◆Du Ring an meinem Finger シューマン 女の愛と生涯 作品42- Barbara Bonney
◆Elly Ameling Live Sings Schumann's Du Ring an meinem Finger
そして次ぎは、Bernarda FinkとAnne Sofie von Otter次ぎのふたり。
1,Bernarda Fink: Du Ring an meinem Finger by Schumann
2, Anne Sofie von Otter;Du Ring an meinem Finger
ーーまた女に惚れちまった。どっちにいっそう惚れようかは悩むところだがーーなぜなら二人ともバッハの歌いのようだからーー、今回はBernarda Finkでいこう。
アルゼンチンからすぐれた音楽家が輩出するのはどういうわけのものだろう。ブエノスアイレス出身とのことだが、《Born in Buenos Aires to Slovene parents who escaped from the communist takeover of Slovenia》でもあるようだ。マルタ・アルゲリッチはどうなのか、と調べてみたら、父は経済学教授や会計士。母フワニータ(旧姓ヘラー)はベラルーシからのユダヤ系移民の二世とのこと。
ブエノスアイレスといえばボルヘスである。
女たちは美しい。とても美しい。
外傷は破壊だけでなく、一部では昇華と自己治癒過程を介して創造に関係している。先に述べた詩人ヴァレリーの傷とは彼の意識においては二十歳の時の失恋であり、おそらくそれに続く精神病状態である(どこかで同性愛性の衝撃がからんでいると私は臆測する)。二十歳の危機において、「クーデタ」的にエロスを排除した彼は、結局三十年を隔てて五十一歳である才女と出会い、以後もの狂いのようにエロスにとりつかれた人になった。性のような強大なものの排除はただではすまないが、彼はこの排除を数学をモデルとする正確な表現と厳格な韻律への服従によって実行しようとした。それは四十歳代の第一級の詩といして結実した。フロイトならば昇華の典型というであろう。しかし、彼の詩が思考と思索過程をうたう下にエロス的ダブルミーニングを持って、いわば袖の下に鎧が見えていること、才女との出会いによって詩が書けなくなったことは所詮代理行為にすぎない昇華の限界を示すものであり、昇華が真の充足を与えないことを物語る。彼の五十一歳以後の「女狂い」はつねに片思い的で青年時の反復である(七十歳前後の彼が一画家に送った三千通の片思い的恋文は最近日本の某大学が購入した)。他方、彼の自己治癒努力は、生涯毎朝書きつづけて死後公開された厖大な『カイエ』にあり、彼はこれを何よりも重要な自己への義務としていた。数学の練習と精神身体論を中心とするアフォリズム的思索と空想物語と時事雑感と多数の蛇の絵、船の絵、からみあったPとV(彼の名の頭文字であり男女性器の頭文字でもある)の落書きが「カイエ」には延々と続く。自己治癒努力は生涯の主要行為でありうるのだ。(中井久夫「トラウマとその治療経験」『徴候・記憶・外傷』所収)
◆Hart & Ziel: Erbarme Dich Fink
夕顔のうすみどりの
扇にかくされた顔の
眼(まなこ)は李(すもも)のさけめに
秋の日の波さざめく
(西脇順三郎)
◆Messe en si agnus dei Herreweghe B Fink VIDEO
いかに細く鋭く命取りでも、
(……)
刺せ この胸のきれいな瓢を。
(……)
ほんの朱色の私自身が
まろく弾む肌にやってくるように!
素早い拷問が大いに必要だ。
ーーヴァレリー「蜜蜂」中井久夫訳
◆Esurientes Implevit - Bernarda Fink
真珠のコップへ
つげ
いけツバメの奴
野ばらのコップへ。
角笛のように
髪をとがらせる
女へ
生垣が
終わるまで
(西脇順三郎)
◆Bernarda Fink, Bach, Passion selon Saint Jean, "Es ist vollbracht"
果実が溶けて快楽(けらく )となるように、
形の息絶える口の中で
その不在を甘さに変へるやうに、
私はここにわが未来の煙を吸ひ
空は燃え尽きた魂に歌ひかける、
岸辺の変るざわめきを。(ヴァレリー「海辺の墓地」第五節 中井久夫訳)
◆Bernarda Fink sings Schubert's "Du bist die Ruh"
果実が溶けて快楽(けらく )となるように、
形の息絶える口の中で
その不在を甘さに変へるやうに、
私はここにわが未来の煙を吸ひ
空は燃え尽きた魂に歌ひかける、
岸辺の変るざわめきを。(ヴァレリー「海辺の墓地」第五節 中井久夫訳)
◆Bernarda Fink sings Schubert's "Du bist die Ruh"