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2020年5月12日火曜日

下翼のためのMMT(現代貨幣理論)


経済学者にとって、年率40パーセント未満のインフレ率から経済への重大な悪影響を見出すことは困難である。economists are hard pressed to find significant negative economic effects from inflation at rates under 40 percent per year. (ランダル・レイRandall Wray「現代貨幣理論 Modern Money Theory」2012年)

わたくしにとってMMT は上の文に収斂するんだが、他の見解は、以前に「平成財政の総括」(財務省、平成31年4月17日、pdf)から画像で貼り付けたがな。小さくて読めなかったかね。文字にして再掲しとくよ。

「下翼」が無意識的にハイパーインフレ狙いをしたくなるのは、わからないでもないからな。意識的にそう思うようになったら「下翼」から「左翼」に格上げしてあげてもいいさ。

事実上、MMTたぐいの財政ファイナンスをやってハイパーインフレを引き起こすのが、金融資産をたらふく持っている金持ちから税金を踏んだくる最も効率的方法だからな。

増税が難しければ、インフレ(による実質的な増税)しか途が残されていない恐れがあります。(池尾和人「このままでは将来、日本は深刻なインフレに直面する」2015年)


たとえば日本共産党ーー志位は全然ダメだが、あの党のなかにはまともなヤツが仮に生き残っているとしたらーー、あの連中の長年の主張「金持ち増税」の裏にはハイパーインフレがあったっていいさ。で、ゼロからやり直しの「財政的革命」ってわけだ。




(参考)MMT(Modern Monetary Theory)について(1)
MMT(Modern Monetary Theory)について
●MMT(Modern Monetary Theory)は、1990年代にウォーレン・モスラー(米投資家)、ビル・ミッチェル(豪ニューカッスル大学)、 ランダル・レイ(米ミズーリ大学-カンサスシティ)、ステファニー・ケルトン(米ニューヨーク州立大学、サンダース上院議員の顧問)等によって提唱された経済運営の手法についての考え方。
●米国では、2018年11月にニューヨーク州から連邦議会下院選に立候補し当選したアレクサンドリア・オカシオ-コルテス氏が MMTを支持したこと、また、MMTの主要な発信者であるケルトン教授が2020年の大統領選に出馬を表明している民主党サンダース議員の2016年大統領選時の顧問を務めていたことなどから、注目が集まっている。 
(参考)米国におけるMMT支持者は、国債発行で確保した財源を用いて、完全雇用を達成・維持するため、「雇用保障プログ ラム」(Job Guarantee Program)(政府が基金を作り、失業者を雇用してその業務を担わせる)を実施すべきとの立場。
●「MMT(Modern Monetary Theory)というのは、最近米国で色々議論されているということは承知していますが、必ずしも整合的に体系化された理論ではなくて、色々な学者がそれに類した主張をされているということだと思います。そのうえで、それらの方が言っておられる基本的な考え方というのは、自国通貨建て政府債務はデフォルトしないため、財政政策は、財政赤字 や債務残高などを考慮せずに、景気安定化に専念すべきだ、ということのようです。」(2019年3月15日 黒田日銀総裁会見)

MMTに対する批判、コメント
●ポール・クルーグマン(ニューヨーク州立大学、経済学者) 2019年2月12日 ニューヨークタイムスへの寄稿 「債務については、経済の持続可能な成長率が利子率より高いか低いかに多くを左右されるだろう。もし、これまでや現在のように成長率が利子率 より高いのであれば大きな問題にならないが、金利が成長率より高くなれば債務が雪だるま式に増える可能性がある。債務は富全体を超えて無限に大きくなることはできず、残高が増えるほど、人々は高い利子を要求するだろう。つまり、ある時点において、債務の増加を食い止めるために 十分大きなプライマリー黒字の達成を強いられるのである。」
●ジェローム・パウエル(FRB議長) 2019年2月26日 議会証言 「自国通貨で借りられる国にとっては、赤字は問題にならないという考えは全く誤っている(just wrong)と思う。米国の債務は国内総生産(GDP)比 でかなり高い水準にある。もっと重要なのは、債務がGDPよりも速いペースで増加している点だ。本当にかなり速いペースだ。歳出削減と歳入拡 大が必要となるだろう。」
●ロバート・シラー(イェール大学、経済学者) 2019年2月26日 ヤフーファイナンスインタビュー
「パウエル議長が(議会証言で)受けた質問にMMTについてのものがあって、これは最近出てきたスローガンだ。もしも大衆が望むなら、政府はどこまでも財政赤字を無限に続けられるというものだと思うが、これはこのタイミングで出てきた悪いスローガンだと思う。一部の人々にとって政治的には有用なものだ。」



