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2025年5月9日金曜日

消費税はその種のものとしては最高さ

 


清滝信宏氏のインタビュー記事は今まで読んだことがなかったのだが、穏やかに「正論」を語っているね。おそらく現在の日本の庶民のほとんどのには受け入れ難いかもしれない「正論」を。

なお氏は次のように評価されている人物である、《清滝信宏プリンストン大教授が、岸田文雄首相も参加する経済財政諮問会議に出席して発言した。清滝教授は、日本人が受賞していないノーベル経済学賞に最も近いところに居る学者と多くの専門家からみなされ、世界レベルの知性として知られる。》[参照



◼️プリンストン大学経済学部教授の清滝信宏インタビュー(インタビュアー:小林慶一郎) 

2024 年11 月21 日インタビュー実施 Japan SPOTLGIHT 2025 年1/2 月号に英文記事掲載  PDF

財政の持続性 

小林:次の話題は、財政の持続性です。この問題について、先生のご見解を伺いたいと思ったのですが、アベノミクスの過去 10 年間は長期金利が 0 だったので、利払いが増えていません。  


清滝:また、最近はインフレだから、インフレーション・タックスで何とかなっているけれども、それはあまりいい政策ではありません。結局、国債を持続させる標準的政策の一つは歳出カットです。もう一つは増税で、もう一つはインフレです。日本の場合には、年金や健康保険、介護などの支出がだんだん大きくなっていて、それをカットするのは望ましくないだろうと思います。できることは、働く期間を延ばすことです。日本人の寿命は伸びていますから。   


小林:健康寿命も伸びています。  


清滝:ええ、元気なお年寄りも結構いるわけだから、元気なお年寄りはもう少し働いてもらい、それで、年金の支給を少し削り、それから税金あるいは年金の保険料を払ってもらうので、収入が増えて支出が減るという意味では、定年を延長し、働く期間を伸ばすことが、一番有効だと思います。支出カットと収入増とを両方一度にやるわけです。  


もちろん、それだけだと恐らく足りないので、やはり消費税を上げるしかないでしょう。というのは、引退している人が増えてくると、結局、所得税を払わない人がたくさんいることになってしいますから。  


小林:現役の人しか払ってくれないわけですからね。  


清滝:ええ。それから、課税所得の最低限を上げてしまったりしたら、払わない人がどんどん増えてきます。そうすると、少ない人数でたくさん払うというのはそんな簡単ではありません。金持ちが払えばいいと言うけれども、日本の金持ちはそんなにたくさんいるわけではないし、場合によると、あまりかけたら外国に行ってしまいます。だから、そんなに簡単に所得税はかけられません。そうすると消費税で取るしかないだろうと思います。  


小林:法人税は難しいですよね。  


清滝:企業の場合も資本は移動するから、そんなに簡単にはかけられません。最近の企業は海外で稼いでいたりするから、子会社をたくさんつくって、そらちはそちらで払うということになると、法人税もそんなに簡単に取れないと思います。  


また、ラムゼイ原則といって、供給が弾力的なものにはあまり課税するなと、ゆがみが大きくなるから、と言われています。そういう意味で言うと、消費税が一番です。 


小林:消費税は、ゆがみが少ないわけですか。  


清滝:ゆがみがないわけではないけれども、他よりも少ない。それから課税ベースが大きい。また、消費税をやるときには内税にしないと駄目です。後からキャッシュレジスターで出されると、どちらの値段か分からなくなるから、値段は最初から税込みの値段しか付けないようにしないといけません。  


小林:アメリカやヨーロッパでもそうですか。  


清滝:イギリスやヨーロッパは全部そうです。アメリカの場合は、州の税金に関していうとセールスタックスは州によって全然違うから、見ていると後で足したりしています。値段が州によって違うから。けれども、ヨーロッパの付加価値税は全部内税です。だから値段に入っています。後から税金を追加するのは腹立たしく感じます。消費税は最初から価格に含まれていなければなりません。明確に 10%を上乗せすると、人々は嫌がるでしょうから。  


小林:日本はレシートを持っていくと、内税の場合もあるとは思いますけれども、だいたい消費税は別記載になっています。  


清滝:そちらのほうが安く見えるからやっているけれども、やってはいけません。  


小林:日本では消費税に対する嫌悪感があります。  


清滝::社会保障をきちんと実行しなければいけないので、消費税と社会保障とを一体化した形にすれば別に問題はないはずです。野田さんが首相のときに、民主党と自民党と公明党が三党合意で、税と社会保障の一体改革と言っていたでしょう。それは正しいです。やはり一体改革なのです。社会保障を続けようと思ったら、税収も増やさなければ続かなくなるわけです。両方を一度にやらなければいけません。   


小林:社会保険の保険料の負担が非常に若者の生活にとって高くなっているので、それを減らして税金で面倒を見ないと仕方がないという状況ですが。  


清滝:そうです。そうなったら、やはり消費税のほうがいいわけです。社会保険料をどんどん上げていくよりは、消費税のほうを少し上げた方が、課税範囲が広いし、全員が払うわけです。年金保険料だと、払わない人もいるし、そもそも働いている人の数が引退している人の数に比べて少なくなってきてしまったら、課税ベースがどんどん減ってしまうわけです。  


