蓮實重彦の「ドリップ・フィルターと裸のお尻の割れ目」をめぐる「些事のこだわり」を読んで思い出しちゃったよ、粕谷栄市の「色が白くて小さい尻をした蕎麦屋の娘」の話を。
西片町 粕谷栄市 |
夏の日、涼しい縁側で、片肘をついて、寝転んでいた い。久しぶりに、おふくろのいる家に戻って、何もしな いで、ゆっくりしていたい。 一人前の左官職人になって、間もない私は、その日は、 仕事の休みの日だ。何もすることがないし、したいこと もない。ただ、ぼんやり、横になって、片肘をつき、垣 根に咲いている、青い朝顔の花を眺めていたいのだ。 |
考えていることといえば、まだ、よく知らない娘のこ とだ。娘は、たしか、自分と同い年で、片西町の蕎麦屋 につとめている。色が白くて、小さい尻をしている。 思えば、この私には、一生、そんな日はないのだけれ ど。夢のなかの西片町の蕎麦屋に行くこともないのだけ れど。もう、とっくに死んでいて、どこかの寺の墓石の 下で、若い左官屋の幻をみているのだけだけれど。 |
いいなあ、こういった詩に触れると人生間違ったなと思っちゃうよ、
粕谷栄市は今年、「ぼくは肉体労働をしている人しか信用できないところがあって、」と言ってるそうだけどさ(参照)、1934年生まれだから、89歳なんだよな。
今からでもいいから肉体労働しっかりしようかね、最近庭いじりをして一枚25キロの花崗岩の敷石を10枚ほど動かしたところだけど、菫の花の鉢だっていいんだよな
小さな花 粕谷栄市 |
この世の日々をよく生きるためには、どんなささやか
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だが、そのような人々に限って、そのための自由な時 一度だけ、短い夢のなかで、私は、菫の花の鉢を抱え
ーー『楽園』所収(思潮社、2023年10月25日発行) |
ゴダール、映画史 1A |
お尻ってのは眺めるだけじゃね、やっぱり抱えて菫の匂いを嗅がないと。
小津安二郎、秋刀魚の味 |
けやきの木の小路を
よこぎる女のひとの
またのはこびの
青白い
終りを
⋯⋯
路ばたにマンダラゲが咲く
ーー西脇順三郎『禮記』