このブログを検索

2020年4月17日金曜日

42万人という数字

西浦博氏の予測「人と人との接触を8割減らさないと、日本で約42万人が新型コロナで死亡する」は、すこし前出た、英インペリアル・カレッジの予測の「最悪の」数字よりはだいぶ低いのだな。


新型コロナ、迅速かつ厳格な措置でも180万人死亡か 英研究
今年中に世界で180万人の死者
英インペリアル・カレッジ・ロンドン(Imperial College London)は26日、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)による死者数は、感染拡大を抑止するための迅速かつ厳格な措置を取ったとしても、今年世界で180万人に達する可能性があるとの研究結果を発表した。
まったく介入がなければ4000万人の死者
今回の研究によると、介入が一切されなければ、新型コロナウイルスは今年、地球上のほぼすべての人に感染し、4000万人が死亡する可能性があるという。
研究ではまた、自発的な対人距離の確保から、感染拡大が深刻な国の一部で実施されている封鎖措置まで、さまざまなレベルの対策について、202か国における潜在的な健康への影響を予測。早期に厳格な封じ込め措置が実施された場合、1週間の死亡率は人口10万人当たり0.2で、今年の死者は186万人、感染者は約4億7000万人と推計している。
厳格な封じ込め措置が遅れれば、今年の死者は1045万人
 一方、同様の措置を遅れて実施した場合、1週間の死亡率は人口10万人当たり1.6となり、今年の死者は1045万人、感染者は24億人に激増するという。



単純計算すれば、
・現在世界人口77億8000万人、日本人口1億2600万人。
・日本人口は世界人口の1, 6パーセント。

したがって、

世界死者
今年予測
日本換算
180万人 
➡︎
29000
1045万人
➡︎
16万9000人
4000万人
➡︎
64万8000人


繰り返せばあくまで単純計算なのだけれど、29000人、16万9000人、64万8000人の3種類の数字が導き出される。



ところで少し前、「厚生労働省、平成 30 年(2018) 人口動態統計月報年計(概数)の概況」PDF から次の図を貼り付けた。



この図だけでみれば、1日あたり肺炎死者は、94654÷365で、260人程度。つまりコロナがなくてもこの程度、毎日死んでいる。

もっとも上の図は上位10の死因しか掲げられていない。エキスデータだけ抜き出せばこうなる。



その他がやけに多い。この内訳は、「第7表 死因簡単分類別にみた性別死亡数・死亡率(人口10万対)」pdf にある。

そこから呼吸器系の疾患の死亡数だけ抜きだすとこうある。



ここでもエキスデータだけさらに抜き出して大きく掲げよう。



全呼吸器系の疾患で年191,356人死んでいる。これは毎日520人ほどということだ。とはいえ、これはいろんな疾患が含まれるので、上の図の118,557人ぐらいが肺炎関連で死んでいると想定すれば、毎日320人ほどの死者である。

冒頭のデータから日ごとの死者260人程度、下のデータから日ごとの死者320人程度としたが、ま、300人程度が肺炎関連で死んでいるとしたらよいだろうと思う。これはツイッター見る限りでも、すでに多くの人が指摘していることだが。

こういった数字というのは単純には読めないので、例えばコロナで1日100人以上死亡ということがこれからあったにしろ、他の病気でもうすぐ死ぬ人がコロナで死んだ勘定になるということも十分にありうる。

とはいえやっぱり医療崩壊だな、治療すれば回復する人が医療崩壊によって死んでしまうのだから。医療従事者はいわばコロナと戦う「前線の戦士」であり、何よりも彼らに援助を集中すべきじゃないか。看護師助手などだれもやりたくないだろうが、本来ここに人員投入をどうやってすべきかの議論があってもおかしくない。マスクや防護服が欠けたまますでに竹槍戦法で戦っておられる方もいる(参照)。

以上、BCG仮説などを視野にいれなかったら、単純計算ではこうなるという話であり、たんなる数字遊びとの謗りを受けてもやむえない。とはいえ上で見た2万9000人、16万9000人、64万8000人の3種類の数字の、たとえば真ん中の数字「16万9000人」をどう評価するのか。1日あたりの死者460人。

イタリア、スペイン、フランスなどは人口は日本の半分程度だが、現在すこし収まってきたとはいえ、日毎に次の死者が出ている(以下のデータは4月16日付の欧州より)。


Country,
Other
Total
Cases
New
Cases
Total
Deaths
New
Deaths
Deaths/
1M pop
Europe
1,015,507
44,750
92,224
3,905

184,948
4,289
19,315
503
413
168,941
3,786
22,170
525
367
165,027
17,164
17,920
753
275
137,698
2,945
4,052
248
48
103,093
4,617
13,729
861
202
34,809
1,236
4,857
417
419
29,214
1,061
3,315
181
193
27,938
3,448
232
34
2
26,732
396
1,281
42
148
18,841
750
629
30
62




たとえばスペイン人口は4700万人であり、1日の死者500人とは、日本換算したら1300人である。





欧米のようにならないことを祈るしかないね。日本換算1300人どころかスペインやイタリアの最高死者数の日の数字を日本換算したら2500人ほどということになるのだから。ましてや日本は高齢者比率が欧米諸国より高い。

ちなみに西浦氏の42万人という数字は今年中の死者数か否かは判然としないが、仮に今年中の数だとして日毎換算すれば1150人である。


西浦氏の数字は、R0 (基本再生産数)の設定の仕方が恣意的だとか、そもそも発表に利用したモデルとそのパラメータ、その他の仮定を検証可能な形で公開されていない、あるいは専門家の役割を超えた暴挙だ等々の批判はあるが、最悪の数字を想定して国民に示すことは現在、政治的責任ある立場の誰かがやったほうがいいのではないか。もっとも医療崩壊を十全に視野に入れれば、42万人という数字は過小すぎるという観点もあるだろう。

現在のコロナツナミに対しては、『ツナミの小形而上学』を書いたジャン=ピエール・デュピュイの考え方にわたくしは思いを馳せる。最悪の未来を設置し、それが起こらないためには、この今ーー未来から見た過去ーー、なにを為すべきかというという思考である。




デュピュイはもし最悪の未来を想定しなかったら、《たとえ知識があろうとも、 それだけでは誰にも行動を促すことはできない》と言う。

………

と記した直後、次のニュースに行き当たった。「前線の戦士たち」への援助策である。

首相会見「大型連休 移動自粛を」「診療報酬を倍増させたい」
医療現場での感染リスクを減らすため、医療用のガウンやマスクの調達を急ぐ方針を示すとともに、初診からの「オンライン診療」が今週から認められたことを踏まえ、電話やオンラインでの診察を積極的に活用するよう呼びかけました。

そのうえで「今、この瞬間も、命を救うために懸命に治療にあたっている医師や看護師、医療従事者の皆さんのため、診療報酬を倍増するなど、処遇の改善にもしっかり取り組んでいく」と述べました。