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2015年11月3日火曜日

世界は驚くほど「平和」になっている(戦死者数推移)




War and Peace after 1945


世界はこの図表をみるかぎり驚くほど「平和」になっている。かつまた極東の小国が戦争法案なるものを通過させようがさせまいが、21世紀は、世界資本主義のせいもあり、大きな継続的戦争に突入しがたい構造がある。ようするに経済的利害が戦争に歯止めをかける傾向にあるはずだ(もちろん例外はある)。

では21世紀において、何が問題なのか。20世紀には今までになかったことが起こった。前世紀初頭ののヒトの数は20億だった。今、73億は間近で100億も遠くない。《こんなに急速に増えた動物の将来など予言できないが、危ういことだけは言える》(中井久夫)






人口増だけではない、同じ人口にかかわるなら、最も重要な問題のひとつは、世界が高齢化していることだ。







《地球にとってもっともよいのは、三分の二の人間が死ぬような仕組みをゆっくりとつくることではないでしょうか。》(ジジェク『ジジェク、革命を語る』)

最初に言っておきたいことがあります。地震が起こり、原発災害が起こって以来、日本人が忘れてしまっていることがあります。今年の3月まで、一体何が語られていたのか。リーマンショック以後の世界資本主義の危機と、少子化高齢化による日本経済の避けがたい衰退、そして、低成長社会にどう生きるか、というようなことです。別に地震のせいで、日本経済がだめになったのではない。今後、近いうちに、世界経済の危機が必ず訪れる。それなのに、「地震からの復興とビジネスチャンス」とか言っている人たちがいる。また、「自然エネルギーへの移行」と言う人たちがいる。こういう考えの前提には、経済成長を維持し世界資本主義の中での競争を続けるという考えがあるわけです。しかし、そのように言う人たちは、少し前まで彼らが恐れていたはずのことを完全に没却している。もともと、世界経済の破綻が迫っていたのだし、まちがいなく、今後にそれが来ます。( 柄谷行人「反原発デモが日本を変える」

さて、破綻が迫っているとは具体的には何だろう。ここでは世界経済の破綻とまでは言わないでおこう。

まずは、少子高齢化社会の世界的な進展は明らかであり、いままでのシステム(とくに先進諸国における)が成り立たなくなるのは自明であるだろう(韓国や中国でさえもうすぐとんでもないことが起るのは、上に掲げたグラフから明らかだ)。

すなわち、いままでのシステムはすでに限界期に入っている。そもそも、日本だけではなく先進諸国でこれだけ少子高齢化がすすんでいってしまえば、いままでの形での年金や健康保険などの社会保障制度がどうやって維持できるというのだろう?






現在のシステムが、いくらかの彌縫策を捻出すれば、何とかやりくりして維持できるだろうという認識を持っている連中は、《基本的な過ちを犯 している》。

……基本的な過ちを犯 している。ヨーロッパの体制側が依拠する筋書きは、巨大な赤字が金融部門の大規模な債務棚上げや不況期における政府の歳入の低落によって脹れ上がるという事実を曖昧にしている。アテネへの大規模な貸付は、ギリシアのフランスやドイツの巨大銀行に対する 債務支払のために用いられることになるだろう。欧州連合による債務保証の真の目的は、 民間銀行の救済にある。というのも、ユーロ圈の国家の1国でも破綻すれば、ユーロ圏全体が烈しい打撃を被るからである。他方で、抗議する側における筋書きは現代における左派の相も変わらぬ悲惨な状態を証して余りある。既存の福祉国家との妥協を一般的に拒否するにすぎないその要求に、具体的な計画的内容を見出すことはできない。ここに見ら れるユートピアはシステムの根源的な変更ではなく、福祉国家はシステム内部で維持可能だという思いつきである。
1つのことが明らかだ。それは、福祉国家を数10年にわたって享受した後に、相対的に 限界がある削減が、事態は急速に正常に戻るだろうという約束とともに、到来している現在、 われわれが、ある種の経済的非常事態が永遠のものとなり、生活様式にとって定常状態になった時代に突入した、という事実である。こうした事態は、給付の削減、医療や教育と いったサービスの逓減、そしてこれまで以上に不安定な雇用といった、より残酷な緊縮策の恫喝とともに、到来している。 左派は以下の点を強調するという困難な任務に直面しているのである。それは、われわれが政治経済学に対処していること、そうした危機に「自然なもの」など一切存在しないこ と、現行の世界経済システムは一連の政治的決断に左右されることなどである。他方で同時に、左派は次の点にも自覚的でなければならない。つまり、われわれが資本主義システムに留まる限り、その規則の侵犯は、実質的には、経済的破綻の原因となるということであ る。というのも、このシステムは、自然を装う資本自身の論理に従っているからである。したがって、われわれが世界市場の諸条件(外部化など)によっていよいよ容易になった搾取の強化という新局面に突入したことが明らかだとしても、同時に胆に銘じておかねばならないのは、こうした事態が、財政と金融の崩壊につねに瀕しているシステムそれ自体の機能 によって、圧し付けられているということである。 したがって、現下の危機は早晩解消され、ヨーロッパ資本主義がより多くの人びとに比較的高い生活水準を保証し続けるだろうといった希望を持ち続けることは、無益なのだ。(ジジェク、「永遠の経済的非常事態」2010 長原豊訳

