このブログを検索

2022年3月20日日曜日

「新しい」国際政治学者たちのヒステリー現象


羽場久美子さんはこう言ったらしいけどさ。


ロシアが悪、ウクライナが善という対立だが、戦争はどちらか100%が悪ではない、ロシア・プーチン大統領のウクライナ侵攻は残虐だが、ゼレンスキーの要求の武器供与、総動員令、それに武器を配る状況で戦況を悪化させているところも見ないといけない(国際政治学者羽場久美子、2022/03/20  【日曜討論】



ボクにとってはごく当たり前の発言なんだが、で、これが炎上の対象ってことかあああ


Kazuto Suzuki@KS_1013

日曜討論の羽場先生、炎上路線まっしぐらという感じだな…。

Satoshi Ikeuchi 池内恵@chutoislam

SNS上で羽場氏を支持する人たちちらほらいても、たいてい陰謀論も併せて支持しているんだよね…ロシア問題では右と左の陰謀論者が炙り出される。 https://twitter.com/ks_1013/status/1505337114963345413…

中山 俊宏 NAKAYAMA Toshihiro @tnak0214

日曜討論は人選を間違ったともいえるし、日本の変わらない、変わろうとしない一段面を示したかったということならば、正しい人選をしたともいえる。


東野篤子 Atsuko Higashino@AtsukoHigashino

@realistjp 佐橋先生楽しみですよね!

他方、羽場先生は私等とは真反対のお立場で、この間のユーラシア研究所シンポジウムでも、私たちの報告に対して「NATO拡大は諸悪の根源」だと論じられていたので、今回の討論はかなり立場の違う人々を集めたのでは。その意味でも興味深いです。

東野篤子 Atsuko Higashino@AtsukoHigashino

@realistjp2 たぶん炎上は全く狙ってなく、あのような主張をする人だとは全く知らずに呼んだのでは…





世代的なものも大きく関係してるんだろうな、


羽場久美子(1952年 - )


鈴木一人(1970年 -)

池内恵(1973年 - )

中山俊宏(1967年 - )

東野篤子(1971年 - )



後者4人は「知的退行」の21世紀に学んだ者たちだからなあアア


私は歴史の終焉ではなく、歴史の退行を、二一世紀に見る。そして二一世紀は二〇〇一年でなく、一九九〇年にすでに始まっていた。科学の進歩は思ったほどの比重ではない。科学の果実は大衆化したが、その内容はブラック・ボックスになった。ただ使うだけなら石器時代と変わらない。(中井久夫「親密性と安全性と家計の共有性と」2000年初出『時のしずく』所収)



「知的退行」が訪れていない前の世代ではふつうはこうだったんだがなあ、



NATOの東方拡大は、冷戦後の全時代を通じて、アメリカの政策における最も致命的誤謬となるだろう。そのような決定は、おそらくロシアをナショナリズム的・反西洋的・軍事主義的傾向へと駆り立てうる[expanding NATO would be the most fateful error of American policy in the entire post-Cold War era. Such a decision may be expected to inflame the nationalistic, anti-Western and militaristic tendencies in Russian opinion;](ジョージ・ケナン「致命的誤謬」George F. Kennan, “A Fateful Error,” New York Times, 05 Feb 1997


ベーカー米国務長官がゴルバチョフに「1インチも東方に進出しない(not one inch eastward)」(1990 2 月)と言ったのは確かだからな、で1996年だったかにうやむやになってケナンは怒ったんだよ、ーージョージ・ケナンの遺言ぐらいは政治に関心のない者でもむかしは教養課程で頭に叩き込まれたんだけどなあ(これはもちろんレトリックだぜ、ーー言語はレトリックであるdie Sprache ist Rhetorik ](ニーチェ講義録WS 1871/72 – WS 1874/75)ーーボクは1976年に大学入ってるからな、当時は未来のケナン派ばっかりだってことさ)。ウクライナ侵略後もゴルバチョフがケナンを引用してたけど、「新しい」人はムシかい?


次のだってケナンのにおいがプンプンするよ。



英学者「ソ連崩壊後に米国は二つの面で深刻な過ちを犯した」 CMG独占インタビュー【3月18日 CGTN Japanese

英国の著名な学者でケンブリッジ大学元研究員のマーティン・ジャック氏はこのほど、中央広播電視総台(チャイナ・メディア・グループ、CMG)の独占インタビューを受け、「ソ連崩壊後、米国は二つの面で深刻な過ちを犯した。一つは自国が唯一の超大国であり、高慢で身の程を知らないため、後のイラク戦争やアフガニスタンへの出兵などに導いた。もう一つはロシアを『冷戦』の敗戦国として扱い、ロシアの利益と安全面の需要を無視したため、現在の局面を招いた」との見解を示しました。




それとも「悪人」プーチンがこの線でほとんど同じこと言ってるからヒス起こしちゃうのかね、それだったらキモチはわからないでもないさ


NATOはアメリカの外交の道具だ。同盟国はいない、属国だけだ。〔・・・〕

私が思うに、自らを世界唯一の超大国だと考えて、国民に選民的な認識を植えつけてしまうと、現実離れしたメンタリティーが社会に生まれる。そして外交政策は社会の期待に応えることが求められる。国家の指導者は帝国主義的論理に従い、アメリカ国民の利益を損なう可能性がある。私はそう考える。最終的には、問題や欠陥につながるんだ。(プーチン発言ーーオリバー・ストーンインタビュー(2015~2017



少し前に引用したけど、国際安全保障リアリスト派の重鎮と呼ばれているらしいミアシャイマー教授のエコノミストへの投稿ならこうだ。


◼️ ウクライナ危機の主要責任は西側にある:ジョン・ジョゼフ・ミアシャイマー

The West is principally responsible for the Ukrainian crisis: John J. Mearsheimer 11 March 2022 in The Economist

ウクライナ戦争は、1962年のキューバ・ミサイル危機以来、最も危険な国際紛争である。事態の悪化を防ぎ、収束に向かわせるためには、その根本的な原因を理解することが不可欠だ。


The war in Ukraine is the most dangerous international conflict since the 1962 Cuban missile crisis. Understanding its root causes is essential if we are to prevent it from getting worse and, instead, to find a way to bring it to a close.


