相変わらず、きつい「真実」を言っているな、 城繁幸氏は。
以下、⼩⿊⼀正氏による理論篇を掲げよう。なお城氏、⼩⿊氏は、2010年前後に設立された「ワカモノマニフェスト策定委員会」のメンバーであり、友人関係にある。二人は若者の将来を憂う活動家として当時、名が知られた。➤PDF: 「先駆けて世代間格差の克服に取り組んでいるワカモノマニフェスト策定委員会の城繁幸さん、⾼橋亮平さん、⼩⿊⼀正さんに聞く」
◼️財政も現在のインフレに一部関係か(財政インフレの予兆か) |
日本経済は長らくデフレ環境に苦しみ、「失われた30年」と称される停滞を経験してきた。しかし近年、政府はなお「デフレ脱却宣言」はしていないものの、物価は持続的な上昇局面にあり、インフレ率(消費者物価指数)は対前年同月比2%を超える勢いが継続している。賃金も名目では上昇しているが、このインフレの原因をどう評価するかは政策判断上、極めて重要である。 テレビや新聞などでは一般的に、現在のインフレは「資源価格の高騰や円安に伴うコストプッシュ型」と報道されることが多い。確かに一時はウクライナ戦争以降の資源価格上昇や円安の影響も大きかった。しかし、本当にそれだけの説明で十分なのか。まず、原油価格は2025年9月初旬時点でWTI約63ドルと、ピーク時(2022年)の110ドル台から大幅に低下している。資源価格が下がっているにもかかわらず、日本のインフレ率は約3.1%(2025年7月、コアCPI)にとどまっている。 では、円安の影響はどうか。一般的に、為替レートの変動は、日本の経常収支や貿易構造の変化も関係するが、金利の影響も大きい。この関係で、2025年7月時点の主要国の長期金利とインフレ率を比較すると、日本の特殊性が浮かび上がる。 |
アメリカでは10年国債利回りが約4.2%、インフレ率は約2.7%(コアは約3.1%)であり、実質金利はプラスの値となっている。欧州ではドイツ・フランスを中心に10年債利回りが2.5~3%台、インフレ率は約1.9~2.2%であり、実質金利はゼロ近傍からプラス水準に収斂している。イギリスでは10年債利回りが4~4.5%前後、インフレ率は約2.3%で、やはり実質金利はプラスの値である。これに対し、日本は10年国債利回りが約1.5%である一方、インフレ率が約3%であり、実質金利は約▲1.5%とマイナスに陥っている。 このマイナス実質金利は、為替市場における円安圧力を恒常化させている。投資家にとって、同じリスクを負うならば、より高い実質収益を得られるドルやユーロを選好するのは当然の行動だろう。その結果として、円安圧力が継続し、輸入インフレを助長する循環が形成されている。 なぜ日本のみが恒常的にマイナスの実質金利に陥っているのか。その根本的な理由は、巨額の政府債務に起因する「財政制約」である。政府債務残高(対GDP)は既に200%を超え、先進国の中で突出した水準にある。この環境下で長期金利が自律的に上昇すれば、国債利払い費の急膨張を通じて財政の持続可能性が大きく損なわれる。結果として、金融政策は「財政従属(fiscal dominance)」の色彩を帯びざるを得ない。実際、2025年6月に超長期国債の利回りが上昇した際、日銀は国債買い入れ減額のペースを調整し、市場の急変動を抑制した。 |
日銀の植田総裁は政策金利のターミナルレートを1%程度と示唆している。しかし現行の政策金利は0.5%にすぎず、仮に1%まで引き上げても、インフレ率3%超では実質金利は依然マイナス(約-2%)にとどまり、抑制効果は限られる。一方、金利をさらに引き上げれば、財政コストが増加する。国債残高1000兆円超の下で、長期金利が現在の約1.5%から約3%に上昇する程度ならまだ許容可能だろうが、5~7%に跳ね上がれば国債の利払い費が急増し、財政運営は危機的な状況に陥りかねない(注:長期金利が7%になれば利払い費は国の一般会計予算の税収総額に近づく)。財政と金融政策の相互依存が強まるほど、日銀は物価安定よりも財政安定を優先せざるを得なくなるリスクは高まる。 