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2015年2月5日木曜日

斉藤道三とジョン・マケイン

まず戦国時代の武将、美濃の戦国大名である斉藤道三をめぐる坂口安吾の「歴史小説」から、すこし抜き出してみる。

道三は新しい血をためすために、最大の権力をふるった。その血は、彼の領内が掃き清められたお寺の院内のように清潔であることを欲しているようであった。

 院内の清潔をみだす罪人を――罪人や領内の人々の判断によるとそれは甚しく微罪であったが――両足を各の牛に結ばせ、その二匹の牛に火をかけて各々反対に走らせて罪人を真二ツにさいたり、釜ゆでにして、その釜を罪人の女房や親兄弟に焚かせたりした。(坂口安吾『梟雄』





もちろん《両足を各の牛に結ばせ、その二匹の牛に火をかけて各々反対に走らせて罪人を真二ツにさいたり、釜ゆで》にしたりしたのは、日本の戦国時代の武将だけではない。

われわれドイツ人は、確かにわれわれ自身を特に残忍で冷酷な民族だとは思わない。まして特に軽浮で徒らに酔生夢死する民族だとは思わない。しかし「思想家民族」(これは今日なお信頼と真摯と無趣味と着実の最大限を示し、しかもこれらの諸性質を笠に着てヨーロッパのあらゆる種類の官人の訓育を要求するあのヨーロッパ民族のことだ)を育て上げるために地上においてどれほどの労苦が払われたかを看破するには、われわれの古い刑制を見るだけで十分である。これらのドイツ人は、その賤民的な根本本能とそれに伴なう野獣の如き蛮行とを統御するために、恐るべき手段を用いて自分たち自身に記憶をなさしめた。諸君はあのドイツの古い刑罰、例えば、石刑(――すでに口碑に伝えるかぎりでも、石臼が罪人の頭上に落下する)、車裂きの刑(刑罰の領域におけるドイツ的天分の最も独自な創意であり、十八番だ!)、杙で貫く刑、馬に引き裂かせたり踏みにじらせたりする刑(「四つ裂き」)、犯人を油や酒の中で煮る刑(十四世紀および十五世紀になお行なわれていた)、人気のあった皮剝ぎの刑(「革紐作り」)、胸から肉を切り取る刑などを思い合わせ、更に悪行者に蜜を塗って烈日の下で蠅に曝す刑なども思い合わせてみるがよい。そうした様々な光景を心に留め、後者の戒めとすることによって、人々はついに、社会生活の便益を享有するためにかねた約束した事柄に関して、幾つかの「われ欲せず」を記憶に留めるようになる。――そして実際! この種の記憶の助けによって、人々はついに「理性に」辿り着いたのだ! ああ、理性、真摯、感情の統禦など、およそ熟慮と呼ばれているこの暗い事柄の全体、人間のすべてのこうした特権と美粧、これらに対して支払われた代価がいかに高かったことか! いかに多くの血と戦慄があらゆる「善事」の土台になっていることか! ……(ニーチェ『道徳の系譜』木場深定訳 岩波文庫 p68)

あるいは、ジョルジュ・バタイユ『エロスの涙』から次ぎのような画像を貼り付けることもできる(「ジュルジュ・バタイユと斬首の空景」(鈴木創士)より)。





…………

ところで次ぎのような文章を読んだ。

メディア報道が触れないのは、アメリカの反イスラム国キャンペーンを支持している国家や政府の首脳は、 それぞれの秘密機関の忠告によって、 アメリカ情報部こそがイスラム国を作ったという口にされない事実を知っており、それは、アメリカの援助による“ジハーディスト” (聖戦士)テロリストの広大なネットワークの一部であることを、十分に承知しているということである。 諸国家は、 アメリカ主導の決議を支持するように強要されているかアメリカのテロ計画の一味であるか、どちらかである。(「テロリストはアメリカ――イスラム国に関する大嘘 」By Prof. Michel Chossudovsky Global Research, September 26, 2014 http://www.dcsociety.org/2012/info2012/140927_2.pdf


