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2020年7月7日火曜日

サントームという超自我・原抑圧




何度か示しているこの図表について質問をもらっているが、それぞれ散発的に示している内容をまとめた図である。厳密に示すととても長くなってしまうが、以下にエキス注釈を列挙しよう。



◼️S(Ⱥ)=Σ=超自我
おそらくS(Ⱥ)に、フロイトの超自我の翻訳を見い出しうる。le grand A barré [S(Ⱥ)] …c'est peut-être là qu'on pourrait retrouver une transcription du surmoi freudien. (J.-A.MILLER, L'Autre qui  n'existe pas  et ses Comités d'éthique - 27/11/96)




シグマΣ、サントームのシグマは、シグマとしてのS(Ⱥ) と記される。c'est sigma, le sigma du sinthome, […] que écrire grand S de grand A barré comme sigma (J.-A. Miller, LE LIEU ET LE LIEN, 6 juin 2001)

◼️S (Ⱥ)=Σ=穴Ⱥのクッションの綴じ目
S (Ⱥ)とは真に、欲動のクッションの綴じ目である。S DE GRAND A BARRE, qui est vraiment le point de capiton des pulsions(Miller, L'Être et l'Un, 06/04/2011)
クッションの綴じ目[point de capiton ]は、二つの用語のあいだの相互関係を規定する。サントームのシグマΣ [sigma le sinthome]と空集合のシンボルØ [le symbole de l'ensemble vide]である。空集合はラカンが性的非関係[le non rapport sexuelとして示したものである。(J.-A. MILLER, L'Autre qui  n'existe pas  et ses comités d'éthique, 23/4/97)




女というものは空集合である[La femme c'est un ensemble vide ](ラカン, S22, 21 Janvier 1975)
穴、それは非関係・性を構成する非関係によって構成されている。un trou, celui constitué par le non-rapport, le non-rapport constitutif du sexue(S22, 17 Décembre 1974)

大他者の中の穴のシニフィアンをS (Ⱥ) と記す。signifiant de ce trou dans l'Autre, qui s'écrit S (Ⱥ)  (J.-A. MILLER, - Illuminations profanes - 15/03/2006)
現実界は穴=トラウマを為す。le Réel […] ça fait « troumatisme ».(ラカン、S21、19 Février 1974)


以上を受け入れるなら次のように示せる。




ーーなお自我理想はラカンの父の名(象徴的父の隠喩)に相当する。

自我理想 Idéal du Moiは象徴界で終わる finir avec le Symbolique。言い換えれば、何も言わない ne rien dire。何かを言うことを促す力、言い換えれば、魔性の力 force démoniaque…それは超自我 Surmoi だ。(ラカン、S24, 08 Février 1977)




以下、文献を列挙してさらに確認する。

◼️超自我=原抑圧
二項シニフィアンの場に超自我を位置付けることの結果は、超自我と原抑圧をひとつにまとめることになる。超自我と原抑圧を一つにすることは慣例ではないように見える。だが私はそう主張する。私は断固として言い署名する。Le résultat de repérer le surmoi sur ce signifiant binaire, c'est de rapprocher le surmoi et le refoulement originaire. Ca ne paraît pas habituel que le surmoi et le refoulement originaire puissent être rapprochés, mais je le maintien. Je persiste et je signe. (J.-A. MILLER, LA CLINIQUE LACANIENNE, 24 FEVRIER 1982)
表象代理は二項シニフィアンである。この表象代理は、原抑圧の中核を構成する。フロイトは、これを他のすべての抑圧が可能となる引力の核とした。
Le Vorstellungsrepräsentanz, c'est ce signifiant binaire. […] il à constituer le point central de l'Urverdrängung,… comme FREUD l'indique dans sa théorie …le point d'Anziehung, le point d'attrait, par où seront possibles tous les autres refoulements (ラカン、S11、03 Juin 1964)


◼️S(Ⱥ)=原抑圧=固着=現実界に女というものを置き残すこと
ラカンの現実界は、表象の彼岸に位置する。フロイトはこの表象の彼岸の何ものかを見出したのである。それは常に受動的・不快な・トラウマ的性質をもっている。受動性ゆえに女性性である。より厳密には、受動性は女性性の代替シニフィアンとなる。というのはフロイトでさえ女性性の代わりとなる正しい言葉を見出せなかったから。言い換えれば、トラウマ的現実界にとってのシニフィアンは象徴界にない。このトラウマ的現実界が女性性である。フロイトは見出だしたのである、女というものにとってのシニフィアンはない、と。半世紀後、ラカン はこれをȺ[穴]と書き記した。…
フロイトの原抑圧とは何よりもまず固着である。…この固着とは、身体的なものが心的なものの領野外に置き残されるということである。…原抑圧はS(Ⱥ) に関わる [Primary repression concerns S(Ⱥ)]。…この固着としての原抑圧は「現実界のなかに女というものを置き残すこと」として理解されうる。[Primary repression can […]be understood as the leaving behind of The Woman in the Real.  ](ポール・バーハウ PAUL VERHAEGHE,  DOES THE WOMAN EXIST?, 1997)






