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2025年11月18日火曜日

「政治が悪い」という嘘

 


※このインタビューの補足はトッドの最近のエッセイ「エマニュエル・トッド「西洋の混乱:私たちを脅かすもの」The dislocation of the West: what threatens us, EMMANUEL TODD OCT 06, 2025」を見よ。



◼️エマニュエル・トッド「西欧の敗北―権力と価値観の崩壊」

Emmanuel Todd: Defeat of the West - Collapse of Power & Values

Glenn Diesen  Nov 17, 2025

私はロシアが何らかの形で勝利すると信じていますが―その後、我々は至る所に脆弱な国家が残されることになるでしょう。お分かりのように、米国でさえ出生率が急落しており、中国の場合はさらに興味深い状況です。中国の現在の出生率は、おそらく1人あたり1.1人程度と推計されます。インドと中国は人口規模がほぼ同等であり、中国の人口は現在緩やかな減少傾向にありますが、それでもインドをわずかに下回る程度です。両国を比較すると、インドでは年間約2200万人の出生があるのに対し、中国では約900万人となります。人口動態の崩壊は、ある意味で恐ろしい状況です。


もちろん米国が技術面で中国を追い越すことは不可能でしょう。おそらく現在、中国のイノベーション速度が米国を上回りつつある段階ですが、それは一時的なものです。その後、中国では危機が訪れるでしょう。世界中どこでも同様の危機が訪れるでしょう。これはロシアにも当てはまります。女性の出生率が1.5人ですから。ですから、世界は、アメリカを除けば、つまりアメリカの体制崩壊は、人々が考える時間や解決策を見つける時間を持つ、素晴らしい平和の時代を開く可能性が十分にあるのです。

おそらくイデオロギーではなく、新しい思考体系を定義するでしょう。お分かりでしょう、我々には時間があるのです。1918年、いや1945年ですら状況は全く異なっていました。当時の戦争は、あらゆる地域で国家の力を増大させることに大きく関わる、いわゆる「ゾンビ段階」にあったのです。第一次世界大戦前後の人口増加期、ドイツの人口増加率はフランスを大きく上回っていました。しかしロシアの人口増加率もドイツを大きく上回っていました。各国が異なるペースで勢力を拡大する中、誰もが不安を抱えていたのです。第一次世界大戦を経て一時停滞したものの、社会にはなおもエネルギーが残っており、さらに血なまぐさい戦争である第二次世界大戦へと突入する余力が十分にあったのです。第二次世界大戦後でさえ、新たな飛躍に向けた十分なエネルギーが残されていました。つまり、我々が「トン・グロル」と呼ぶ、非常に高い成長率を伴う発展です。しかし、今日の状況は異なります。高齢化が進み、人口は減少傾向にあります。将来の具体的な計画はありませんが、米国とドイツが完全に狂わなければ、まだ時間は残されていると推測します。



ーーだな。なによりもまず真の問いは「人口動態」だ。


私は反リフレ派の代表格だった故池尾和人氏や元日銀の白川総裁の話を折に触れて掲げてきたがね。


池尾:日本については、人口動態の問題があります。高齢化・少子化が進む中で、社会保障制度の枠組みがどうなるのかが、最大の不安要因になっていると思います。


経済学的に考えたときに、一般的な家計において最大の保有資産は公的年金の受給権です。〔・・・〕

今約束されている年金が受け取れるのであれば、それが最大の資産になるはずです。ところが、そこが保証されていません。(経済再生の鍵は 不確実性の解消 (池尾和人 大崎貞和) ーーー野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部2011


さらに白川方明元日銀総裁も、2014年、米国のビジネススクールで講演して次のように言っている。

日本経済の主な問題はデフレではなく、人口動態である[The main problem in the Japanese economy is not deflation, it's demographics] (白川方明 Masaaki Shirakawa, at the Tuck School of Business at Dartmouth College, 2014.05.13)



日本は生産年齢人口が1995年時点から減少している。





だが日本はこの事態の最先進国であるだけであり、今後の世界は基本的に日本と同じ轍を踏む。




もちろん特に中国は、将来を見据えて少子高齢化対抗策としてAI導入による生産性の向上を志向しているわけだが弊害もある(AI導入での雇用剥奪。資金力のある大企業の独占、超監視社会の訪れ等)。


いずれにせよ単純に「政治が悪い」というのは嘘なんだよ、しばしばーー特に山本太郎信者組をはじめとして繰り言のように語られてきたピント外れの難詰だがね。



◼️経済再生の鍵は不確実性の解消 (池尾和人&大崎貞和) 

ーーー野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部 2011, 11

池尾:細川政権が誕生したのが今から18年前です。それ以後の日本の政治は、非常に不幸なプロセスをたどってきたと感じています。


それ以前は、経済成長の時期でしたので、政治の役割は余剰を配分することでした。ところが、90年代に入って、日本経済が成熟の度合いを強めて、人口動態的にも老いてきた中で、政治の仕事は、むしろ負担を配分することに変わってきているはずなんです。余剰を配分する仕事でも、いろいろ利害が対立して大変なんですが、それ以上に負担を配分する仕事は大変です。


大崎:大変つらい仕事ですね。

池尾:そういうつらい仕事に立ち向かおうとした人もいたかもしれませんし、そういう人たちを積極的にもり立ててこなかった選挙民であるわれわれ国民の責任も、もちろんあると思います。少なくとも議会制民主主義で政治家を選ぶ権利を与えられている国においては、簡単に「政治家が悪い」という批判は責任ある態度だとは思いません。


しかしながら事実問題として、政治がそういった役割から逃げている状態が続いたことが財政赤字の累積となっています。負担の配分をしようとする時、今生きている人たちの間でしようとしても、いろいろ文句が出て調整できないので、まだ生まれていない、だから文句も言えない将来世代に負担を押しつけることをやってきたわけです。〔・・・〕

デフレから脱却しなければいけないのだけれども、そのプロセスについてはかなり慎重に考えなければいけません。 


インフレになれば債務者が得をして債権者が損をするという感覚があります。しかしそれは、例えば年収と住宅ローンのように、所得1に対して抱えている負債がせいぜい2、3ぐらいのときの話です。 


日本の置かれている状況は、一般会計の税収40兆円ぐらいに対し、グロスで1,000兆円ぐらいの政府債務があるわけです。そうすると、1対25です。景気がよくなって税収が増えたとしても、利払いの増加のほうがその上をいく構造になっています。ですから、景気が好転するときが一番用心すべきときになります。



もちろん《政治の仕事は、むしろ負担を配分することに変わってきている》にもかかわらず、《政治がそういった役割から逃げている状態が続いたことが財政赤字の累積となっています》のであり、「政治が悪い」というならこの点を突かなければいけないのだが、現在それに逆行して高市早苗政権となってリフレ派が復活だ。唖然とするほかない。


で、先のトッド曰くの、《アメリカの体制崩壊は、人々が考える時間や解決策を見つける時間を持つ、素晴らしい平和の時代を開く可能性が十分にあるのです》というのはアリかね、特に日本において。たぶんアメリカ属国のまま心中するんだろうよ。本来、脱米入BRICSを志向しなければならないのに、これまたこのところ逆行への道が著しいからな。