そして、西谷文和という方ーー、プロフィール欄には、《フリージャーナリストしてます。日本語にすると「無職」です。なのでいろいろと外国へ行きます。もっぱら中東の戦場取材しています》とあるーーが次ぎのようなツイートをしているのにめぐり合った。

 @saveiraq · 2月1日事態を逆から見ることが大事。「イスラム国が残忍だからテロとの戦いを強化する」これが安倍首相の見方。事実は逆で、「残忍なように見えるイスラム国を作って、テロとの戦いをずっと続けたい」。これが米国の本音。米国はイラク戦争で財政破綻しているので、「日本の金で戦争したい」も本音。

もちろん、こういった話をすぐさま信じ込んではいけないだろう。ただし次ぎのようなツイートを見出した。

Mister Ka‏@Mister_KaJust a reminder folks! That's #US senator John #McCain's friend Abu Bakr Al Baghdadi in both photos! #Ukraine #NATO

このツイートには”both photos!”とあるように、二枚の画像が貼り付けてある。









こういったことはわたくしが今の今まで知らなかっただけで、すこしでも「イスラム国」なるものに関心のある人は、とっくの昔に知っていることだろうとは思う。

ジョン・マケインとは、もちろん2008年に大統領候補として指名を受けた共和党の重鎮である。アブー・バクル・アル=バグダーディーとは、このところ話題の人物(「イスラム国」の自称カリフ)である。

少なくともジョン・マケインとバグダーディーとは知り合いであることが分かる。

二〇〇五年十一月、ブッシュ大統領は「われわれは拷問していない」と声高に主張しつつ、同時に、ジョン・マケインが提出した法案、すなわちアメリカの不利益になるとしして囚人の拷問を禁止する(ということは、拷問があるという事実をあっさり認めた)法案を拒否した。われわれはこの無定見を、公的言説、つまり社会的自我理想と、猥雑で超自我的な共犯者との間の引っ張り合いと解釈すべきであろう。もしまだ証拠が必要ならば、これもまたフロイトのいう超自我という概念が今なお現実性を保っていることの証拠である。(ジジェク『ラカンはこう読め!』鈴木晶訳)

どうやらジョン・マケインは、「斉藤道三」の資質をいまだ兼ね備えている人物らしい。

Senator John McCain’s Whoops Moment: Photographed Chilling With ISIS Chief Al-Baghdadi And Terrorist Muahmmad Noor!」から、もうひとつ画像だけを抜き出しておこう。




