ぺぺ・エスコバルが絶賛推奨のマイケル・ハドソンの「トランプのメキシコと全世界への国際収支戦争」Trump's Balance-of-Payments War on Mexico, and the Whole World by Michael Hudson, January 24, 2025 をアキさんが訳してくれている。
➤邦訳
このハドソンの論はトランプの世界経済フォーラム(ダボス会議)演説の発言がベースになっている➤邦訳
特に次の発言をめぐっている、
2025年1月23日、ドナルド・トランプはDavos Economic Forum(ダボス経済フォーラム)で、「アメリカで製品を作れば、世界で最も低い税金を提供する」と言った。もし企業が他国で生産を続ければ、ドナルド・トランプは脅迫する形で20%の関税を課すと言っている。 ドイツに対しては、「エネルギー価格が急騰したことに対して申し訳ないが、アメリカに来れば、ロシアからの供給を遮断する前の価格でエネルギーを得ることができる」と言っているようなものだ。 |
Trump told the Davos Economic Forum January 23: “My message to every business in the world is very simple: Come make your product in America and we will give you among the lowest taxes of any nation on earth.” Otherwise, if they continue to try and produce at home or in other countries, their products will be charged tariff rates at Trump’s threatened 20%. To Germany this means (my paraphrase): “Sorry your energy prices have quadrupled. Come to America and get them at almost as low a price as you were paying Russia before your elected leaders let us cut Nord Stream off.” |
で、ハドソン曰く、トランプや彼の経済アドバイザーはその悲惨な帰結がわかっていないと。 |
鍵となるのは、ドナルド・トランプが脅す関税と貿易制裁が引き起こす国際収支の不均衡にある。ドナルド・トランプやその経済アドバイザーたちは、これらの政策が世界の通貨や貿易に与える影響を理解していないようだ。その結果、世界経済における金融的な破綻が避けられなくなる可能性が高い。 |
the key is to be found in the balance-of-payments effect of Trump’s threatened tariffs and trade sanctions. Neither Trump nor his economic advisors understand what damage their policy is threatening to cause by radically unbalancing the balance of payments and exchange rates throughout the world, making a financial rupture inevitable. |
(Trump's Balance-of-Payments War on Mexico, and the Whole World by Michael Hudson, January 24, 2025) |
マルキストのマイケル・ハドソンだが、この論文ではケインズのバンコールーー「BRICS通貨の誤解ーー実際はケインズのバンコール bancor」ーーなどに触れつつ、おそらく一般にはいくらか難解だろうが、話を展開している。
以下、一般にもわかりやすいだろう箇所をアキさんの訳文から抽出して掲げる。
ドナルド・トランプ(Donald Trump)の関税や貿易を巡る威嚇には、基本的な錯覚的倫理原則が働いている。この原則は、アメリカ合衆国が世界経済を一極支配することを合理化するために構築した広範な「物語(ナラティブ)」の根底にある。 その原則とは、互恵性が利益と成長の公平な分配を支えるという錯覚¹であり、アメリカの語彙ではこれが民主主義的価値観や自由市場に関するお決まりの議論と結びつけられ、米国主導の国際システムが「自動安定装置」を提供するという幻想が語られている。〔・・・〕 |
ドナルド・トランプが関税と貿易制裁を使って輸入を妨げる結果、米ドルの為替レートは短期的に急騰するだろう。この為替レートの変動は、メキシコやカナダが圧迫されるのと同じように、米ドル建ての債務を抱える他国を圧迫することになる。彼らは自国を守るため、ドル建て債務の支払いを一時停止しなければならない。〔・・・〕 |
トランプが有権者に「アメリカは国際貿易や金融協定で必ず勝者でなければならない」と約束したとき、彼は世界の他国に対して経済戦争を宣言したことになる。 トランプは世界に対して、彼らが敗者でなければならず、ロシアがヨーロッパに侵攻したり、中国が台湾や日本、その他の国々に軍を送った場合に提供する軍事的保護の対価として、この事実を快く受け入れなければならないと言っている。この幻想は、ロシアが崩壊しつつあるヨーロッパ経済を支えることに何の利益があるのか、または中国が経済的に競争する代わりに軍事的に競争することを決定するというものだ。 このディストピア的な幻想には傲慢が働いている。世界の覇権国家として、アメリカ外交は外国の反応を考慮することがほとんどない。その傲慢の本質は、他国が米国の行動に対して反発することなく受け入れるだろうと単純に仮定することにある。〔・・・〕 |
アメリカの国内政治も同様に不安定だ。トランプの「アメリカ第一」政治劇が彼を当選させたが、それが彼の一派が政権から追い出される原因となるだろう。彼の関税政策はアメリカの価格インフレを加速させ、さらに致命的には、アメリカおよび外国の金融市場に混乱を引き起こすことになる。 供給網は混乱し、航空機から情報技術まで、アメリカの輸出が中断されるだろう。 おそらく長期的には、これは悪いことではないかもしれない。しかし、問題は短期的な視点において、供給網、貿易パターン、依存関係が新しい地政学的経済秩序の一部として置き換わることだ。これはアメリカの政策が他国に開発させようとしているものだ。 トランプは、既存の国際貿易と金融のリンクと相互関係を引き裂こうとする試みを、混沌とした掻き集めの中でアメリカが最終的に勝利するという前提に基づいている。
