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2022年9月29日木曜日

とても静かな「この世の中狂っている」

 

世界はまちがいもなく脱臼してしまっている。暴力的な動きによってのみ、それをふたたびはめ込むことができる。ところが、それに役立つ道具のうちには、ひとつ、小さく、弱くて、軽やかに扱ってやらなきゃならないものがあるはずだ。(ブレヒト『真鍮買い』)


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何度も引用している浅井基文のブログだが、次のものも頭のなかを「軽やかに」整理するためにとてもいい。人は自らの見解を示すとき、最低限このくらいの量は書くべきではないか。



◼️プーチン大統領の部分的動員令演説 浅井基文 9/28/2022

 ロシアのプーチン大統領が9月21日に行った演説から浮かび上がってくるもっとも重要なメッセージは、ロシアがドンバス解放を目的としてウクライナに対して起こした特別軍事行動が、今や攻守ところを変えて、アメリカ以下の西側の軍事的総攻勢に対するロシアの祖国防衛戦争の性格を色濃くしているということです。すなわち、米西側は第三次世界大戦に直結する事態を回避するためにウクライナを前面に押し立て、ウクライナに兵器提供に留まらず、通信、情報分析、偵察、衛星情報等システムによる全面支援を行う(9月21日ショイグ国防相発言)ことで、ロシアに防戦を強いる状況を作り出していることが、プーチン演説から浮かび上がっています。「今我々は、西側集団プラスNATO、あるいはNATOプラス西側集団と戦争している」("At this point we are really at war with the collective West, with NATO, or vice versa - with NATO and with the collective West,")というショイグの発言は、端的に戦争の性格の変化を物語っています。


 ウクライナに対する特別軍事行動を開始することを明らかにしたプーチンの2月24日の演説を読み返してみたのですが、アメリカ以下の西側に対する徹底した不信感は繰り返し表明されていましたが、米西側がウクライナに対して大規模な軍事支援を行う可能性に対する言及はありませんでした。これは、アメリカ・NATOの首脳陣がNATOに加盟していないウクライナを支援するための直接軍事介入はないと度々口にしていたため、対アメリカ・NATO不信感に凝り固まったプーチンもさすがに今日の事態を想定していなかった可能性を示唆します。アメリカ・NATOも第三次大戦に直結しうる直接軍事介入には慎重でした。ところが、反ロに徹するゼレンスキー政権の存在は、第三次大戦の危険を回避しつつロシアを徹底的に叩くという、アメリカ・NATOにとっては「願ったり叶ったり」の作戦遂行の可能性を提供しました。すなわち、ウクライナに実戦遂行(代理人戦争)を担当させ、自分たちは戦争支援・指導を全面的に担うという分業体制です。その結果、当初は余裕を持ってウクライナに対する軍事作戦を進めていたロシアが今やアメリカ・NATOの総掛かりの軍事攻勢に直面し、部分的動員令を発する窮地に追い込まれたとみられます。


 もう一つプーチンが9月21日の演説で、「はじめて明らかにすること」と述べて指摘したのが、それまでの軍事行動で1000キロ以上に及ぶ前線を作り出してしまっているという事実でした。ウクライナ軍だけが相手ならともかく、「西側集団の総合軍事組織」(the entire military machine of the collective West)を相手にしなければならなくなった今、ロシアの主権及び領土保全を防衛するためには限定的動員が不可欠になっているということです。プーチンは「ワシントン、ロンドン、ブラッセルはキエフに対して、敵対作戦をロシア領土まで広げることを公然と焚きつけ、どんな手段を使ってでもロシアを戦場で打ち負かさなければならないと公然と言い放っており、核恫喝にまで訴え‥、ロシアに対する核兵器使用の可能性・許容性を述べる高官もいる」と述べて警戒感をあらわにしています。


 ちなみに、9月21日のプーチンの演説に関しては、「領土保全及びロシア防衛のためには、すべての兵器システムを使うだろう。これは脅しではない」と述べて核兵器使用の可能性に言及した部分が大きく取り上げられています。確かに重大発言であることは間違いありませんが、この発言は核恫喝・核兵器使用の可能性・許容性に関する以上の西側発言を紹介した上でのものであることを理解しなければならないと思います。実際、プーチンは続けて、「我々に核恫喝を行うものは、巻き起こされた風は向きを変えることがあることを知っておくべきだ。我が母国を分解させようとするものを押しとどめるのが我々の歴史的伝統である」とも強調しており、核兵器使用は報復手段であることを確認しています。