小林:消費税を今すぐ上げるのは政治的には結構大変です。   


清滝:やがては上げなければいけないと思います。そのときには年金や健康保険、介護保険を続けるためにこれは絶対に必要なのだということで、税と社会保障の一体改革が必要です。日本は、消費税に関して言うと、他の国に比べたら低いです。ヨーロッパなどに比べたらだいぶ低い。  


小林:10%ですからね。まだ 20%か 25%ぐらいまでは上げる余地があると思います。  


清滝:20%までで何とか引き上げなければなければいけません。あとは、定年を遅めにするのと移民を増やすことです。若い外国人労働者に入ってきてもらうしかない。もちろんやり方は難しいし、いろいろ軋轢もあるだろうけれども、人口はこれから減ってきてしまうから、既に建設業やコンビニなどに入ってきている外国人労働者を増やすことです。  


小林:いろいろな分野で移民は不可欠ですね。  


清滝:移民なしではやっていけないのではないでしょうか。田舎の旅館に行っても移民の人が必ず働いています。場合によっては居着いてもらわないと困ります。2、3 年働いて帰れというのは焼き畑農業のようになってしまうから続きません。  


小林:そうするとある程度は日本人として定着してもらうことを前提に、海外の人材を入れる政策を考えないといけない。  


清滝:一度に多くの人を入れたら弊害が多いです。しかし、海外の人材がいないとやっていけないと思うので、なるべく若いときに来てもらうほうがいいかもしれません。例えば大学生のころに来てもらい、日本が気に入った人がそのまま日本で就職する。本国に帰りたい人は帰国すればいい。ある程度、お互いが選べるということができるわけです。   


小林:高度人材に来てもらう。  


清滝:高度人材をすくい上げてしまっているのだから、ある意味ではうまいことをやっています。有力なアメリカの会社はほとんど移民か 2 世かがつくった会社でしょう。Google、Apple、Tesla もそうです。  


小林:財政に関して、30 年に亘る財政の長期予測を発表する独立財政機関というのが今言われていますけれども、ご意見はございますか。  


清滝:それは確かにいい考えだと思います。それで財政収支の予想を立てるのですね。  


小林:日本の今のやり方だと、内閣府が 10 年先までの予想を出していますけれども、30 年とか 50 年先までは出していなくて、アメリカやイギリスやオーストラリアはだいたい 50 年先の予想を毎年または隔年ごとに出しています。  


清滝:長期の予想を出しておく。しかも、中立的なところでやるのは良い考えです。 


小林:議会予算局のような調査機関でやろうというアイデアもあります。  


清滝:そのような第三機関のような感じでやるのはいいと思います。独立して中立の立場で予想を立てるというのはいいと思います。  


小林:実は、こういう話を日本ですると、政府機関からは大反対であったり、冷淡な反応しか示してくれません。  


清滝:自分の権限が減ると思うのですね。  


小林:国会議員の一部の人たちはやろうという話になりますが、なかなか日の目を見ない状況です。  


清滝:確かに既得権益があるから難しいかもしれないけれども、いい考えだと思います。 




…………………



消費税は最悪の税金である、これまでに試みられてきた消費税以外のあらゆる税金形態を除いて。



これまでも多くの政治形態が試みられてきたし、またこれからも過ちと悲哀にみちたこの世界中で試みられていくだろう。民主主義が申し分ないもの、あるいは全き賢明なものと見せかけることは誰にもできない。実際のところ、民主主義は最悪の政治形態と言うことができる。これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除いて。

Many forms of Government have been tried, and will be tried in this world of sin and woe. No one pretends that democracy is perfect or all-wise. Indeed, it has been said that democracy is the worst form of government except all those other forms that have been tried from time to time.

(ウィンストン・チャーチル下院演説 、Winston S Churchill, 11 November 1947)


ここでチャーチルは、民主主義は最悪と言いつつ、今までの政治形態の中では、民主主義は最高だと事実上言っている。


つまり、次のフロイト文の表現を真似すれば、「民主主義はその種のものとしては最高さ」である。


かつて「ジンプリチシムス」(ウィーンの風刺新聞)に載った、女についての皮肉な見解がある。一方の男が、女性の欠点と厄介な性質について不平をこぼす。すると相手はこう答える、《そうは言っても、女はその種のものとしては最高さ》。

…der einst im Simplicissimus über die Frauen vorgebracht wurde. Dort beklagte sich einer der Partner über die Schwächen und Schwierigkeiten des schöneren Geschlechts, worauf der andere bemerkte: »Die Frau ist aber doch das Beste, was wir in der Art haben.«

(フロイト 『素人分析の問題』1927年 後書)




消費税も同様。つまり「消費税はその種のものとしては最高さ」である。だが日本では一番まともな消費税がひどい低率である一方、所得税、法人税、社会保障負担が重い。











より詳しくはーー、


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消費税など(消費課税)に関する資料

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所得税など(個人所得課税)に関する資料

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法人税など(法人課税)に関する資料

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国民負担率に関する資料