…………


ここまでだけにしておけばいいのだが、ややわたくしの趣味に合わないところがあるので、最後に「気品のある」プルーストの文章でも附記しておこう。


……ルグランダンに出会ったことについて父が家族の人たちの意見を求めていたあいだに私が台所におりていった日は、ジョットーの慈悲が産後非常にからだをわるくして、まだ起きあがれなかった日であり、フランソワーズは手つだう者がいないのでおくれていた。私が下におりたとき、彼女は鶏舎に面した下台所で一羽の若鶏を締めているところであったが、耳の下から首を落とそうと彼女が懸命になっている一方で、死物狂で、もちろん当然の抵抗をする若鶏が、かっとなったフランソワーズの「こん畜生! こん畜生!」のさけびを浴びているさまは、翌日の夕食に、その肌を上祭服さながらに金の刺繍でかざり、聖体器からたらされたその貴重な肉汁とともにあらわれる若鶏が、この私たちの老女中の聖なるやさしさと終油の秘蹟とをひきたたせるであろうとは対照的に、ここではいささかそれのマイナス面を露呈していた。若鶏が死んだとき、フランソワーズは血をしぼったが、その血がうらみがましく流れるので、彼女はまたしてもかっとのぼせあがり、敵の屍を見つめながら、もう一度最後に、「こん畜生!」といった。私はぞっとしてふるえながら上にあがったが、すぐにでもフランソワーズに暇を出してほしかった。しかし、それでは誰が私のためにつくってくれるだろう、あんなにあつい湯たんぽを、あんなにかおりの高いコーヒーを、そしてまた… あの若鶏の料理を?… じつのところ、誰もが私とおなじように、そのような卑怯な計算をしなくてはならなかったのだ。たとえばレオニー叔母はーーこのころ私がまだ知らなかったことだがーーフランソワーズがその娘や甥たちのためなら惜気もなく命を投げだしたであろうのに、他人には奇妙に冷酷であることを知っていた。にもかかわらず、叔母はフランソワーズを家にひきとめていた、というのも、フランソワーズの冷酷さは知りながら、その奉公ぶりを買っていたからだ。私にすこしずつわかったことは、フランソワーズのやさしさ、悔いあらため、さまざまな美徳が、下台所のさまざまの悲劇を秘めていたことで、教会のステーンド・グラスのなかに合掌した姿で描かれている王や王妃の治世が血なまぐさい事変に色どられたことを歴史があばくのと似ているのである。身内のものを除けば、彼女から遠く離れている人間の不幸ほど彼女のあわれみをそそったことを私は知った。新聞を読んでいて、彼女が見知らぬ人たちの不幸に流すおびただしい涙は、すこしでも明確に当人を思いうかべることができると、たちまちとまってしまうのであった。下働の女中がお産をしてからあとのある夜なかに、この女がはげしい腹痛に襲われた、ママはその悲鳴をきくと、とびおきて、寝ているフランソワーズを起こしたが、フランソワーズは平気で、そんな泣声はみんなお芝居だ、「奥さまぶり」たいのだ、と言いはなった。そういう発作をおそれていた医師は、私たちの家にそなえてあった医書のその症状が記載されているページにしおりをはさんで、最初にどんな手当が必要であるかを知るときに参照するようにと教えてくれていた。母はしおりを落とさないようにと注意をあたえながら、フランソワーズにその医書をさがしにやった。一時間経ってもフランソワーズはもどってこなかったのおで、腹を立てた母は、フランソワーズがまた寝てしまったのだと思い、私に自分で本棚のことろへ見に行くようにといった。私はそこにフランソワーズがいるのを見つけたが、彼女はしおりがはさんであるところをひらき、その発作の臨床記述を読んでいて、そこに出ている彼女が知りもしないあるモデル・ケースの病人の身の上に声をあげてすすり泣いているのであった。解説書の著者が挙げている苦しい徴候の一つ一つに彼女は大きな声をあげていた、「なんとまあ! 聖女さま、そんなことがあるのでようか、神さまが不幸なひとをこれほど苦しめようとなさるなんて? ああ! かわいそうなひと!」

ところが、私に呼びとめられ、ジョットーの慈悲のそばにもどるやいなや、フランソワーズの涙はたちまち流れなくなった。彼女のお手のものであり、彼女が新聞を読んでいてしばしばそそられた、あわれみと涙もろさのあの快い感覚も、またそれど同系統のどんなたのしさも、真夜なかに下働の女中のために起こされたというにくらしさといらだたしさで、何一つ感じることができず、さきほどの記述にあったのとおなじ苦しみを目のまえにしながら、彼女はおそろしいあてこすりさえまじった不機嫌な小言を口にするだけであった、そして自分のいうことが部屋を出ていった私たちにもうきこえるはずがないと思ったとき、彼女がいったのはこうだった、「この女もあんなことさえしなければこうはならなかったのに! さんざんおたのしみをしたのだからね! いまさらもったいぶるのはごめんだよ! とにかくこいつといっしょになったために、あたら若い男が一人神さまから見はなされなくてはならなかったのだもの。ああ! 死んだ母さんの田舎の言葉でよく人がこういっていた、

犬のお尻にほれてしまえば、
犬のお尻もばらの花。(プルースト「スワン家のほうへ」井上究一郎訳)


Islamists killing a woman by slitting her throat and capturing her blood in a bowl,


ーー「さあお前たち、呪われたやつらめ、この美しい観物を堪能するまで味わうがよい!」(プラトン)


さあて、おわかりだろうか?