老人だけ参戦する戦争が世界的に起れば別だが、現状の「平和」が続けば、すくなくとも先進諸国のシステムは近未来に破綻するだろう。考え方を根本的に変えなければならない。ヨーロッパ諸国のように移民に頼ることさえ、もう期待薄だ。

現状維持派の〈あなた〉はひそかに世界戦争の勃発を期待しているわけでもあるまい?

世界の現状は、米国の凋落でヘゲモニー国家不在となっており、次のヘゲモニーを握るために主要国が帝国主義的経済政策 で競っている。日清戦争 後の国際情勢の反復ともいえる。新たなヘゲモニー国家は、これまでのヘゲモニー国家を引き継ぐ要素が必要で、この点で中国 は不適格。私はインド がヘゲモニーを握る可能性もあると思う。その段階で、世界戦争が起こる可能性もあります。(柄谷行人、2013)

シツレイ! 口にしちゃいけないことを口にしてしまった・・・

本当のことを言うとね、空襲で焼かれたとき、やっぱり解放感ありました。震災でもそれがあるはずなんです。日常生活を破られるというのは大変な恐怖だし、喪失感も強いけど、一方には解放感が必ずある。でも、もうそれは口にしちゃいけないことになっているから。(古井由吉「新潮」2012年1月号又吉直樹対談) 

とはいえ、若い人たちは、戦争反対のデモをするのもいいが、そろそろ「真の問題」に気づいて、「老特会」でも結成したらどうだろう?(参照:「老特会」結成のすすめ


◆「ワカモノ・マニフェストYouth Policy 2009ー世代間格差の克服と持続可能な社会を目指してー」より




日本の財政は、世界一の超高齢社会の運営をしていくにあたり、極めて低い国民負担率と潤沢な引退層向け社会保障給付という点で最大の問題を抱えてしまっている。つまり、困窮した現役層への移転支出や将来への投資ではなく、引退層への資金移転のために財政赤字が大きいという特徴を有している。(「DIR30年プロジェクト「超高齢日本の30年展望」」(大和総研2013 より)

老特会が唐突であるなら、手始めにアベノミクス擁護はどうだろう?

岩井) アベノミクスの真の狙いが、お年寄りから若い世代への所得移転を促すことにあると いうのは正しい。そして、わたしはすでに年寄り世代ですが、それは望ましいことだと考えています。 (お金とは実体が存在しない最も純粋な投機である ゲスト:岩井克人・東京大学名誉教授【前編】

アベノミクス擁護が、現状では既ににあまりに倒錯的だという観点もあろうなら、すなおに消費税増推進運動なども考えられる。

実際にこのままだとインフレ政策しか道はない、日本のように「消費税率」を上げるのが、たちまち「悪」だと見なされてしまう国では、ことさらだ。

・消費税問題は、日本経済の形を決めるビジョンの問題。北欧型=高賃金、高福祉、高生産性か。英米型=低賃金、自助努力、労働者の生産性期待せずか。日本は岐路にある。

・日本のリベラルは増税と財政規模拡大に反対する。世界にない現象で不思議だ。高齢化という条件を選び取った財政拡大を。(「アベノミクスと日本経済の形を決めるビジョン」より)

《増税が難しければ、インフレ(による実質的な増税)しか途が残されていない恐れがあります。》(池尾和人、2015)

くり返せば、世界最先端の少子高齢化社会にもかかわらず消費税増、あるいは国民負担率増を「目先の正義」のために反対する庶民的「正義の味方」ばかりが跳梁跋扈している国では、インフレ政策しかない。

中福祉・中負担は幻想」(2013年9月12日 武藤敏郎)であるのは分かりきっているのに、いまだ幻想に耽りたいらしい輩ばかりが目立つ。

たとえ経済音痴であっても、日本語が読めるなら、「経済」を(根をつめて)一週間でも勉強すれば、必然的に次ぎのような結論がでるはずなのだが、連中はそんなことさえせず、いつまでも庶民的正義派として振舞いたいのだろう。

消費税も20%以上にした方が公平でしょう。所得税と法人税は、現在の現役世代が主な負担者になります。それに対して、社会保障の世代間格差には、現在の高齢者が、現役世代のときに負担しなかったことが大きく関わっています。だから、現在の高齢者もふくめて平等に負担する消費税の方が公平なのです。

世代間格差から考えると、人口が減少している現在、現役で働く世代に主な負担がかかる所得税や法人税はむしろ逆進的です。消費税の方が非逆進的で、公平な課税なのです。お年寄りの負担がよく話題にされますが、公平な社会福祉をめざすなら、お年寄りもふくめて全員で負担を分かちあって、それで生活保護などを充実させて、お年寄りも含めて、本当に貧しい人の生活を支援するべきです。

