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2024年7月14日日曜日

尊厳と静謐な品位

 


実に「正しい」こと言ってるね、プーチンは。人生の三つの主要価値は、人生・愛・自由だと。とはいえ私は変化球を投げる悪癖があるが。


人生

死とは、私たちに背を向けた生の相であり、私たちが決して見ることのない生の相です[Der Tod ist die uns abgekehrte, von uns unbeschienene Seite des Lebens](リルケ書簡 Rainer Maria Rilke, Brief an Witold von Hulewicz vom 13. November 1925ーー「ドゥイノの悲歌」について)

人生の目標は死である[Das Ziel alles Lebens ist der Tod] 〔・・・〕有機体はそれぞれの流儀に従って死を意志する。生命を守る番兵も元をただせば、死に仕える衛兵であった[der Organismus nur auf seine Weise sterben will; auch diese Lebenswächter sind ursprünglich Trabanten des Todes gewesen. ](フロイト『快原理の彼岸』第5章、1920年)

愛への意志、それは死をも意志することである[ Wille zur Liebe: das ist, willig auch sein zum Tode]。おまえたち臆病者に、わたしはそう告げる[Also rede ich zu euch Feiglingen! ](ニーチェ『ツァラトゥストラ』  第2部「無垢な認識」1884年)

死は愛である [la mort, c'est l'amour]. (Lacan, L'Étourdit  E475, 1970)

自由

自由とは、究極的に「死を選ぶ自由」以外の何ものでもない[freedom is ultimately nothing else than‘the freedom to choose to die'](バゾリーニ、ーーロレンゾ・チーサLorenzo Chiesa, Lacan and Philosophy: 2014より)

自由か生か [La liberté ou la vie ]。自由を選ぶなら、死への自由がある。[Vous choisissez la liberté, eh bien, c'est la liberté de mourir.  ]…自由とは、選択する自由を示すことだ[vous démontrez que vous avez la liberté du choix. ](ラカン, S11, 27  Mai  1964)



私が一番好きなのは上の文章群ではなく、次の文だがね。


昔は誰でも、果肉の中に核があるように、人間はみな死が自分の体の中に宿っているのを知っていた(あるいはおそらくそう感じていた)。子どもは小さな死を、おとなは大きな死を自らのなかにひめていた。女は死を胎内に、男は胸内にもっていた。誰もが死を宿していた。それが彼らに特有の尊厳と静謐な品位を与えた。

Früher wußte man (oder vielleicht man ahnte es), daß man den Tod in sich hatte wie die Frucht den Kern. Die Kinder hatten einen kleinen in sich und die Erwachsenen einen großen. Die Frauen hatten ihn im Schooß und die Männer in der Brust. Den hatte man, und das gab einem eine eigentümliche Würde und einen stillen Stolz.(リルケ『マルテの手記』1910年)


高校時代に読んで半世紀たったって胸内の刻印はけっして消えないよ、不幸にも胎内には刻まれていないが。


仕方がないから名だけ「蚊居肢」にしたんだ。

おお、小さな生き物の至福さよ。

それはいつまでも胎内に在る、それを月満ちるまで懐妊していた母胎のなかに。

おお、蚊の幸福よ、それは婚礼の時でさえ

なお母胎のなかで踊っている。というのも一切が母胎なのだから。


O Seligkeit der kleinen Kreatur,

die immer bleibt im Schooße, der sie austrug;

o Glück der Mücke, die noch innen hüpft,

selbst wenn sie Hochzeit hat: denn Schooß ist Alles.


リルケ『ドゥイノ』第八悲歌