千葉望 ‏@cnozomi 2月3日
私たちができることはISILが望んでいる「映像の拡散」をしないことです。彼らの戦術に加担するな。

よい子たちは、ニーチェもプルーストもバタイユも読んではならぬ! もちろん、このようなブログ記事も読むべきではない!  

ISIL(アイシル)の戦術だと? ツイッターで流通する「善意」の紋切型のひとつだ。共感の共同体の住人は、このたぐいのツイートを読んで湿った瞳を交わし合い頷き合っておればよろしい!

この共同体では人々は慰め合い哀れみ合うことはしても、災害の原因となる条件を解明したり災害の原因を生み出したありその危険性を隠蔽した者たちを探し出し、糾問し、処罰することは行われない。(酒井直樹「共感の共同体批判」

共感の共同体ーー「土人の国」(浅田彰)-ーにおける精神の腐臭、その典型的な振舞いとはどんなものだというのか。

現代日本の精神構造は、中世の魔女裁判のときやヒットラーのユダヤ人迫害のときの精神構造とそれほど隔たったものではない。ほとんどの人は安心してみんなと同じ言葉をみんなと同じように語る。同じ人に対して同じように怒りをぶつける。同じ人に対して同じように賞賛する。(中島義道『醜い日本の私』)

もちろん、われわれはムスリムたちが日々こういった目に遭遇していることを知らせる画像も流通させてはならぬ。





分離壁構築による「至上最大の強制収容所」化も知るべきではない!

「分離壁」は,西岸地区再占領作戦が始まった2002年に着工された。高さ8メートルのコンクリート壁,壕,有刺鉄線,通電柵,無人地帯,あるいはこれらの組み合わせからなり,監視塔と鉄扉がある。出入りの際はイスラエル兵のチェックを受ける。 「分離壁」は,マアレ ・ アドミーム,アリエルなど主要な入植地を取り込むため,グリーン・ライン(1967年の軍事境界線)から西岸地区に深く切れ込み,場所によっては,パレスチナ人の市町村全体を取り囲む。当初は,自国民を「テロリストの攻撃から守る」ためだとされたが,間もなく,イスラエルは,この「壁」で取り込んだ地域をイスラエル領として併合する意図であることを明らかにした。

提訴をうけた国際司法裁判所は,2004年7月,グリーン・ラインより西岸地区内にはいった「壁」の建設は違法だとして,壁の撤去と,住民が被った損害への補償を勧告した。同月26日には,イスラエルに国際司法栽のパレスチナ問題と国連勧告に従うよう求めた国連総会決議が150-6-10で採択されたが) ,イスラエルはこれらを無視して「壁」建設を続行した。 「壁」は2010年夏までに520kmが完成,計画通りだと,最終的には全長810kmで,西岸地区の46%をイスラエル側に取り込むことになる。((パレスチナ問題と国連 ─最終講義(2011年12月22日)の記録─奈良本英佑http://repo.lib.hosei.ac.jp/bitstream/10114/6991/1/79-4naramoto.pdf)





◆中東和平を分断する分離壁 ――イスラエル・パレスチナ間自治交渉と西岸地区の将来的選択肢――飛奈裕美

国連のデータによれば、分離壁 ・ フェンスの建設によって、23 万 7000 人のパレスチナ人がグリー ンラインと壁・フェンスの間に挟まれて西岸地区の他の地域から孤立する。また、16 万人のパレ スチナ人が、西岸地区側に置かれながらほぼ完全に壁・フェンスに囲まれて孤立する。これらの孤 立した地域では、住民の移動が大幅に制限され、日常生活に大きな支障がもたらされている。イス ラエルは、 これらの孤立した地域に住むパレスチナ人に対して、 壁 ・ フェンスに設置されているゲー トを定期的に開けることによって農地や他の西岸地域へのアクセスを可能にし、日常生活への支障 がないよう措置をとると主張している。しかし、多くの地域では軍がゲートを閉鎖し、農民の農地 へのアクセスや、住民の他の西岸地区にある職場、学校、医療施設へのアクセスは大きく妨げられ ている。現在でも西岸地区で適用されているオスマン朝時代の法律は、3 年間耕作されなかった土地は政府によって接収されると定めている。イスラエルは、 この法律を適用することによって、 壁 ・ フェンスによってパレスチナ農民がアクセスできなくなった農地を「合法的」に接収し国有化する ことが可能なのである[Reinhart 2006: 168] 。  