「増税」か「年金の抑制」か、ではないのです。「増税」して「年金も抑える」しかない。それが「ポスト戦後」社会の現実です。だからこそ、そのなかで、各世代が公平に負担を負うようにしなければならない。それが世代間格差を解消することなのです。(佐藤俊樹

いまここにいる生活困窮者への視点だけではにっちもさっちもいかないのだ。これのみが目に入るらしい庶民的正義派とは、将来世代(未来の他者)へ負担を先送りすることに汲々としている輩であり、「未来の他者」への最も冷酷な連中である(参照)。冷酷が言いすぎなら、アキメクラである。

…ハーバーマスは、公共的合意あるいは間主観性によって、カント的な倫理学を超えられると考えてきた。しかし、彼らは他者を、今ここにいる者たち、しかも規則を共有している者たちに限定している。死者や未来の人たちが考慮に入っていないのだ。

たとえば、今日、カントを否定し功利主義の立場から考えてきた倫理学者たちが、環境問題に関して、或るアポリアに直面している。現在の人間は快適な文明生活を享受するために大量の廃棄物を出すが、それを将来の世代が引き受けることになる。現在生きている大人たちの「公共的合意」は成立するだろう、それがまだ西洋や先進国の間に限定されているとしても。しかし、未来の人間との対話や合意はありえない。(柄谷行人『トランスクリティーク』P191-192)
簡単に「政治家が悪い」という批判は責任ある態度だとは思いません。

 しかしながら事実問題として、政治がそういった役割から逃げている状態が続いたことが財政赤字の累積となっています。負担の配分をしようとする時、今生きている人たちの間でしようとしても、い ろいろ文句が出て調整できないので、まだ生まれていない、だから文句も言えない将来世代に負担を押しつけることをやってきたわけです。(経済再生 の鍵は 不確実性の解消 (池尾和人 大崎貞和)ーー野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部2011ーー二十一世紀の歴史の退行と家族、あるいは社会保障)

いずれにせよ、庶民的正義派である彼らを寝言派という。

《道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である》(二宮尊徳)

公的債務とは、《親が子供に、相続放棄できない借金を負わせること》(ジャック・アタリ)にかかわるにもかかわらず、日本には消費税(国民負担率)増反対をコトアルゴトに主張するのが正義だと勘違いしている「極道たち」がウヨウヨしている。

…………

もちろん、われわれはここでピケティを思い起すこともできるのだろう。

■ピケティの衝撃が突き付けた2つの事実

ピケティの衝撃は2つの事実を突きつけました。1つは「落ち水効果」の不在、つまり、豊かな層から貧しい層へ豊かさが波及していく「トリクルダウン」は起きない、ということです。

2番目は、戦後の先進国や中進国でみられた急速な経済成長と豊かさ水準の向上は、1回きりの現象だということです。例えば日本の1950〜70年代のようにみんなが豊かになっていける状態はいつまでも続かないし、再び起きることも期待できないんです。その意味で、パイの拡大は不平等の本当の解決策にはなりません。

ピケティが不平等について言った本当に革新的なこと、経済学者があまり言ってこなかったことは、結局「経済で再分配は決まらない」ということです。トリクルダウンが起きないなら、経済の仕組みによって、みんなで自然に豊かになったりはしません。急激な経済成長が一度きりならば、パイの拡大は恒常的な解決策にはなりません。

だから不平等は、社会による再分配によって解いていくしかないのです。それが、格差の問題として今、突き付けられています。すべての先進国や中進国でそうなっていますが、とりわけ日本など東アジアの社会では、これが強く圧縮された形で起きています。欧米では200年くらいかかった経済と社会の転換を、非常に短い時間で経験しているからです。(「世代間格差の解決策は、預金を持って死ぬこと」佐藤俊樹・東大教授に聞く


《ピケティはユートピアンだよ、……すばらしいねえ、金持ちに80%タックスなんてね。しかも一国内でやったら税逃れがあるに決まってんだから、世界的にやろうっていうんだろ? ピケティ自身もいってるらしいな、資本に対する累進課税は、「ユートピア的」だってさ。どんな意味のユートピアか知らないが。

ピケティはわれわれを騙してんだよ、《 I think in this sense he cheats》--もっとも過去の経済データを分析するその膨大な手法の価値がそれで減るわけではないさ。お勉強にはいいんじゃないか。

オレはピケティに反対してるわけじゃないよ、80%のグローバル累進課税なんてすばらしいじゃないか。ああなんというユートピア! ただ問題は、それをしたら、金持連中は、逃道をさがすに決まってることだな。》(ピケティ、フリードマン、ジジェク三幅対


ベーシックインカムやフリードマンの負の所得税ならどうだって?

ーーさあね、消費税率30%ほどにしたらいけるかもな、(参照:「見えざる手(Invisible Hand)」と「消費税」(岩井克人))。