 また、2月24日の演説でも、プーチンは次のように述べているのです。今回の演説ほどにはあからさまではありませんが、本質的には同じで、「目には目を」と言っていることには変わりありません。


 外部から(ウクライナの)出来事に干渉しようとするものに対して、非常に重要なことを言っておきたい。邪魔をし、我が国・人民に対して脅威を作り出そうとするものは、ロシアが即刻反応し、その結果は歴史上見たこともないものになることを知っておかなければならない。事態がどのように展開しようとも、我々には用意ができている。この点に関する所要の決定は行われている。この発言が聞き届けられることを願う。


 また、国連総会に出席中のラブロフ外相は9月25日に記者会見を行っていますが、9月21日のプーチンの核兵器使用発言に対するクラリフィケーションを求めた記者に対して、次のように述べています。ロシアの核兵器使用に関する政策は従来通りで変わりがないことをこれ以上に明確にしたものはないと言えます。


 特別軍事行動の開始前の2月の声明の中でゼレンスキーは、ソ連崩壊後のウクライナが核兵器を廃棄したことは大きな間違いだったと述べたことは誰もが覚えている。彼のこの発言はウクライナ問題の解決という脈絡の中で行われた。特別軍事行動が開始された後、フランスのレドリアン外相は、フランスも核兵器を持っていることをロシアは記憶しておかなければならないと公然と述べた。この発言は挑発に乗った上でのもの(売り言葉に買い言葉)ではない。我々はこの問題についてそのような形で言及したことはない。この問題について最初にしゃべったのはゼレンスキーだ。核のボタンを押す用意があるかと尋ねられたトラス(首相)の発言もみんな知ってのとおりだ。

 ロシアについて言えば、プーチンその他が何度も述べたのは、核デタランスに関するロシアの基本原則ドクトリンがあるということだ。それは公式文書であり、核問題にかかわるすべてのことが規定されている。如何なる状況でロシアが核兵器を使用するかについては、その中で明確に記されているから、見てみることだ。


 ロシアの言うことなすことについては何事も針小棒大に、ウクライナ、アメリカの言うことなすことについては何事も穏便善意に、という言説がまかり通っています。ゼレンスキーはロシアに対して核攻撃すべきだとあけすけに放言しました。また、バイデンは、台湾が独立するかどうかは自分たちが決めることだと放言しました。かくも重大発言も国際世論はおとがめなしなのです。「この世の中狂っている」と思うのは私だけなのでしょうか。




とても静かな「この世の中狂っている」である。


私はツイッターでの短い表出は、仮にそれに賛同する見解でも、言葉の暴力ーーファシズム的ーーだと感じることが多い。そう、バルトが言っているように。



あらゆる言葉のパフォーマンスとしての言語は、反動的でもなければ、進歩主義的でもない。それはたんにファシストなのだ。なぜなら、ファシズムとは、なにかを言うことを妨げるものではなく、なにかを言わざるを得なく強いるものだからである。

La langue, comme performance de tout langage, n’est ni réactionnaire ni progressiste; elle est tout simplement fasciste; car le fascisme, ce n’est pas d’empêcher de dire, c’est d’obliger à dire.(ロラン・バルト「コレージュ・ド・フランス開講講義」1977年『文学の記号学』所収)


ツイッターにおいても浅井基文氏のようないくらかまとまった文を書いて画像で貼り付けたらよいのである。これはオリバー・ストーンがやっていた。最低限スレッドで書く必要がある、もっともスレッド自体、そのひとつのツイートだけが切り取られて流通してしまうことが多いが。


もちろん短い文でも高橋悠治が一時的に試みたやり方もあるだろう。


ツイートの別な使い方。「ボット」のように、自由間接話法の、だれとも知れない声の仮の置き場所として使えないか(壁の向うのざわめき 高橋悠治)


これはこれで魅力的ではある。だが大半の人は、クラスター村内での湿った瞳の交わし合い頷き合い、あるいは先のバルトの言うような言葉のファシズム、さらには次の谷川俊太郎の言うような使い方になっているように見える。


Xについて何か発言すれば、意見を言えば、自分はちゃんとXを意識している、Xについて考えている、他者に向かってそう言いたい人が、ウエブのおかげで増えているのかと思う。行動はしなくても、コトバにすれば免責される、そんな気持ちがひそんでるんじゃないかな。(谷川俊太郎、2015年12月24日)