(参考)MMT(Modern Monetary Theory)について(2)

●アラン・グリーンスパン(元FRB議長) 2019年3月1日 ブルームバーグインタビュー 「(MMTが実施されれば、)外国為替市場を閉鎖しなければいけない。どうやって為替交換すればいいのか。」
●ローレンス・サマーズ(元米財務長官) 2019年3月4日 ワシントンポストへの寄稿 「MMTには重層的な誤りがある(fallacious at multiple levels)。まず、政府は通貨発行により赤字をゼロコストで調達できるとしているが、実際は政府は利子を 払っている。全体の貨幣流通量は多いが、政府によってコントロールできるものではない。第2に、償還期限が来た債務を全て貨幣創造し、デフォルトを免れることができるというのは間違っている。幾つもの途上国が経験してきたようにそうした手法はハイパーインフレを引き起こす。インフレ税を通じた歳入増には限界が あり、それを超えるとハイパーインフレが発生する。第3に、MMT論者は閉鎖経済を元に論じることが典型的だが、MMTは為替レートの崩壊を招くだろう。これは、 インフレ率の上昇、長期金利の上昇、リスクプレミアム、資本逃避、実質賃金の低下を招くだろう。…保守にとってもリベラルにとっても、そんなフリーランチは存 在しない。」
●ラリー・フィンク(米資産運用会社ブラックロック、CEO) 2019年3月7日 ブルームバーグインタビュー 「MMTはくず(garbage)だ。財政赤字は非常に重要な問題だと私は確信している。財政赤字は金利をずっと高く、持続不可能な水準に押し上げる可能性があると私は強く 信じている。MMTは財政赤字が害をもたらし多過ぎると分かるまで、借り入れを続けられるという理論だ。親である私からすれば、子どもの素行が悪くてもずっとただそ れを見ているだけで、手が付けられなくなるまで放っておくことと同じだ。良いアプローチではないと思う。」
●ケネス・ロゴフ(ハーバード大学、経済学者) 2019年3月9日 プロジェクトシンジケートへの寄稿 「米国は債務を米ドル建てで発行できて幸運だが、印刷機は万能薬ではない。投資家が国債を保有したがらなくなったら、その通貨についても所有しようとは思わ ないだろう。その国が通貨を投げ売りすれば、その結果はインフレだ。 仮に中央計画経済(MMT支持者にはこれを目標にする人もいるようだ)に移行したとしても、 この問題は解決できない。」
●オリヴィエ・ブランシャール(元IMFチーフエコノミスト) 2019年3月10日 ツイッター 「MMTについて、確かに財政政策は産出を潜在水準に保つために利用できるが、その赤字は、とても小さなものでない限り、高インフレないしハイパーインフレなしで、無利子の貨幣創造によりすべてを調達することはできない。そして、もし、赤字を国債で賄ったとして、成長率が金利より高ければ財政コストはないかもしれないが、民間投資のクラウディングアウトなど社会厚生に対してのコストが生じる可能性がある。コストは大きくないかもしれないが、ゼロではない。」
●ジェフリー・ガンドラック(ダブルライン・キャピタル CEO) 2019年3月13日 投資家向けウェブキャスト 「(MMTは)大規模な社会主義的プログラムを正当化するために利用されている完全なナンセンス(complete nonsense)。この議論の問題点は、それが完全に 誤っている(completely fallacious argument)ということだ。(MMTは長期債の)重大なボイコットにつながる可能性がある。この議論はばかげている(ridiculous)。 小学1年生には正しく聞こえるかもしれないが、景気が悪化したらどうなるのか。米国が来年リセッション(景気後退)に陥れば、MMTは単なる理論以上のものに なる可能性があるとして、米国がMMTの実験に向かっているかもしれない。」
●ピーター・プラート(ECBチーフエコノミスト) 2019年3月13日 記者会見 「(MMTについて、)その基本的考えである政府債務が中央銀行から調達可能との指摘は、危険な提案(dangerous proposition)である。過去、そうした取組は、ハ イパーインフレや経済的混乱を生んできた。だからこそ、中央銀行は独立性を持っているのだ。」
※シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネス MMTに関するアンケート調査 2019年3月13日 ①自国通貨での借入を行う国は、債務を賄うためにいつでも貨幣を創造できるので、政府の財政赤字を心配する必要はない、② 自国通貨での借入を行う国は、 貨幣を創造することで望むだけ政府実質支出を賄うことができる、という考えに対する意見を米有名大学の経済学者38名に対して質問。無回答(1~3名)を除き、全員が「反対」ないし「強く反対」を表明。



