を進め続けていた。20142月、米国が支援する暴動によって親ロシア派のヤヌコビッチ大統領が国外退去し、大きな危機が発生した。ヤヌコビッチ大統領に代わり、親米派のアルセニー・ヤツェニュク首相が就任した。これに対し、ロシアはウクライナからクリミアを奪取し、ウクライナ東部のドンバス地方で親ロシア派の分離主義者とウクライナ政府との間の内戦を助長することになった。

… the United States and its allies continued moving forward with their plans to make Ukraine a Western bastion on Russia’s borders. These efforts eventually sparked a major crisis in February 2014, after a US-supported uprising caused Ukraine’s pro-Russian president Viktor Yanukovych to flee the country. He was replaced by pro-American Prime Minister Arseniy Yatsenyuk. In response, Russia seized Crimea from Ukraine and helped fuel a civil war between pro-Russian separatists and the Ukrainian government in the Donbass region of eastern Ukraine.〔・・・〕

NATO同盟は2014年にウクライナ軍の訓練を開始し、その後8年間で毎年平均1万人の訓練された部隊を生み出した。 The alliance began training the Ukrainian military in 2014, averaging 10,000 trained troops annually over the next eight years.

もし欧米がNATOのウクライナ進出を進めていなければ、今日ウクライナで戦争が起こっているとは考えられず、クリミアはまだウクライナの一部だっただろうというのが、悲劇的な真実である。要するに、ワシントンはウクライナを破滅への道に導く中心的な役割を果たしたのである。歴史は、ウクライナに対する極めて愚かな政策について、米国とその同盟国を厳しく裁くことになるだろう。ありがとう。

The tragic truth is that if the West had not pursued NATO expansion into Ukraine, it is unlikely there would be a war in Ukraine today and Crimea would still be part of Ukraine. In essence, Washington played the central role in leading Ukraine down the path to destruction. History will judge the United States and its allies harshly for their remarkably foolish policy on Ukraine. 



歴史は理論バカを裁くのか、現場バカを裁くのかどっちだろうねえ。現場バカはコモノ感がありすぎるように見えないでもないけどさ。


理論の正しさは経験からは演繹できない。いや、経験から演繹できるような理論は、真の理論とはなりえない。真の理論とは日常の経験と対立し、世の常識を逆なでする。それだからこそ、それはそれまで見えなかった真理をひとびとの前に照らしだす。 (岩井克人『二十一世紀の資本主義論』2000年)



蓮實は現場主義者をかねてからバカにしてるけどさ、日本的環境では、丸山真男がむかし言っていたが、理論派がほとんどゼロに近いから日本言論界ではことさらそうしないとなあ


実際にこの目で見たりこの耳で聞いたりすることを語るのではなく、見聞という事態が肥大化する虚構にさからい、見ることと聞くこととを条件づける思考の枠組そのものを明らかにすべく、ある一つのモデルを想定し、そこに交錯しあう力の方向が現実に事件として生起する瞬間にどんな構図におさまるかを語るというのが、マルクス的な言説にほかならない。だから、これとて一つの虚構にすぎないわけなのだが、この種の構造的な作業仮説による歴史分析の物語は、その場にいたという説話論的な特権者の物語そのものの真偽を越えた知の配置さえをも語りの対象としうる言説だという点で、とりあえず総体的な視点を確保する。(蓮實重彦『凡庸な芸術家の肖像』1988年)


この蓮實の言ってることはマルクスとフロイトを精神的師匠とするレヴィ=ストロースの『悲しき熱帯』の冒頭の文のヴァリエーションだ。


私は旅や探検が嫌いだ。それなのに、いま私はこうして自分の探検旅行のことを語ろうとしている。だが、そう心に決めるまでにどれだけ時間がかかったことか!〔・・・〕

研究の目的に到達するために、これほどの努力とむだな消耗が必要だということは、私たちの仕事のむしろ短所とみなすべきで、なんらとりたてて賞賛すべきことではない。私たちがあれほど遠くまでさがし求めにいく真理は、このような挟雑物を取り去ったのちに、初めて価値をもつのである。(レヴィ=ストロース『悲しき熱帯』川田順造訳)

Je hais les voyages et les explorateurs. Et voici que je m'apprête à raconter mes expéditions. Mais que de temps pour m'y résoudre! [...]


