今頃気づいたが、今年の財政総論(財務省 2023年4⽉14⽇ PDF )にハイパーインフレの項の次ページに、戦前の隣組読本「戦費と国債」から三つの資料が掲げられている。
今でもこのたぐいの歯の浮くような事を言うポピュリズム政治家や経済評論家がいるがね、巷間の諸氏があれら隣組デマゴーグに縋りたくなる心持ちもわからないではないさ。
でもそろそろ準備しないとな、一般には「誰にも思い寄らないこと」かも知れないが、必ず起こるだろうハイパーインフレによる債務チャラ化に対して。
日銀の当時副総裁雨宮正佳氏が2022年12月02日に、保有国債の含み損に関して、金利1%上昇で28.6兆円、金利が2%上昇で52.7兆円、5%では108.1兆円と言ったが、雨宮氏は日銀総裁最有力候補だったが辞退した。これに象徴されるが、日銀信用失墜はもう間近だ。
◼️荷風戰後日歴 永井荷風昭和廿一年 |
二月廿一日。晴。風あり。銀行預金拂戻停止の後闇市の物價また更に騰貴す。剩錢なきを以て物價の單位拾圓となる。 |
三月初九。晴。風歇みて稍暖なり。午前小川氏來り草稿の閲讀を乞ふ。淺草の囘想記なり。町を歩みて人參を買ふ。一束五六本にて拾圓なり。新圓發行後物價依然として低落の兆なし。四五月の頃には再度インフレの結果私財沒收の事起るべしと云。去年此日の夜半住宅燒亡。藏書悉く灰となりしなり。 |
日露戦争は外債で戦い、その支払いのために鉄道、塩、タバコを国の専売として抵当においた。太平洋戦争は、国民の貯蓄を悪性インフレによってチャラにすることで帳尻を合わせたが、それは戦時中には誰にも思い寄らないことであった。戦勝による多額の賠償の幻想が宙を漂っていた。(中井久夫「戦争と平和ある観察」2005年) |
◼️日本の財政関係資料 令和4年10月 財務省 PDF
今の日本が大きく変わる可能性があるのは、実際の大地震ーー南海トラフ地震に代表されるーー以外はこの財政大地震だろうな(戦争の可能性はここでは除いておこう)。
ハイパーインフレはインフレとは異なる。別と考えたほうが良い。なぜなら、インフレとはモノの値段が上がることだが、ハイパーインフレはマネーあるいは貨幣の値段が暴落することだからである。貨幣とは本来は価値ゼロのバブルそのものであるから、いったん「価値がない」と思われればすぐに紙くず、あるいは仮想通貨(暗号資産)なら「ビットくず」になってしまう。 第3のインフレ、正確にはハイパーインフレは、実は、経済学にとっては、むしろ普通のインフレよりはありがたいものである。なぜなら、もちろん経済社会に与えるダメージは深刻で、インフレのように「ほぼ無害」であるのとは大きく異なるわけだが、しかし、なぜ起こるのかについては、原因が解明されているからである。 |
それは、その貨幣の信用が失われるからである。その通貨を発行している中央銀行、あるいはそれを支えるその国家、その経済、それらいずれかの(あるいはすべての)信用が失われる(疑問を持たれる)ことによるものだからである。だから、信用を失わないようにすれば良い。そうすればハイパーインフレは起きない。普通は世の中にいないが、ハイパーインフレを起こしたければ、信用を意図的に失えばよい。現実は悲惨でも、学問的、論理的には明快だ。(小幡績「そもそもインフレはどうやったら起きるのか?」2021/06/13 ) |
むかしいくらか勉強したときは、次のように言っている経済学者もいたな、 |
インフレは、国債という国の株式を無価値にすることで、これまでの財政赤字を一挙に清算する、究極の財政再建策でもある。 予期しないインフレは、実体経済へのマイナスの影響が小さい、効率的資本課税とされる。ハイパーインフレにもそれが当てはまるかどうかはともかく、大した金融資産を持たない大多数の庶民にとっては、大増税を通じた財政再建よりも望ましい可能性がある。(本当に国は「借金」があるのか、福井義高 2019年) |
他方で、ハイパーインフレが起これば社会保障給付等が止まって餓死者が出るという可能性を指摘する者もいる。これは2019年の財務省資料でもそのたぐいを示していた、➡︎ハイパーインフレ文献 いずれにせよ、日本だけが今の金利水準で留まるわけがないので、植田日銀がいくら誠実に頑張ったって、無駄な抵抗だよ、日銀信用失墜はもはや時間の問題でしかない。 |