(参考)MMT(Modern Monetary Theory)について(3)

●ウォーレン・バフェット(バークシャー・ハサウェイCEO) 2019年3月15日 ブルームバーグインタビュー

「MMTを支持する気には全くなれない(I'm not a fan of MMT ― not at all)。赤字支出はインフレ急上昇につながりかねず、危険な領域に踏み込む必要はなく、そ うした領域がどこにあるのか正確にはわからない。(We don't need to get into danger zones, and we don't know precisely where they are.) 」
● ヨアヒム・フェルズ(PIMCOグローバル経済アドバイザー)、アンドルー・ボールズ(同CIO) 2019年3月21日 Cyclical Outlook

「批判的な論者は、MMTは現代的でもなければ、貨幣の問題でもなく、理論でもない(MMT is neither Modern, nor Monetary nor a Theory)と断じています。フォー ラムの参加者の1人が皮肉ったように、この理論で正しいことは新しくなく、新しいことは正しくはない(what is correct in this doctrine is not new, and what is new in it is not correct)、とも言えます。・・・こうした政策の枠組みは、財政が支配的であった戦時中や戦争直後のそれに似ていますが、PIMCOでは近い将来現実 になる可能性は低く、公開討論の場で最近MMTが目立っているのは、大きなパラダイムシフトが進行している兆候だとみています。・・・現時点では、より積極的 で拡張的な財政政策への支持の拡大は、イールドカーブのスティープ化につながり、将来のインフレリスクを上方に押し上げると結論付けています。」
●ジャネット・イエレン(前FRB議長) 2019年3月25日 クレディ・スイス主催アジア投資家会議

「現代金融理論(MMT)を支持しない(not a fan of MMT)。この提唱者は何がインフレを引き起こすのか混乱している(confused)。それ(MMT)は超インフレを招くものであり、非常に誤った理論(very wrong-minded theory)だ。」
●フランソワ・ビルロワドガロー(フランス銀行(中銀)総裁) 2019年3月27日

「残念ながら、自国の債務をマネタイズしようとした国は極めて不幸な経済状況に陥ったことがケーススタディーで繰り返し示されている。インフレ、さらにはハイ パーインフレが大きなリスクとなる。このために、インフレ目標を担うのは財政当局ではなく中央銀行となっている。インフレ制御などの金融政策の目標は、経済 成長の刺激などの財政政策目標に優先するものでなくてはならない。こうしたことの実現には中銀の独立性を保証することが最善策だ。」
●アデア・ターナー(英金融サービス機構元長官) 2019年3月29日 プロジェクト・シンジケートへの寄稿