プーチンが戦争を始めたこと、そしてその戦争がどのように行われているかに責任があることに疑問の余地はない。しかし、なぜ彼がそうしたのかは別問題である。欧米では、プーチンは旧ソ連のような大ロシアを作ろうとする非合理的で常識はずれの侵略者だという見方が主流である。したがって、ウクライナ危機の全責任は彼一人にある。


There is no question that Vladimir Putin started the war and is responsible for how it is being waged. But why he did so is another matter. The mainstream view in the West is that he is an irrational, out-of-touch aggressor bent on creating a greater Russia in the mould of the former Soviet Union. Thus, he alone bears full responsibility for the Ukraine crisis.

しかし、この話は間違っている。2014年2月に始まったこの危機の主な責任は、欧米、とりわけアメリカにある。それが今や、ウクライナを破壊する恐れがあるだけでなく、ロシアとNATOの核戦争にエスカレートする可能性を秘めた戦争に発展してしまったのである。


But that story is wrong. The West, and especially America, is principally responsible for the crisis which began in February 2014. It has now turned into a war that not only threatens to destroy Ukraine but also has the potential to escalate into a nuclear war between Russia and NATO.


ウクライナをめぐるトラブルは、実は2008年4月のNATOのブカレスト首脳会議で、ジョージ・W・ブッシュ政権が同盟に働きかけ、ウクライナとグルジアを「加盟させる」と発表したことが発端だった。


The trouble over Ukraine actually started at Nato's Bucharest summit in April 2008, when George W. Bush's administration pushed the alliance to announce that Ukraine and Georgia "will become members.

➡︎DeepL邦訳全文


※2015年時点でのミアシャイマー教授のレクチャー動画

➡︎ Why is Ukraine the West's Fault? Featuring John Mearsheimer



というわけだが、あれら「知的退行」の時代の国際政治学者にはこういったのが古く感じるんだろうよ。


日本でも次のようなこといまだに言ってる浅田彰はもはや御釈迦入りなんだろ?



インタビュー マルクスから (ゴルバチョフを経て )カントへ ─ ─戦後啓蒙の果てに From Marx (via Gorbachev) to Kant : After the Rise and Fall of Post war Enlightenment 浅田彰 Akira Asada 聞き手 │東浩紀 、2016年)

こんなことを言っても詮無い床屋政談にしかならないけれど 、八九年に冷戦が終結したあと 、西側はゴルバチョフを経済面などで 、もっと支援すべきでした 。第一次世界大戦後にドイツを叩きすぎたため 、ドイツを経済破綻からナチズムという道に追い込んだことへの反省から 、第二次大戦後 、アメリカをはじめとする連合国はマーシャル・プランという大規模な贈与を行うことでヨーロッパの復興を助け 、とくに旧ファシズム陣営をうまく手なずけた 。 ところが冷戦終結時にはふたたびその反省が忘れられ 、ゴルバチョフがコケてソ連が元に戻った場合 (たしかにその可能性は小さくなかった )はいつでも叩けるようにしておこうという警戒心ばかりが先行して 、経済危機にあえぐ彼を助けようとしなかった 。結果 、彼は追い詰められ 、九一年にクーデターが起こり 、それを鎮圧して新たに大統領になったエリツィンがソ連を解体し 、いまのロシアをつくるわけです 。


しかし 、エリツィンが急激な自由化・民営化というショック・セラピー (ナオミ・クライン )を強行した結果 、オリガルヒと呼ばれる新興財閥に富が集中する一方で 、民衆は飢えてめちゃめちゃな混乱状態になり 、結局それを収拾して秩序を再建するストロング・マンとしてプーチンが登場するんですね 。アメリカはいまプーチンを目の敵にしているけれど 、かつて自分たちがゴルバチョフを見捨て 、エリツィンに性急な資本主義的 「改革 」を押し付けた 、その結果としてプーチンが現れたということを 、もっとよく考えるべきでしょう 。むろんプーチンは乱暴すぎると思うけれど 、ロシアから見れば 、冷戦終結後 、アメリカを中心とする NATOがどんどん迫ってきたわけで 、危機感をつのらせるのは当然ですよ 。 



「民衆は飢えてめちゃめちゃな混乱状態」と浅田は言っているが、例えば平均寿命ーーロシア人はもともと平均寿命が短いがーーは1990年から1995年にかけて次のような数字が出ている。





さて話を戻すが、あれら「新しい」国際政治学者たちには同情してやらないとな、アメリカが事実上ボスのNATO一択しか考えられず、「NATO拡大は諸悪の根源」とケナン風に言うとヒステリー起こしちゃう不幸な世代の知的退行者たちに。


もっともリアルポリティックスの国際政治学者たちって誉めといてもいいけどさ。




想像力を欠くすべての人は現実へと逃避する。Tous ceux qui manquent d'imagination se réfugient dans la réalité(Godard, Adieu au Langage, 2014)


アバヨ!