Qu'il faille tant d'efforts, et de vaines dépenses pour atteindre l'objet de nos études ne confère aucun prix à ce qu'il faudrait plutôt considérer comme l'aspect négatif de notre métier. Les vérités que nous allons chercher si loin n'ont de valeur que dépouillées de cette gangue. 


楽しみだなあ、理論バカと現場バカのあいだの闘いはどういう顛末を生むのか。

でも現場バカはどうしてウクライナのネオナチ否定しちゃったんだろ、不思議でならないねえ。


率直に言って、現在のウクライナ紛争におけるネオナチの役割を軽視していることは不可解でしかない[frankly, the downplaying of the role of neo-Nazis in the current Ukrainian conflict is just baffling](ダニエル・コバリクDaniel Kovalik『ロシアをスケープゴート化する陰謀(The Plot to Scapegoat Russia)』2017年)


◼️「国際法上、ロシアのウクライナ介入が合法な理由」ダニエル・コバリク

Daniel Kovalik: Why Russia's intervention in Ukraine is legal under international law, 23 Apr, 2022

20222月のロシア軍侵攻に先立つ8年間、ウクライナではすでに戦争が起こっていたという事実を受け入れることから、議論を始めなければならない。そして、キエフ政府によるドンバスのロシア語圏の人々に対するこの戦争は、ロシアの軍事作戦以前から約14000人(その多くは子ども)の命を奪い、さらに約150万人を難民化させた戦争であり、間違いなく大量虐殺であった。つまり、キエフの政府、特にそのネオナチの大隊は、まさに民族性の理由で民族的ロシア人を少なくとも部分的には破壊することを意図して、これらの人々に対する攻撃を行ったのである。

米国政府やメディアはこうした事実を必死に隠そうとしているが、否定できない事実であり、それが不都合になる以前には、欧米の主流メディアが実際に報道していたのである。

One must begin this discussion by accepting the fact that there was already a war happening in Ukraine for the eight years preceding the Russian military incursion in February 2022. And, this war by the government in Kiev against the Russian-speaking peoples of the Donbass – a war which claimed the lives of around 14,000 people, many of them children, and displaced around 1.5 million more even before Russia’s military operation – has been arguably genocidal. That is, the government in Kiev, and especially its neo-Nazi battalions, carried out attacks against these peoples with the intention of destroying, at least in part, the ethnic Russians precisely because of their ethnicity.

While the US government and media are trying hard to obscure these facts, they are undeniable, and were indeed reported by the mainstream Western press before it became inconvenient to do so. …


ほとんどの現場バカは木を見て森を見ないという救い難い欠点があるからなあ。ま、今からでも遅くないからネオナチ分析してみたらどうだろ、なぜ西側諸国や西側主流メディアはこぞってネオナチ国家を応援してしまったのか、2022年という年は歴史にその不可思議さを刻んだ記念すべき年だよ。


いくら現場バカだってシュミットやカストロの言葉ぐらい知ってるだろ?



民主主義に属しているものは、必然的に、まず第ーには同質性であり、第二にはーー必要な場合には-ー異質なものの排除または殲滅である。〔・・・〕民主主義が政治上どのような力をふるうかは、それが異邦人や平等でない者、即ち同質性を脅かす者を排除したり、隔離したりすることができることのうちに示されている[Zur Demokratie gehört also notwendig erstens Homogenität und zweitens - nötigenfalls -die Ausscheidung oder Vernichtung des Heterogenen.[...]  Die politische Kraft einer Demokratie zeigt sich darin, daß sie das Fremde und Ungleiche, die Homogenität Bedrohende zu beseitigen oder fernzuhalten weiß. ](カール・シュミット『現代議会主義の精神史的地位』1923年版)


ヨーロッパで起きる次の戦争はロシア対ファシズムだ。ただし、ファシズムは民主主義と名乗るだろう。La próxima guerra en Europa será entre Rusia y el fascismo, pero al fascismo se le llamará democracia(フィデル・カストロ Fidel Castro、Max Lesnikとの対話にて、1990年)