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2023年8月26日土曜日

フロイトの最大の不幸

 


抑圧されたものの回帰というのは、とても広い含意があるんだよ。

例えば「言い間違い」の事例として会議の司会者が、「今から会議を閉会します」という話がしばしば例に出されるが、これ自体、「抑圧されたものの回帰」なんだよ。


フロイトはこの錯誤行為=失策行為[Fehlleistungen]について、言い間違い[Versprechen]以外に、読み間違え「Verlesen]、聞き間違え[Verhören]、 忘却[Vergessen]等々を挙げているが(主にジョーク論及び『精神分析入門』第2講から4講)、28講にはこうある。


神経症患者の夢は、彼の錯誤行為やそれに対する彼の自由連想と同様に、彼の症状の意味を発見し、彼のリビドーがどのように配分されているかを明らかにするのに役立つ。夢は願望充足の形で、どのような願望衝動が抑圧にさらされ、自我から引き離されたリビドーがどのような対象に執着するようになったかを教えてくれる。

Die Träume der Neurotiker dienen uns wie ihre Fehlleistungen und ihre freien Einfälle dazu, den Sinn der Symptome zu erraten und die Unterbringung der Libido aufzudecken. Sie zeigen uns in der Form der Wunscherfüllung, welche Wunschregungen der Verdrängung verfallen sind und an welche Objekte sich die dem Ich entzogene Libido gehängt hat. (フロイト『精神分析入門』第28講、1917年)


つまり錯誤行為は「抑圧されたものの回帰」となる。すべての錯誤がそうだとは言い得ないにしろ。これはでも「抑圧された願望の回帰」であり、つまり後期抑圧されたものの回帰だ(参照)。




重要なのは、フロイトは後年になればなるほど「抑圧された欲動の回帰[Wiederkehr der verdrängten Triebe]を強調するようになることだ[参照]、つまり原抑圧を。


それともうひとつ、「抑圧は誤訳」で示してあるように、抑圧[Verdrängung]には「抑える」やら「圧する」の意味はない。独語"Verdrängung" を英語 "repression" と訳したこと自体、誤訳。


フロイトが代替用語として主に提示しているのは次の語彙群。




とはいえ語感の悪い「抑圧」という訳語が長年、世間に流通してしまっている。これがフロイトの最大の不幸だね。