インフレ率が3%程度でも、国民の物価高騰に対する不満は大きいが、最も深刻なのは、インフレ率が5%超となった場合であろう。日銀は「金利を大幅に引き上げてインフレを抑制する」か「財政への影響を考慮して事実上インフレを容認する」かの二者択一を迫られる。前者を選べば財政危機、後者を選べば円安加速と物価上昇という悪循環に陥る可能性がある。市場が後者を織り込めば、投機的円売りが加速し、為替の歴史的な変動を引き起こす危険もあるのではないか。 このような状況は単に金融政策の問題ではなく、財政規律の欠如がもたらす構造的な問題でもあり、現在のインフレは、財政・金融政策といった構造的制約に起因している可能性がある。デフレ期においては巨額な政府債務の問題が表面化しなかったが、インフレ環境ではその脆弱性が顕在化する。インフレで税収が伸び、財政再建が進むように見える一方で、いわば「巨額な政府債務を抱える財政構造」が、日本の金融政策の自由度を奪っているのである。 |
なお、国内政策の影響も無視できない。政府は物価高騰への対応として、減税や給付金などの家計支援策を検討している。これらの措置は短期的に家計の可処分所得を押し上げ、購買力を維持する狙いがある。しかし、同時にマクロ経済全体の総需要を刺激し、結果としてインフレ圧力を一段と高めるリスクも孕んでいる。物価上昇下において、景気刺激策がかえってインフレを助長するという逆説的な状況が生じ得る点には注意が必要である。
インフレで税収や名目賃金も伸びているが、その恩恵がすべての国民に均等に行き渡っているわけではない。名目賃金の伸びが物価上昇に追いつかず、実質賃金が目減りし、生活が一層厳しくなっている家計も少なくない。特に低所得層や年金生活者にとっては、食料やエネルギーといった生活必需品の価格上昇が大きな打撃となっている。このため、インフレ圧力を適切に制御しつつ、本当に困っている家計に対して的確に再分配を行うことが、政策設計上不可欠である。単なる一律給付ではなく、対象を絞った支援や社会保障制度を通じた補完が求められよう。 |
以上のとおり、日本のインフレ転換は単なる外生的なコストプッシュ要因にとどまらず、実質金利のマイナス化、円安圧力、そして巨額な政府債務という構造的問題が複雑に絡み合っていることがわかる。そこに、減税や給付金による物価高対策という短期的政策対応が過度に加われば、マクロ経済全体の総需要を刺激してインフレ圧力をさらに強める可能性もある。他方で、実質賃金が低下し生活が圧迫されている家計が多数存在することも直視しなければならない。したがって、今後の政策はインフレ圧力に注意を払いながら、本当に困っている層に対して再分配を強化するという二重の要請を同時に満たさなければならない。 日本経済はようやくデフレを脱却しつつあるが、その先に待つのは財政・金融政策が互いに衝突するリスクを抱えた厳しい現実である。「物価水準の財政理論」(Fiscal Theory of the Price Level)という理論が存在するが、現在のインフレや円安圧力は、病気になった患者が発熱でウィルスを退治しようとするメカニズムと似ており、財政が自律的にその収支を改善しようとする兆候にも見える。 インフレは一時的との意見もあるが、上記の要因のほか、国際秩序の変容で経済のグローバル化が逆流しつつあることや、急速な人口減少で日本は既に本格的な人手不足経済に突入していること等もあり、そうとは限らない。インフレは税収増や名目賃金の上昇などに寄与することも事実であり、インフレ率が適切な水準に収まるよう、総需要に対する財政刺激に留意しながら、的確な再分配を行い、持続的な成長や、持続可能な財政構造に結びつけることができるか否かは、まさに今後数年の政策対応にかかっている。 |
なお上の小黒論の黒字強調した箇所のくだけた言い方は「サラ金地獄」である。
ーーハイパーインフレとあるが、この岩井克人と小幡績による理論篇は➤参照
最後にもうひとつ、城繁幸氏の印象的なツイートを掲げておこう。財務省解体デモ発生当時のものである。