◼️原抑圧=女性のシニフィアンの排除
「性関係はない Il n'y a pas de rapport sexuel」。これは、まさに「女性のシニフィアンの排除 forclusion du signifiant de la femme) 」が関与している。…

私は、フロイトのテキストを拡大し、「性関係はないものとしての原抑圧の名[le nom du refoulement primordial comme Il n'y a pas de rapport sexuel」を強調しよう。…話す存在 l'être parlant にとっての固有の病い、この病いは排除と呼ばれる[cette maladie s'appelle la forclusion]。女というものの排除 la forclusion de la femme、これが「性関係はない 」の意味である。(J.-A. MILLER, - Choses de finesse en psychanalyse III, 26 novembre 2008)
女性のシニフィアンの排除の穴 trou de la forclusion de La femme, (Catherine Bonningue, Un « roque » final, 2012)

◼️サントーム=原抑圧=固着
四番目の用語(サントームsinthome)にはどんな根源的還元もない Il n'y a aucune réduction radicale、それは分析自体においてさえである。というのは、フロイトが…どんな方法でかは知られていないが…言い得たから。すなわち原抑圧 Urverdrängung があると。決して取り消せない抑圧である。この穴を包含しているのがまさに象徴界の特性である。そして私が目指すこの穴trou、それを原抑圧自体のなかに認知する。(Lacan, S23, 09 Décembre 1975)
サントームは反復享楽であり、S2なきS1(フロイトの固着)を通した身体の自動享楽に他ならない。ce que Lacan appelle le sinthome est […] la jouissance répétitive, […] elle n'est qu'auto-jouissance du corps par le biais du S1 sans S2(ce que Freud appelait Fixierung, la fixation) (J.-A. MILLER, L'Être et l'Un, 23/03/2011、摘要訳)
疑いもなく、症状は享楽の固着である。sans doute, le symptôme est une fixation de jouissance. (J.-A. MILLER, - Orientation lacanienne III, 12/03/2008)

◼️超自我=原抑圧=固着
超自我が設置された時、攻撃欲動の相当量は自我の内部に固着され、そこで自己破壊的に作用する。Mit der Einsetzung des Überichs werden ansehnliche Beträge des Aggressionstriebes im Innern des Ichs fixiert und wirken dort selbstzerstörend. (フロイト『精神分析概説』第2章草稿、死後出版1940年)
我々が、欲動において自己破壊 Selbstdestruktion を認めるなら、この自己破壊欲動を死の欲動 Todestriebes の顕れと見なしうる。(フロイト『新精神分析入門』32講「不安と欲動生活 Angst und Triebleben」1933年)

われわれには原抑圧 Urverdrängung、つまり欲動の表象代理 Vorstellungs-Repräsentanz des Triebes が意識的なものへの受け入れを拒まれるという、抑圧の第一相を仮定する根拠がある。これと同時に固着 Fixerung が行われる。(フロイト『抑圧』1915年)

◼️超自我の欲動=反復強迫(タナトス)
死の欲動(反復強迫)…それは超自我の欲動である。la pulsion de mort [...], c'est la pulsion du surmoi  (J.-A. Miller, Biologie lacanienne, 2000)
タナトスとは超自我の別の名である。 Thanatos, which is another name for the superego (ピエール・ジル・ゲガーン Pierre Gilles Guéguen, The Freudian superego and The Lacanian one. 2018)

◼️サントーム=トラウマの反復強迫
サントームは現実界であり、かつ現実界の反復である。Le sinthome, c'est le réel et sa répétition. (J.-A. MILLER, L'Être et l'Un - 9/2/2011)
フロイトの反復は、心的装置に同化されえない inassimilable 現実界のトラウマ réel trauma である。まさに同化されないという理由で反復が発生する。(J.-A. MILLER, L'Être et l'Un, 2011)
現実界は書かれることを止めない(反復強迫)。 le Réel ne cesse pas de s'écrire (ラカン, S 25, 10 Janvier 1978)

