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2025年10月18日土曜日

積極財政効果の話(小幡績)

 

大半の方々がお嫌いだろう、いわゆる「財務省の犬」小幡績がサナエノミクス破綻必至論をアップしているが、私は高市早苗のことはもはやどうでもいい(彼女の経済アドバイザーがどんな面々かを垣間見るだけで行く末の帰結は容易に予想できる)。

小幡績はこの論の後半で積極財政批判をしている。あくまで「日本における」積極財政であり、彼も積極財政が必ずしも悪でないのは当然わかっている。日本における積極財政出動は経済を活性化したり生産性を上昇するためにではなく、弱者救済に使われることが多く、そのため生産性の低い中小企業や労働者を保護しむしろマクロ的には「経済非活性化」を生みがちな温情主義的政策をしてきたのは紛いようがない。

今年のノーベル経済学受賞者のひとりフィリップ・アギヨンに依拠して言えば、ーーアギヨンはシュンペーターの「創造的破壊」を基盤にしたイノベーションが古い産業を破壊しつつ新しい成長を生むプロセスを説いているようだがーー、これとはまったく逆行した日本の積極財政であり、アニマルマインドを殺してきたのである。

とはいえ、こういうアスペクト以外の日本における積極財政効果の話を小幡績はしているのでここに掲げておく。


◼️高市早苗・自民党総裁が首相になっても、「『経済・財政政策』は必ず破綻する」と断言できる理由

小幡績 : 慶応義塾大学大学院教授, 2025/10/18

積極財政こそ日本経済を停滞させると言える3つの理由

最後に、実際的な議論の必要性がより高いのは、責任ある積極財政の悲惨な結末の見通しであろう。積極財政は、現在の日本においては最悪である。財政破綻するかどうかの問題以前に、日本経済を停滞させているのは、積極財政のせいなのだ。


第1に、政府債務のGDP比の水準が200%を超えようが、300%を超えようが、確かに財政破綻するわけではない。誰かが(日銀が)国債を買い続ければ、政府は財政破綻しない。財政破綻はストックの問題ではなく、フローの資金の詰まりなのだ。


では公的債務のGDP比とは何を意味するか。それは、公的部門が、どれだけ民間経済から寄生虫のように吸い取っているかを表している。政府債務残高約1200兆円とは、政府が借金をしていなければ、民間に投下できた資金、潜在的な資本額なのだ。


経済成長は、資本と労働の投下量(およびその質)で決まる。その資本を1200兆円分、民間が投下する機会を奪って、政府部門に滞留させてしまっているということだ。そりゃあ成長するはずがない。事業投資は金融投資よりもリターンはほぼ常に高いから、米国10年物国債程度には事業投資によるリターンは最低でもあるはずだ。


すなわち、4%として、48兆円の事業利益を政府債務1200兆円で日本経済から奪っている、ということだ。GDP600兆円として、8%分、GDP成長率を低下させている。これでは日本経済の活力が失われるのは当然だ。政府債務GDP比200%でも財政破綻はしないが、日本経済は衰弱死する。


第2に、25年度予算歳出総額約115兆円のうち、国債費は28兆円であるが、もし、過去に日本政府が借金をしていなければ、この28兆円は自由に使えた、ということである。つまり、過去の借金のせいで、われわれは毎年30兆円程度を失っているのである。過去の人々が、財政支出、減税などによって利益を得た分、われわれは毎年30兆円失っているのである。


同様に、現在のわれわれが減税の恩恵を受ければ、将来の人々は、その分、お金を失い続けるのである。コロナの被害が欧米よりも圧倒的に少なかった日本で100兆円以上無駄遣いをしなければ、今、100兆円好きに使えたのである。それと同じだ。


科学技術予算が、現在少ないのは、過去に借金をしすぎて30兆円永久に利子を(および借金総額を発散させないために元本の一部を)払い続けなければいけないからであり、借金していなければ30兆円投資できたのである。そして、利子が最低水準でこのありさまだから、今後、利子が40兆円になることは確実である(その前に財政破綻するかもしれないが)。


財政出動をしても、日本経済が成長したことはない

第3に、これだけ過去の人々が一生懸命借金をして、財政支出を行ったのに、日本経済は30年間停滞したままである。つまり、財政出動しても、日本経済は成長したことはないのである。


「今年の財政出動だけは例外で、突然、日本経済が財政出動でテイクオフする」というのは、妄想以外の何物でもないし、誰も信じていない。高市氏支持の人々も、日本経済が財政支出、減税で成長する、と思って言うのではなく、俺たちが金(カネ)をもらっても、財政破綻はしないと言っているだけである。積極財政で経済が成長していると本気で思っている人は、実際には誰もいないのである。


こんなことは、今さら私が言うことでもない。積極財政出動をするたびに「円売り」「日本国債売り」が出て、世界の投資家たちは、日本破綻にベットしていくだろう。


株価が上がっていくのは、物価上昇と円安の分、インフレとなって上昇していくだけのことであって、ドルベースでは上昇しないし、海外から見れば、日本株が上がっているわけではない。それでも、国内株式投資関係者が喜ぶのは、彼らは、日本企業の成長から株式投資の利益を得るのではなく、日経平均という数値が大きくなるから、その差額で短期的利益を得るからである。


積極財政はインフレや資産インフレを助長するだけ

1ドル=80円で日経平均2万円と1ドル=160円で日経平均4万円では、ドルで考える世界の投資家にとっては、日本企業の株価が上がっているわけではまったくない。だが、日経平均を売買しているトレーダーにとってみれば、借金して日経平均を4万円で買って、4万4000円で売り、4万円の借金を返してしまえば、4000円残る。円がどんなに安くなっていても、4000円のプラスが、マイナスになることはない。


だから、ほとんどの株式投資家にとっては、実際に日本企業が成長しようがしまいが、数値上インフレが進むだけで、儲かるのである。これが、株式市場関係者が、インフレおよび資産インフレを望む理由である。だから、彼らは、インフレで生活者を苦しめ、日本経済を破綻させても、自分たちは儲かるからハッピーなのである。


積極財政(および異次元金融緩和)でインフレや資産インフレを起こすことは、そのためだけには役に立つのである。これが、生活者と株式市場関係者、誠実な日本国民と日本を利用するだけの投資家の、積極財政、異次元金融緩和に対する意見の違いを生み出す理由の1つなのである。