孤立した地域におけるこのような生存手段の剥奪は、パレスチナ住民の「民族浄化」を促すもの だとレインハルトは主張する。農地へアクセスできず収入源を失った農民、職場・学校・医療サー ビスへのアクセスを制限された住民は、他の西岸地域に生活の基盤を移さざるをえず、孤立した地 域を去ることを強制されるだろうというのである。そして、このようにしてイスラエルと西岸地区 の境界線に沿った一部の地域で、 パレスチナ人の 「民族浄化」 が進むだろうと推測している [Reinhart 2006: 169] 。実際、2003 年に壁・フェンスが完成したカルキリヤでは、パレスチナ人の「浄化」が 既に始まっているという。カルキリヤは従来、経済と農業の中心地として繁栄していた。しかし、 分離壁はカルキリヤをほぼ完全に囲い込み、他の西岸地域と結ぶ唯一のゲートはイスラエル軍に よって完全に支配されている。孤立したカルキリヤからは、既に多くのパレスチナ人が生存の手段 を探すために他の西岸地区の町へ移住した[Reinhart 2006: 169–170] 。



末人たちにはそれにふさわしい読み物がある。
見よ! 私は君達に末人を示そう。
『愛って何? 創造って何? 憧憬(あこがれ)って何? 星って何?』―こう末人は問い、まばたきをする。

そのとき大地は小さくなっている。その上を末人が飛び跳ねる。末人は全てのものを小さくする。この種族はのみのように根絶できない。末人は一番長く生きる。

『われわれは幸福を発明した』―こう末人たちは言い、まばたきをする。
彼らは生き難い土地を去った、温かさが必要だから。彼らはまだ隣人を愛しており、隣人に身体を擦りつける、温かさが必要だから。…

ときおり少しの毒、それは快い夢を見させる。そして最後は多量の毒、快い死のために。…
人はもはや貧しくも豊かにもならない。どちらも面倒くさすぎる。支配する者もいないし、従う者もいない。どちらも面倒くさすぎる。

飼い主のいない、ひとつの畜群! 誰もが同じものを欲し、誰もが同じだ。考え方が違う者は、自ら精神病院へ向かう。(ニーチェ『ツァラトゥストラ』序説 手塚富雄訳)


安吾だってダメだ、森鴎外だってそうだ、おわかりだろうか?

