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2022年7月15日金曜日

Xデイの可能性は?「日銀の債務超過、円暴落、ハイパーインフレ」

 


日銀“異次元”死守のツケ 海外ファンドとの攻防【7月4日(月)#報道1930


このBS-TBS「報道1930」の16分少し前から始まる早川英男・藤巻健史・加谷珪一の討論がある。この三人は今まで何度か引用してきた方々で、この数年のあいだとても勉強させてもらった。


たしか日銀の知恵袋と呼ばれたこともあったと記憶する元日銀理事の早川英男、かつてのモルガン銀行(現JPモルガン・チェース銀行)東京支店長兼日本代表の藤巻健史、野村證券グループの投資ファンド運用会社を経て独立したコンサルタントの加谷珪一である。


藤巻健史氏のホームベージにはこうある。


元日銀理事の早川英男さん、経済評論家の加谷珪一さんとの昨日の討論(BS-TBS「報道1930」)は番組ホームページから見ることができます。「日銀”異次元“死守のツケ 海外ヘッジファンドとの攻防」。最初から16分00くらいから始まります。

X デイが来る予想時期の差はありますが、早川さん、加谷さんとも本音はかなり悲観的だと感じました。早川さんは「財政がこのままで改善しなければ藤巻シナリオになりうる」、加谷さんは「財政改善や成長戦略を示せれば時間稼ぎは出来る」とおっしゃっていましたが、今のバラマキ政治が急激に財政健全化に変わるとは到底思えません。それに、それらの議論でどうにかなるには、あまりに遅すぎます。

なお、時間の制約があったので発言できなかったのですが、この録画を見るうえで、頭に留めておいておきたいことが何点かあります。代表的な点は①長期金利を中央銀行がコントロール出来ると思っているのは黒田日銀のみ。それにチャレンジしているのが黒田日銀②国債を爆買いするとはその分、お金をバラマクということ。③通貨高はインフレ防衛の最大の武器(特に完全雇用時)。したがってインフレが最大の問題の米国はドル高が不可欠。


藤巻氏は上のように書いているが、この討論では、早川氏は種々の条件をつけながらの「藤巻シナリオになりうる」、加谷氏もまだそこまでは、というようなニュアンスを見せている。二人ともどこか歯にものが挟まったような言い方で、「Xデイ」の訪れを否定も肯定もしていないという印象を受ける。


藤巻健史氏のいうXデーとは「日銀の債務超過、円暴落、ハイパーインフレ」である。

藤巻氏はインフレに関しては「今のところ日本は世界中で一番マイルドな値上げだが、これから日本は世界中で一番激しい値上げがくる」としている。


円安に関しては、「日銀は金利を上げないのか、上げられないのか」の問いに収斂する。

藤巻健史 間違いなく上げられない


早川英男 現状は上げられないのではなく上げない


加谷珪一 先ほどの藤巻さんのご意見はかなり悪い状態を想定したご意見…(ただし)政府日銀は上げたくはないと思うんですね


と言っているが、加谷珪一は少し前には次のように書いているのである。

日本は、金融正常化どころか量的緩和策から脱却する道筋がまったく見えておらず、金利を上げたくても上げられない状況にある。(加谷珪一 「1ドル=125円超え…日本人の生活を直撃する「円安」がここまできた「4つの理由」」2022.03.30


というわけだが、さて藤巻シナリオの可能性の判断はーー、皆さんにお任せしよう・・・

なお藤巻氏は、4月時点で既に、1979年に行われたボルカーFRB議長による衝撃の「サタデーナイト・スペシャル」、つまり10年物金利20%さえありうることを示唆している。

◼️《危ない円安》ハイパーインフレで「新通貨」しかない=藤巻健史

2022年4月18日

拡大し続ける日米金利差


 FRBは3月16日にゼロ金利解除を決めたものの、ばらまかれた資金の回収はまだ始まっていない。史上最大限に供給された資金が世の中に満ちあふれている状態だ。この資金の回収は5月に始まると予想されてはいるが、史上最大級のインフレと、史上最大級の金融緩和が両立するはずがない。FRBは急速に利上げを行い、資金を回収していかざるを得ないだろう。

 それでも引き締めが遅れ、1979年に当時のボルカーFRB議長が行った「サタデーナイト・スペシャル」の再現があるかもしれない。これはサマーズ元米財務長官の意見でもある。サタデーナイト・スペシャルとは金利上昇に目をつぶり、マネーサプライ(資金供給量)の伸びを抑制する政策で、10年物金利は20%、フェデラルファンド(FF)レートは24%まで上昇したと記憶している。


 一方、日銀は3月18日に大規模緩和の維持を決め、追加緩和も辞さない姿勢を示した。長期金利の上昇を許さない姿勢を明確に示す「指し値オペ(決まった金利で無制限に国債を買う市場操作)」をも行ったのだ。この日米当局の金利に対する態度は、強烈なドル高・円安をもたらすことになるだろう。