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※追記
◾️Michael Hudson: Weaponizing the US Dollarより抜粋 https://globalsouth.co/2025/01/14/michael-hudson-weaponizing-the-us-dollar/ |
Акичка@4mYeeFHhA6H1OnF Jan 27, 2025 アメリカの地政学的パワーは金融サービスに依存し、中国のパワーは製造業に依存している。 そのため、トランプ氏は世界の石油やLNG(液化天然ガス)の供給を支配しようとする一環として、アメリカの力を金融システムに基づかせようとしている。 彼は最近、ドルの代替手段を模索しているBRICS諸国を罰するぞと脅迫した。 この戦略は、他国がアメリカドルと金融市場へのアクセスを必要としているという事実に基づいている。 これは、アメリカの商業的支配下にある石油や情報技術が必要とされるのと同じ構造だ。 アメリカはロシアや他国をSWIFT銀行決済システムから排除しようと試みたが、制裁でよく見られるように、ロシアと中国は独自の代替システムを構築したため、この計画は失敗した。 アメリカはイングランド銀行を通じてベネズエラの金を押収し、それを右派の反対派に提供した。この策は成功した。 また、EUとアメリカは共同でロシアの外国資産としてのドル保有額3000億ドルを差し押さえた。 これも成功し、EUはその利子(約500億ドル)をウクライナに与えてロシアとの戦いを支援した。 |
しかしその前に、アメリカはウクライナの外貨準備高をすべて差し押さえ、表向きはウクライナが抱えている借金の返済に充てることにした。この金がウクライナの再建に使われるとは思えない。これは単に、アメリカの資産収奪のパターンを反映している。 カダフィがリビアの金塊を利用して、アフリカの中央銀行が保有するドルに代わる金ベースの通貨を作ろうとした時、米軍はリビアの金塊を奪った。 そしてアメリカは、征服の戦利品として石油輸出だけを残し、撤退する際にシリアの金塊を奪った。 アフガニスタンの金準備についても同様だ。 つまり、米国は金が世界の通貨システムで再び重要な役割を果たすことを期待しているのだ。 (さらに侮辱的なことに、米当局がイランの埋蔵金から差し押さえた金をやっとイランに返した時、イランはこれを「贈り物」と呼び、議会はこの行為を攻撃した) |
ここで大きな疑問は、アメリカの金融政策の攻撃性が長期的にどのように作用するのかということだ。 他国を遠ざけるのか? それとも、他のアメリカの国際的な試みのように、自滅的になるのか? 次に、アメリカの金融支配の試みに対する世界の通貨システムがどのように進化する可能性があるのかを話そうと思う。 私には、そんな試みは達成不可能に見える。 アメリカや他のどの国が、金融だけを基盤に国際的な力を構築できると想像できるのか? 全ての国が金融や通貨を創出することはできるが、全ての国が産業化できるわけではない。 特に、アメリカやドイツが再産業化することは容易ではない。 アメリカは脱工業化し、ネオリベラルな民営化政策によって経済を多大な債務負担、健康保険コスト、不動産コストで圧迫している。 FIREセクター(金融、保険、不動産)はGDPの中での割合を増やしているが、その収入は「製品」に基づくものではない。 それは、生産と消費経済からレント経済(Rentier Economy:生産的な労働や製品の製造ではなく、資産(不動産、特許、金融など)の所有や独占的権利を通じて利益を得る経済構造)への移転支払いにすぎない。 これにより、アメリカのGDPは中国の社会化市場経済に比べてはるかに「空虚」なものとなっている。 信用コストや家賃が上昇すれば、GDPも上昇する。 今日の通貨はコンピュータ上で創出される。 強力で自立した国や地域のグループなら、自分達で通貨を創造できる。 もはや通貨や債務を銀や金の延べ棒に基づける必要はない。 だから、トランプ氏が過去の世界に生きていると思う。 (中略) |
アメリカが非常に強かったのは、金が中央銀行の主要な資産だった過去の世界だ。 第二次世界大戦後、アメリカ財務省は世界の中央銀行の80%の金を独占していた。 1950年、朝鮮戦争が勃発した時には、その状態が維持されていた。他国はドルが必要であり、アメリカから輸出品を購入し、ドル建ての債務を支払うために金を売却してドルを得ていた。 しかし、1971年までに、アメリカの対外軍事支出がその支配を失わせた。 1967年、私がアーサー・アンダーセン(Arthur Andersen LLP)のためにまとめた統計では、アメリカの国際収支赤字全体が対外軍事支出によるものであり、それがアメリカの金を消耗させていたことが示された。 そのため、中央銀行の通貨準備は、主にドル過剰によって購入されたアメリカ国債で構成されるようになった。1972年に拙著『Super Imperialism』で述べたのはこの変化だった。 しかし、アメリカの金融支配の武器化の試みは、各国がドルを避けようとするだけでなく、アメリカやイギリスに金を預けることを避けようとする結果を招いた。 ドイツでさえ、1930年代にヨーロッパの中央銀行がアメリカに避難資本として金を送ったとき以来、ニューヨーク連邦準備銀行に保管されている自国の金準備を返還するよう求めた。 国内通貨と同様、国際通貨も債務であり、純粋な資産(金など)でない限り(純粋な資産、金などを除く)アメリカは、国際決済のためのプラットフォームを提供したことで、金の代わりにアメリカ政府や民間債務を「金と同じくらい良いもの」として受け入れさせることができた。 しかし、これは国際関係の恒久的な状態にはならないだろう。 誰でも通貨を創出できるが、それを受け入れさせるのは別の問題だ。 |
アメリカの債務が増大する中で、他国が自国の貿易や投資で使用する必要がなくなったドルをどれだけ長く受け入れ続けることができるのか? 通貨は公的債務であり、それが紙か電子で発行されているかにかかわらず、最終的には税金の支払いに使用されることでその価値を維持する。 しかし、トランプ氏と共和党は減税を望んでいる。 もしドルが税金を支払うために必要とされなくなったら、誰がそれを保持するだろうか? |