◼️サントーム=身体の出来事(トラウマへの固着)の反復強迫
サントームは身体の出来事として定義される Le sinthome est défini comme un événement de corps(MILLER, L'Être et l'Un, 30/3/2011)
幼児期の「病因的トラウマ ätiologische Traumen」は…自己身体の上への出来事 Erlebnisse am eigenen Körper もしくは感覚知覚 Sinneswahrnehmungen である。…また疑いなく、初期の自我への傷 Schädigungen des Ichs である。…
これは「トラウマへの固着 Fixierung an das Trauma」と「反復強迫Wiederholungszwang」の名の下に要約される。それは、標準的自我 normale Ich と呼ばれるもののなかに含まれ、絶え間ない同一の傾向 ständige Tendenzen desselbenをもっており、「不変の個性刻印 unwandelbare Charakterzüge」 と呼びうる。(フロイト『モーセと一神教』「3.1.3 Die Analogie」1938年)

サントームは事実上、母の名であり、母による身体の上への刻印である。幼児の身体から湧き起こる欲動の奔馬を飼い馴らす最初の鞍を置くのは母である。前期ラカンは、この母を「母なる超自我」と呼んだ。


なぜサントームあるいは超自我や原欲圧が、死の欲動(反復強迫)となるかと言えば、残滓のせいである(参照)。つまり奔馬は十分にはけっして飼い馴らせない。



フロイトが固着と呼んだものは、享楽の固着 [une fixation de jouissance]である。(J.-A. MILLER, L'Autre qui n'existe pas et ses comités d'éthique, 26/2/97)
フロイトは、幼児期の享楽の固着の反復を発見したのである。 Freud l'a découvert[…] une répétition de la fixation infantile de jouissance. (J.-A. MILLER, LES US DU LAPS -22/03/2000)
享楽は身体の出来事である。享楽はトラウマの審級にあり、固着の対象である。la jouissance est un événement de corps. […] la jouissance, elle est de l'ordre du traumatisme, […] elle est l'objet d'une fixation. (J.-A. MILLER, L'Être et l'Un, 9/2/2011)

享楽は、残滓 (а)  を通している。la jouissance[…]par ce reste : (а)  (ラカン, S10, 13 Mars 1963)
いわゆる享楽の残滓 [reste de jouissance]。ラカンはこの残滓を一度だけ言った。だがそれで充分である。そこでは、ラカンはフロイトによって啓示を受け、リビドーの固着点 [points de fixation de la libido]を語った。これが、孤立化された、発達段階の弁証法に抵抗するものである。(J.-A. MILLER,  - Orientation lacanienne III-  5/05/2004)

発達や変化に関して、残存現象 Resterscheinungen、つまり前段階の現象が部分的に置き残される Zurückbleiben という事態は、ほとんど常に認められるところである。…いつでも以前のリビドー体制が新しいリビドー体制と並んで存続しつづける。…最終的に形成されおわったものの中にも、なお以前のリビドー固着の残滓 Reste der früheren Libidofixierungenが保たれていることもありうる。…一度生れ出たものは執拗に自己を主張するのである。われわれはときによっては、原始時代のドラゴン Drachen der Urzeit wirklich は本当に死滅してしてしまったのだろうかと疑うことさえできよう。(フロイト『終りある分析と終りなき分析』第3章、1937年)




以上でだいたいいけるはずだが、二つ抜けている。

境界表象と母への固着は次の通り。


(原)抑圧 Verdrängung は、過度に強い対立表象 Gegenvorstellung の構築によってではなく、境界表象 Grenzvorstellung の強化によって起こる。Die Verdrängung geschieht nicht durch Bildung einer überstarken Gegenvorstellung, sondern durch Verstärkung einer Grenzvorstellung(Freud Brief Fließ, 1. Januar 1896)
母へのエロス的固着の残滓は、しばしば母への過剰な依存形式として居残る。そしてこれは女への拘束として存続する。Als Rest der erotischen Fixierung an die Mutter stellt sich oft eine übergrosse Abhängigkeit von ihr her, die sich später als Hörigkeit gegen das Weib fortsetzen wird. (フロイト『精神分析概説』草稿、死後出版1940年)


最初のフリース宛書簡は当時のフロイトには原抑圧概念がないので抑圧となっているが、内容上、明らかに後年の原抑圧である。

境界概念と言い換えてもよい。

欲動は、心的なものと身体的なものとの「境界概念」である。der »Trieb« als ein Grenzbegriff zwischen Seelischem und Somatischem(フロイト『欲動および欲動の運命』1915年)
S(Ⱥ)、すなわち、斜線を引かれた大他者のシニフィアン S de grand A barré。これは、ラカンがフロイトの欲動を書き換えたシンボル symbole où Lacan transcrit la pulsion freudienne である。。(ミレール「後期ラカンの教え Le dernier enseignement de Lacan、 LE LIEU ET LE LIEN 」2001)