今後の「穏やかな」政策金利予想は、SMBC信託銀行 投資調査部(2022 年 7 月 11 日)には次のようにある。





なお4月初頭の「日経」には1%金利格差は約8%円安を生むとの分析があった。





ボルカーの「サタデーナイト・スペシャル」は当面脇にやるとしても、現在の円ドルレート140円弱は、日銀が今の政策のままであるなら、まだ序の口レートであるだろう。


なおかつて「金利上昇がもたらす、悪夢のシナリオ」(2013年)を実に正当的に指摘した野口悠紀雄でさえ、この今の日銀の長期金利抑制政策は是正すべきだとしている。つまり日銀は「金利は上げられないのではなく上げなくてはならない」の立場であるーー「日銀の6月国債購入「過去最大」の異常、長期金利抑制は財政に望ましいか」(2022/07/14



金利が上がると国債費増えるが
本当の狙いは日銀の債務超過回避


 上でみたように2020年度の国債大量発行によって後年度負担は増えていない。

 しかし、将来、金利が上昇すれば、国債費は増える。

「後年度影響試算等」によると、金利が想定より1%上昇した場合、25年度の元利払いの負担は3.7兆円増える。

 こうした事態を避けるために、日銀が長期金利を抑え込もうとするのはあり得ないことではない。


 実際、13年から行われた異次元金融緩和政策の本当の目的の一つは、財政資金調達コストの引き下げであったと考えられる(もう一つの本当の目的は、円安によって企業の利益を増加させること。なお、ここで「本当の目的」とは、消費者物価上昇率が「表向きの目的」に過ぎないという意味で言っている)。


 しかし、それにしては今回の日銀の金利抑制の行動は異常すぎる。

 3.7兆円の財政支出増は、財政当局にとって確かに大きな問題だが、どうしても対処できないほどのものではない。


 むしろ、長期金利の無理な抑制で国債市場が機能しなくなり、国債発行による資金調達に支障が生じるほうが大きな問題だ。


 したがって、日銀が長期金利の上昇を断固として認めない理由は、国債費の抑制ではなく、日銀自身の事情、つまり、金利上昇による保有国債の評価損や日銀当座預金の付利負担増で債務超過に陥ることを避けたいことだと考えざるをえない。

 このことは本コラム「日本銀行が利上げで数十兆円の『債務超過』に陥ると何が起きるか」(2022年6月23日付)、「円安135円まで急加速、円安・物価上昇でも日銀が利上げをしない『国民軽視』の理由」(22年6月16日付)で指摘したことだ。





通常は金利が1%上がれば、1000兆円の債務残高であるなら10兆円(消費税4%相当)だがーー実際は地方債も含めて1200兆円超あるーー、10年債の比重が高く直ちにはそうならない(借り換えによって徐々にそうなる)。0.8➡︎2.1➡︎3.7となっているのはその意味。つまり雪だるま式に利払いが増えてゆく。これが「悪夢のシナリオ」なのだが、それをいちはやく指摘した野口悠紀雄でさえ、この今、上のように言っているのである。



(このデータは数字が古いことは別にして)利払いが10年先に50兆円増えたって、例えば消費税20%上乗せして30%にしたら何とかなりうる、今の国債市場が機能しなくなりつつある異常政策や円安怒涛などよりはまだマシだ、という立場を野口氏はとっているように見える(消費税1%増は現在約2.5兆円)。実際、先に掲げた米国の政策金利予想に基づくなら、日銀は今年中に4%ほどに金利を上げないと円安は止まらないだろう。

日本の異常政策の代表的なもうひとつは、世界一の少子高齢化社会にもかかわらず、消費税(付加価値税)が異様に低いことであるのは間違いない。



だが日本的民主主義社会ーー、デモクラシーとは定義上「大衆の支配」であるーーでは、これらの異常さを正常化するのが甚だしく困難なのも間違いない。


大衆は怠惰で短視眼である。大衆は、欲動を断念することを好まず、いくら道理を説いてもその必要性など納得するものではなく、かえって、たがいに嗾しかけあっては、したい放題をする。denn die Massen sind träge und einsichtslos, sie lieben den Triebverzicht nicht, sind durch Argumente nicht von dessen Unvermeidlichkeit zu überzeugen, und ihre Individuen bestärken einander im Gewährenlassen ihrer Zügellosigkeit. (フロイト『あるイリュージョンの未来 Die Zukunft einer Illusion』第1章、1927年)



この短視眼ーーポピュリスト政治家や知識人さえも含めたーーが大きく貢献しての世界において突出した債務残高である。




ピケティは既に10年以上前、こう言っている。



われわれは日本の政府債務をGDP比や絶対額で毎日のように目にして驚いているのだが、これらは日本人にとって何の意味も持たないのか、それとも数字が発表されるたびに、みな大急ぎで目を逸らしてしまうのだろうか。

Tous ces chiffres exprimés en pourcentages de PIB ou en milliers de milliards - dont on nous abreuve quotidiennement - ont-ils un sens, ou bien doit-on tourner la page dès qu’ils réapparaissent ? (トム・ピケティ『新・資本論』2011年ーーJapon : richesse privée, dettes publiques Par Thomas Piketty avril 2011