「MMTの主張の背景にあるさまざまな見方 – 政府と中央銀行は協調することで常に名目需要を生み出すことができるというもの- はミルトン・フリードマンの1948 年の重要な論文で説明されている。しかし、過度な財政ファイナンスが極めて有害(hugely harmful)であることを理解することも重要だ。例外的な環境における需 要管理手段としてではなく、長期的課題の解決のためのコストのかからないやり方だと見ることは危険なことだ。」
●ギータ・ゴピナート(IMFチーフエコノミスト) 2019年4月9日 記者会見

「財政政策はマクロ経済の安定化や格差の解消のための再分配に大きな役割を果たしており、当局者にとって極めて重要な政策手段の一つだ。そうは言っても フリーランチはない。各国が支出できる規模には限界がある。これまで多くの先進国・途上国において、政府支出のための財政赤字、そのファイナンスが行われ てきたが、帰結は大抵、予期せぬインフレーションと投資や経済成長の悪化であった。つまり、政府支出は何に使うかに注意を払う必要がある。歴史は安定した 経済を維持するための中央銀行の独立性の価値を説いており、心に留めておくべき教訓であると考えている。」
●クリスティーヌ・ラガルド(IMF専務理事) 2019年4月11日 記者会見

「MMTが本物の万能薬だとわれわれは思っていない。MMTが機能するようなケースは極めて限定的である。現時点でMMTが持続的にプラスの価値をもたらす 状況の国があるとは想定されない。(理論の)数式は魅惑的だが、重大な注意事項がある。金利が上がり始めれば(借金が膨張して)罠にはまる。」



(参考)MMT(Modern Monetary Theory)について(4)
2019年4月4日 参・決算委員会 西田昌司議員(自民)の質疑に対する麻生財務大臣、黒田日銀総裁の答弁
(麻生財務大臣)

MMTという、いかがわしい名前はいかがなものか、というご意見だったので、近代もしくは現代貨幣理論、たぶん直訳すりゃそういう単語だと思いますが、Modern Monetary Theoryという話が出てこられましたんで、これは最近、アレクサンドリア・コルテスですかね、この辺りがよく話をしている話で、それでそれを叫んで、下院議員に当選したりするんで、ちょっと、名前としてはMMTという名前が出てきたのが最近かな、そんな記憶だと思いますが。まあ、言っていることは、自国通貨を持っていて、自国で貨幣を発行しているのだから、今の西田先生の話で、通貨というのは限度なく発行ができるんだから、早い話がデフォルトなんか陥ることありませんよと、従って、政府債務の最高残高がいくらであっても関係ないと、簡単にいえばそういう話を言っておられるんだと思いますが、・・・(中略)・・・こういった考えがあるということを我々が知らないわけではありませんが、他方でそういったものに対して、例えばグリーンスパンとか、なんでしょうかね、ローレンス・サマーズとか色々おられますけれども、そういった方々が、こういった意見と全く違う意見だと思いますが、今、そういった意見であるというのは、私ども知らないわけではありませんけれども、あの、こういった話は、常識的にはインフレが起きるということになるんだと思いますが、極めて否定的な見解がその人達から示されているんですが、私どもは少なくとも、世界200か国近くの国相手に、グローバルな市場で、金融とかマーケットが見えておりますので、市場からの受け入れてもらえるようなものでやらないと、極端な議論に陥るということになりますと、これは財政規律を緩めるということでこれは極めて危険なことになり得ると、そういった実験にもっとも適しているからといって、この日本という国をその実験場にするという考え方は私どもは持っているわけではありません。

(黒田日銀総裁)

・・・(中略)・・・その上でですね、いわゆるMMTの評価については、これは必ずしも体系化された理論ではなくて、その本質をつかむことがなかなか難しいのではないかと感じておりますが、MMTの基本的な主張について、自国通貨建政府債務はデフォルトすることはないので、財政政策や財政赤字や債務残高などを考慮せずに、景気安定化に専念すべきであるというふうに理解いたしますと、このように財政赤字や債務残高を考慮しないという考え方は極端な主張であり、なかなか受け入れられないのではないかというふうに考えております。