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2023年8月12日土曜日

くらがりにうごめく幼虫

 

Zhu Xiao-Mei

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Sinfonia No. 7 in E Minor, BWV793

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Sinfonia No. 11 in E Minor, BWV797

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The Well-Tempered Clavier, Book 2, Prelude & Fugue No. 9 in E Major, 

BWV878: II. Fugue

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Die Kunst der Fuge, BWV1080: Canon per augmentationem in contrario motu

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The Well-Tempered Clavier, Book 1, Prelude & Fugue No. 8 in E-Flat Minor, BWV853: II. Fugue

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Sonate pour clavier in F-Sharp Minor, K69 





この音楽のなかで、くらがりにうごめくはっきりしない幼虫[ larves obscures alors indistinctes] のように目につかなかったいくつかの楽節が、いまはまぶしいばかりにあかるい建造物になっていた。そのなかのある楽節はうちとけた女の友人たちにそっくりだった、はじめはそういう女たちに似ていることが私にはほとんど見わけられなかった、せいぜいみにくい女たちのようにしか見えなかった、ところが、たとえば最初虫の好かなかった相手でも、いったん気持が通じたとなると、思いも設けなかった友人を発見したような気にわれわれがなる、そんな相手に似ているのであった。このような二つの状態のあいだに起きたのは、まぎれもない質の変化ということだった。それとはべつに、いくつかの楽節によっては、はじめからその存在ははっきりしていたが、そのときはどう理解していいかわからなかったのに、いまはどういう種類の楽節であるかが私に判明するのであった……(プルースト「囚われの女」井上究一郎訳)