壽阿彌の手紙には、多町の火事の條下に、一の奇聞が載せてある。此に其全文を擧げる。「永富町と申候處の銅物屋大釜の中にて、七人やけ死申候、(原註、親父一人、息子一人、十五歳に成候見せの者一人、丁穉三人、抱への鳶の者一人)外に十八歳に成候見せの者一人、丁穉一人、母一人、嫁一人、乳飮子一人、是等は助り申候、十八歳に成候者愚姪方にて去暮迄召仕候女の身寄之者、十五歳に成候者愚姪方へ通ひづとめの者の宅の向ふの大工の伜に御坐候、此銅物屋の親父夫婦貪慾強情にて、七年以前見せの手代一人土藏の三階にて腹切相果申候、此度は其恨なるべしと皆人申候、銅物屋の事故大釜二つ見せの前左右にあり、五箇年以前此邊出火之節、向ふ側計燒失にて、道幅も格別廣き處故、今度ものがれ可申、さ候はば外へ立のくにも及ぶまじと申候に、鳶の者もさ樣に心得、いか樣にやけて參候とも、此大釜二つに水御坐候故、大丈夫助り候由に受合申候、十八歳に成候男は土藏の戸前をうちしまひ、是迄はたらき候へば、私方は多町一丁目にて、此所よりは火元へも近く候間、宅へ參り働き度、是より御暇被下れと申候て、自分親元へ働に歸り候故助り申候、此者の一處に居候間の事は演舌にて分り候へども、其跡は推量に御坐候へ共、とかく見せ藏、奧藏などに心のこり、父子共に立のき兼、鳶の者は受合旁故彼是仕候内に、火勢強く左右より燃かかり候故、そりや釜の中よといふやうな事にて釜へ入候處、釜は沸上り、烟りは吹かけ、大釜故入るには鍔を足懸りに入候へ共、出るには足がかりもなく、釜は熱く成旁にて死に候事と相見え申候、母と嫁と小兒と丁穉一人つれ、貧道弟子杵屋佐吉が裏に親類御坐候而夫へ立退候故助り申候、一つの釜へ父子と丁穉一人、一つの釜へ四人入候て相果申候、此事大評判にて、釜は檀那寺へ納候へ共、見物夥敷參候而不外聞の由にて、寺にては(自註、根津忠綱寺一向宗)門を閉候由に御坐候、死の縁無量とは申ながら、餘り變なることに御坐候故、御覽も御面倒なるべくとは奉存候へ共書付申候。」

此銅物屋は屋號三文字屋であつたことが、大郷信齋の道聽途説に由つて知られる。道聽途説は林若樹さんの所藏の書である。

 釜の話は此手紙の中で最も欣賞すべき文章である。叙事は精緻を極めて一の剩語をだに著けない。實に據つて文を行る間に、『そりや釜の中よ』以下の如き空想の發動を見る。壽阿彌は一部の書をも著さなかつた。しかしわたくしは壽阿彌がいかなる書をも著はすことを得る能文の人であつたことを信ずる。(森鴎外『寿阿弥の手紙』)

…………

別に投稿しようと思ったが、そうするまでもない気がしてきたので、ここに追記しておく。

パレスチナ問題の本質は,一言でいえば,移民国家建設に伴う,移民と先住民間の紛争である。このような紛争は,16世紀ごろからヨーロッパ人の大量移住先となった世界各地に見られる。パレスチナは,日本の九州よりも狭く,現在の人口は,イスラエルとその占領地(ガッザ地区と西岸地区)を合わせても1200万人程度に過ぎない) 。そのような地域紛争が,なぜ100年におよぶ国際紛争になったのか。それは, パレスチナが, ユーラシア大陸とアフリカ大陸の結節点,また,地中海交易圏とインド洋交易圏をつなぐ「陸橋」であり,戦略上の要衝に当るからだ。また,この土地が,ユダヤ教,キリスト教,イスラームという3大宗教共通の聖地をかかえているからでもある。

そのような土地であったからこそ,パレスチナをめぐる地域紛争は国際政治のテーマとなり,このテーマには,国連という国際機関が深く関与することになった。(パレスチナ問題と国連 ─最終講義(2011年12月22日)の記録─奈良本英佑http://repo.lib.hosei.ac.jp/bitstream/10114/6991/1/79-4naramoto.pdf)

《パレスチナ問題の本質は,一言でいえば,移民国家建設に伴う,移民と先住民間の紛争である》などとはっきり言明してくれる文章にいまだかつて遭遇したことがなく、この奈良本英佑氏の最終講義は、わたくしのような中東問題について寡聞の者には、とても勉強になる。もっとも。--念を押しておくがーー、この発言の正否が問題なのではない。そんな単純なものではない、という人びとがいるだろうことはもちろ思い遣ることができる。ただわたくしには、眠っていた想像力を刺激させてくれたり、己れの歴史音痴ぶりを諌めて少しは勉強しろよ、との促しを与えてくれる文章だということだ。

パレスチナ問題の当面の起源は、第一次世界大戦によって、オスマン帝国の滅亡、そして戦勝国のイギリスとフランスによる旧オスマン帝国領の分割によって、オスマン領土だったパレスチナ地方が英国委任統治になることに端を発する。そしてイギリス支配の下、パレスチナは、ユダヤ移民ラッシュに見舞われる。--この程度のことは知っていたが、その後、米国のシオニスト・ロビーの圧力に大きくよるのだろう、国連でのイスラエルの政策非難決議案の米国拒否権行使、《1972年9月以来、2011年12月現在までに40回を超える》(奈良本英佑)の詳細についてはほとんど無知あるいは忘却の身であった。



ユダヤ人がどの国に居住しているかを調べるとユダヤ人総人口1,358万人のうちイスラエルに570.4万人、米国に527.5万人と合わせて81%はこの2国に集中していることが分かる。(世界のユダヤ人人口


(A Timeline Of Israel & Palestine’s Claim To The Land: Who Came First?)


もちろんシオニズム国家イスラエルもガザ地区からロケット攻撃を受けているのを知らないわけではない。「イスラエルを含むどの国家も、その領土と人々がロケット攻撃に被られている時に、じっとしていることはできない」(ヒラリー・クリントン)――だから「報復」は正当化される・ ・ ・

《しかしパレスチナ人たちは、ヨルダン川西側地区が日々彼らに奪われている時に、じっとしているべきなのだろうか? 》(ジジェク

ニュースになりさえしない事件、たとえばシオニストがヨルダン川西岸で、日常的かつ「些細な」暴力、ーー《井戸に毒を入れ、木々を焼き払い、パレスチナ人をゆっくりと南に押しやってゆく》(ジジェク)――こんなことは、こうやって調べてみなければ、われわれの念頭には容易に浮びさえしない。



'Why are Palestinans attempting to enter Israel labelled "infiltrators"?' 

私が言いたいのはつまり――友だちを挑発するために言うのですがね、これも私の挑発 の一つです。「そう、私は右翼に賛成する。ヨーロッパの遺産、ユダヤ・キリスト教的な遺産 は危機に瀕している。しかし、彼らイスラームや何やらに反対している偽のヨーロッパの擁 護者たち、彼らこそが危機なのだ。私はヨーロッパのムスリムを恐れない。私が恐れるのは ヨーロッパの擁護者たちだ」。ユダヤ人の友だちにさえ言っているのです。「気を付けるん だ!今何が起きているか気付いているか?」と。(……)
イスラエル国家の代議士たちは、自分たちが何をしているのか気付いているのでしょうか?彼らは基本的に自分たちの魂を悪魔に売ったのです。それはこういう意味です。彼ら は西側の政治勢力と取引をしています。そして私に言わせればそれらの勢力は、本質的 に反ユダヤ主義なのです。

つまり、彼らが人種的なゲームをしても良いのなら、私たちにパレスティナ人と同じことを することを許せ、ということです。私は本当にユダヤ人のことを心配しています。ユダヤ人 は偉大な民族です。シオニストの政治は彼らを偏狭な自滅的国家に変えようとしています。

中東の紛争における真の犠牲者は、このカタストロフィックな政治において、ユダヤ人自身となることでしょう。彼らは、そのユニークさと偉大さを失うことになるかもしれません。(ジジェク「今や領野は開かれた」The interview on Talk to Al Jazeera: Now the Field is Open


共感の共同体の住人たちにも好まれるらいいアラブ学者池内恵の言い草も引用すべきかと思ったが、敬してやめておく、--「それで、どうした、ボウヤ?」と、ーーこれも最悪の紋切型が、わたくしの口から洩れそうになるから。

もっとも彼もこの類の手合いよりは、たしかに格段にましには違いない。

そこで注目を集めているのが「カワゆいカリフ制」などと言ってウェブ上のマニアから、内田樹氏のような頭の軽い現実感の薄い軽率な居座り系文系知識人にまで(前者と後者は同一かもしれないが)高く評価されてしまっていた中田考氏http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20141014/p2 …